第三部 第十八話 ~お見合い相手に“業務メール”を送ってしまう男~
いっそノアが代筆を・・・
翌朝。
悠馬は、キッチンのテーブルに座り、スマホを前にしていた。
コーヒー。
砂糖三杯。
(……よし)
よし、とは言ったが、何がよしかは分からない。
画面には、あの一文。
> それでも、もう一度お会いしたいと思っています
(……それでも、って何だよ)
悠馬は、深く息を吸い、指を動かし始めた。
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まず、定型。
> ご連絡ありがとうございます。
(……無難)
次、背景整理。
> 先日はお時間をいただき、ありがとうございました。
(……完全に打ち合わせ後)
次、現状報告。
> 現在の状況を踏まえ、慎重に検討しております。
(……誰だよこの会社)
ここで、ノアがトーストをかじりながら後ろから覗き込んだ。
「……兄さん」
「……何だ」
「それ、”業務メール”だよね?」
「……違う」
「どこが」
悠馬は、真剣に考えた。
「……宛先が個人」
ノア、一瞬黙る。
「内容が完全に法人」
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悠馬は、そのまま続けた。
> もう一度お会いする件につきましては、
> 前向きに検討しておりますが、
> 即断は難しい状況です。
ノア、口を開ける。
「“件につきましては”!?」
「……問題あるか」
「全部」
悠馬は、さらに畳みかける。
> そのため、
> お互いのペースを尊重した形で
> お話しできればと考えております。
ノア、スマホを奪う勢い。
「やめて!!それもう契約書前文!!」
「……失礼ではないだろ」
「丁寧すぎて怖いんだよ!!」
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悠馬は、一応、“柔らかくしたつもり”の一文を足した。
> お話しできた時間は、
> 個人的にも有意義でした。
ノア、天井を見る。
「“有意義”……」
「……何だ」
「兄さん、それ”決算報告書”で見たことある」
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悠馬は、スマホを見つめる。
(……おかしいな)
(……全部、本音なんだが)
迷っている。
即答できない。
でも、嫌ではない。
それを、正確に書いたつもりだ。
「……送るぞ」
ノア、即座に止める。
「待って」
「……何だ」
「今の文章、”感情ゼロ”」
「……感情をどう入れる」
「“検討しております”を“考えてます”に変えるとか!」
「……それは曖昧すぎる」
「恋愛は曖昧なもんだよ!!」
「……仕様が不明確だ」
ノア、頭を抱える。
「兄さんさ」
「今、”恋愛相手に稟議出してる”」
「……失礼だろうか」
「ドン引き案件」
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沈黙。
悠馬は、砂糖三杯のコーヒーを飲む。
(……落ち着け)
そして、少しだけ書き直した。
> 正直に言うと、
> まだ迷っています。
>
> ただ、
> お話しできた時間は
> 嫌ではありませんでした。
ノア、画面を見てようやく頷く。
「……まだ業務寄りだけど」
「……許容範囲」
「……送るぞ」
「……どうぞ」
送信。
スマホを伏せる。
「……送った」
ノアは、しばらく黙ってから言った。
「兄さん」
「……何だ」
「それ、”過去一で人間っぽい業務メール”」
「……褒めているのか」
「褒めてない」
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数分後。
スマホが震えた。
悠馬、びくっとする。
(……早い)
画面を確認。
> ご連絡ありがとうございます
>
> 丁寧に伝えてくださって嬉しいです
> そのペースで大丈夫です
>
> また、無理のない形で
> お話しできたらと思います
悠馬は、しばらく固まった。
「……ノア」
「なに」
「……通った」
ノア、爆笑。
「通ったwww」
「……何が」
「”業務メールでも通る人には通るんだね”」
悠馬は、ソファにもたれた。
「……返事しただけで疲れた」
「そりゃそうだよ」
ノアは、にやっと笑う。
「兄さん、今、
”結婚前提お見合いを
プロジェクト管理してる”」
「……やめろ」
でも、否定できない。
こうして。
『お見合い相手への返事は、業務メール寄りのまま成立した。』
ノアのドン引きと引き換えに。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




