第三部 第十六話 ~それでも会いたい、と言われた結果~
強敵(?)現る
返事は、思っていたよりも早かった。
秘書経由ではない。
エド叔父からでもない。
――本人から、だった。
> 先日はありがとうございました
>
> 生活の話も、
> 正直なご意見も、
> とても参考になりました
>
> それでも、
> もう一度お会いしたいと思っています
悠馬は、その文面を三回読んだ。
(……それでも)
(……会いたい)
条件は出した。
苦手も言った。
雑談が怖いとも言った。
(……全部、開示したよな)
それなのに。
(……それでも、来るのか)
胃が、きゅっと音を立てた。
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その日の夜。
ハミルトン邸の自室で、悠馬はソファに沈み込んでいた。
(……これは)
(……どう返すのが正解だ)
仕事なら、即答できる。
条件を満たすか。満たさないか。
だが、今回は違う。
(……“会いたい”に条件は付けられない)
逃げ道を探す。
(……忙しい)
(……時期が悪い)
(……今は無理)
どれも、すでに使った。
(……もう、理由がない)
「……ノア」
助けを求める。
ノアは、スマホを見ながらあっさり言った。
「来た?」
「……来た」
「それでも?」
「……それでも」
ノアは、少し考えてから言う。
「それ、兄さんの”完全敗北”だね」
「……だよな」
否定できない。
「条件出して、距離感説明して、雑談苦手って言って」
「それでも来るって」
「……全部、受け取られてる」
ノアは、肩をすくめた。
「だから、もう“回避”はできない」
「……つまり」
「”選ぶしかない”」
(……詰み)
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数日後。
二度目の食事。
前回よりも、少しだけカジュアルな店だった。
「今日は、あまり考えなくていい場所にしました」
その一言で、悠馬はすでに負けを悟った。
(……配慮、されてる)
会話は、前回よりも少なかった。
生活の話は、ほとんどしない。
仕事の話も、控えめ。
沈黙が、そのまま置かれる。
(……これは)
(……逃げ場がない)
「佐伯さん」
相手が、静かに言う。
「前回、雑談が苦手だとおっしゃっていましたよね」
「……はい」
「無理に話さなくていいと思っています」
(……え)
「でも」
一拍。
「”一緒にいる時間は欲しい”」
悠馬の脳が、完全に止まった。
(……一緒にいる)
(……何もしなくて?)
(……会話しなくても?)
「それって……」
声が、少しだけ震える。
「……何をすればいいんでしょう」
正直な質問だった。
相手は、困ったように笑った。
「分かりません」
(……は?)
「分かりませんが」
視線が、逸れない。
「”一緒に分からないままで
いられるかどうか”を知りたいです」
――完敗。
悠馬は、その瞬間、完全に理解した。
(……これは)
(……論破だ)
条件も、
距離も、
理屈も。
全部、通用しない。
「……それは」
喉が、少しだけ詰まる。
「……怖いですね」
ようやく出た、本音だった。
相手は、小さく頷いた。
「私もです」
(……同じ土俵)
悠馬は、深く息を吐いた。
(……これは)
(……勝ち負けの話じゃない)
(……でも、俺は今、確実に負けている)
二度目の食事は、穏やかに終わった。
結論は、出ていない。
しかし。
悠馬は、自分が”初めて“感情で押された
ことを認めざるを得なかった。
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帰宅後。ノアが、即座に聞く。
「どうだった?」
「……惨敗」
即答。
「理由は?」
「……理屈が全部、通らなかった」
ノアは、少し驚いてから、楽しそうに笑った。
「それ、兄さんにとっては事件だね」
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




