第三部 第十二話 ~有能嫁計画・第二フェーズ:静かに始まる~
裏設定的な話
ハミルトン邸のあるウィルトシャーからロンドンのフラットまでは2時間半くらい想定くらいかな。
なので時々ちゃんと戻りますが、ノアにとっては実家、悠馬君にとってはまぁ家がある、くらいで実家というくらいの落ち着きはないかも。
ちなみに悠馬君の両親もここが拠点です。
それは、特別な合図もなく始まった。
ハミルトン邸の朝は、
いつも通りだった。
紅茶の香り。
整えられた書類。
穏やかな空気。
佐伯悠馬は、
いつもの席で
コーヒーを飲んでいた。
砂糖は、二杯。
(三杯じゃなくても、いけるようになったな)
そんなことを
ぼんやり考えている時点で、すでに少し変わっている。
「悠馬」
エド叔父が、いつもと同じ声で呼ぶ。
「……はい」
「今日は、予定は?」
「午後に一件、打ち合わせが」
「そうか」
それだけ。
何も、言われない。
だけど。
(……言われない、ということは)
悠馬は、フランスで学んだ。
”何も言われない時ほど、何かが動いている。”
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その日の午後。
打ち合わせは、予定より早く終わった。
資料をまとめ、立ち上がろうとした時。
「佐伯さん」
声をかけてきたのは、見慣れない女性だった。
年齢は、悠馬より少し上か、同じくらい。
派手さはない。
だが、仕事の場に自然に溶け込む佇まい。
「エドワードから、ご紹介いただきました」
――来た。
(……これは)
第一フェーズのような
「会わせますよ」
という圧はない。
ただ、“自然に紹介された”だけ。
「……佐伯です」
名刺を交換する。
肩書きに、相手の表情が変わる。だが、踏み込まない。
(……違う)
これまでと、明らかに違う。
「今日の資料、とても分かりやすかったです」
仕事の話。
「質問しても?」
「もちろん」
淡々と。
雑談ではない。だが、評価でもない。
(……仕事の人だ)
会話は、必要な分だけで終わった。
「また、ご一緒できたら」
その言い方も、軽い。
(……“また会おう”の重いやつじゃない)
相手は、それ以上踏み込まなかった。
立ち去る背中を見送りながら、悠馬は気づく。
(……これ、第二フェーズだ)
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夕方。
邸に戻ると、ノアがソファでスマホを見ていた。
「……今日、誰か紹介された?」
「……ああ」
ノアは、画面から目を上げる。
「で?」
「仕事の人だ」
「へえ」
少し間。
「それだけ?」
「それだけ」
ノアは、一瞬だけ考えてから、にやっと笑う。
「……父上、やり方変えたね」
「……ああ」
悠馬も、同じことを思っていた。
フランスのような“場を用意する”やり方ではない。
比較も、
即決も、
迫られない。
(……選ばせない代わりに)
(……“置いていく”)
気づいたら、そこに人がいる。
気づいたら、会話が成立している。
そして。
『選ぶかどうかは、こちらに残される。』
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夜。
自室で、悠馬は一人、カレンダーを眺めていた。
新しい予定は、入っていない。
だけど、空白が少しだけ違って見える。
(……詰められてない)
(……でも、逃げてもいない)
第二フェーズは、「急かさない」。
その代わり、”自分で気づくまで待つ”。
「……性格、悪いな」
ぽつりと呟いて、小さく笑った。
だが、嫌ではなかった。
フランスで、線を引き。
友人づくりで、距離を学び。
今は、選択を保留できている。
(……これなら)
「……壊れない」
その時、ノアから短いメッセージが来た。
> 父上、今日は
> 機嫌いいよ
>
> ※多分、
> 第二段階
「……だろうな」
返信は、しなかった。
必要ない。
今の悠馬は、もう分かっている。
有能嫁計画・第二フェーズは、
”静かに、確実に、こちらの足元を固めに来ている”。
でも。
第一フェーズとは、違う。
今度は、悠馬が考える時間を持っている。
それだけで、十分な変化だった。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




