第四部 第一話 ~終わりの通知は昼に来る~
ゆうまの「い」がげんかいをむかえた。
結局、件の女性からはお断りの連絡が来た。
それは昼過ぎ、
ロンドンのオフィスで資料を確認している最中だった。
スマートフォンが、机の端で小さく震える。
(……来たな)
理由は分かっていた。
分かっていたから、すぐには手に取らなかった。
ペン先で資料の余白を一度だけなぞってから、
ようやく画面を見る。
丁寧な文章だった。
礼儀正しく、理路整然としていて、
感情の起伏がない。
それが、
はっきりとした「終わり」を意味している。
> たくさん考えましたが、
> 今回のお話はここまでにしてください。
画面を閉じる。
(……振られた)
言葉にすれば、それだけだ。
怒りはない。
相手を責める気持ちもない。
ただ、胸の奥に重たいものが落ちる。
(……ちゃんと、考えた結果だ)
それが分かるから、余計に効いた。
悠馬は、そのまま資料に視線を戻した。
戻したが、文字が頭に入ってこない。
(……最初のフランス、だったな)
唐突に思い出す。
理由も分からない謎のモテ期。
距離の近さ。
逃げ回った自分。
そこから、
ノアの結婚。
当然のように「次は君だ」と言われた違和感。
エド叔父のレッスン。
観察され、測られ、
「できるかどうか」を試される感覚。
爆弾のように同行させられた二回目のフランス。
そして、
第二フェーズと呼ばれた「有能嫁計画」。
(……全部、胃に来るやつだ)
気づけば、自分の選択というより「流れ」に乗っていた。
誠実でいようとした。
相手を尊重しようとした。
失礼にならないように、
下げて、下げて、下げた。
その結果が、この通知だ。
(……負けた、のか)
そう思って、少しだけ苦笑する
(……でも、変な負け方じゃない)
そう思おうとした時点で、すでに無理をしている。
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「佐伯」
声をかけられて、顔を上げる。
「午後の打ち合わせ、条件詰めておいて」
「……はい」
即答。
自分でも驚くほど、声は普通だった。
周囲から見れば、悠馬はいつも通りだ。
冷静で、淡々としていて、感情を表に出さない。
「……君って本当に冷たいよね」
冗談めかした一言が飛んでくる。
「必要であれば、温度は調整しますが」
いつもの返し。
場が、小さく笑う。
(……冷たいんじゃない)
(……余裕が、ないだけだ)
だが、その余裕がどこに行ったのか、
悠馬自身にも分からなかった。
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休憩時間。
コーヒーを淹れる。
砂糖は三杯。
一杯減らそうとして、スプーンを止めたが、結局もう一杯入れた。
(……今日は、減らせない)
甘さが喉を通る。
少しだけ、息ができる。
(……ちゃんと凹んでるな)
自覚できる分、まだ大丈夫だと思った。
だが、身体は正直だった。
午後の会議室。
資料を説明している最中、視界の端がわずかに揺れた。
(……あ)
床が、一瞬近づく。
「……少し、失礼」
そう言おうとして、声が出なかった。
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その日の夕方。
悠馬は、自分の席で机に手をついていた。
(……立て)
(……まだ、仕事が)
頭では分かっているのに、足が言うことを聞かない。
次の瞬間、世界が斜めになった。
「佐伯!?」
誰かの声。
床の冷たさ。
(……ああ)
(……これ、やばいやつだ)
最後に浮かんだのは、どうでもいい考えだった。
(……ノア、呼ばなくていい)
(……姫抱っこ、される)
そこで、意識が途切れた。
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この時点で、悠馬はまだ知らない。
この先に、
白衣の天使がいることも、初めて優しくされて
勘違いする自分も、二ヶ月かけて
丁寧に、丁寧に、振られる未来も。
今はただ、
『終わりの通知が、昼に来た。』
それだけだった。
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**** 次回予告****
目を覚ました先は、白い天井。
そして、柔らかい声。
「大丈夫ですか」
——それだけで、落ちる男がいる。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




