第三部 第十話 ~「また会おう」と言われるだけで人は詰む~
悠馬君成長する、の回
コーヒーは、いつの間にか空になっていた。
砂糖三杯分の甘さが、まだ口の中に残っている。
(……落ち着いてる)
佐伯悠馬は、
それを自覚してから、逆に少し警戒した。
落ち着いている時ほど、何かが起きる。
「そろそろ行く?」
ノアの友人が、時計を見て言った。
「今日はありがと。面白かった」
(……面白い)
最悪の評価ワードが、
今日何度目か分からないくらい胸に刺さる。
「こちらこそ」
悠馬は、とりあえず礼を言った。
(……これで、終わりだな)
そう思った、その瞬間。
「じゃあさ」
友人が、ごく自然な調子で言う。
「”また会おう”」
――来た。
悠馬の脳が、一瞬、真っ白になる。
(……また?)
(……いつ?)
(……何の目的で?)
(……頻度は?)
(……連絡先、交換?)
(……これは仕事じゃない)
一秒の間に、十個くらいの思考が走った。
「……あ」
声が、変なところで止まる。
ノアが、横で気づいた。
(あ、詰んだ)
「兄さん?」
「……いや」
悠馬は、必死に平静を装う。
「……その、予定が……」
(……予定?何の?)
(……休日は何もしてないだろ)
「……分からなくて」
完全に、しどろもどろだ。
友人は、不思議そうに首を傾げた。
「今すぐじゃなくていいよ?」
「来週とか、再来週とか」
(……未来の話をするな)
ノアは、さすがに助け舟を出した。
「兄さん、雑談に“次回予告”
来るの慣れてないんだよ」
(……言うな)
友人は、一瞬考えてから、にやっと笑った。
「あー……」
「なるほど」
「佐伯さん、
”今この場で終わる会話”だと思ってたでしょ」
――図星。
悠馬は、返事ができなかった。
「大丈夫」
友人は、軽く手を振る。
「断ってもいいし、忘れてもいいし」
「ただ、
“また会おう”って言ってみただけ」
(……それだけでこんなに胃が動くのか)
「……すみません」
悠馬は、正直に言った。
「その……急に未来の話をされると」
一拍。
「……処理が、追いつかなくて」
友人は、驚いた顔をしてから、すぐに笑った。
「正直だね」
「でも、それ言ってくれてありがとう」
ノアは、内心で頷く。
(……言えたな)
「じゃあ」
友人は、立ち上がりながら言う。
「今日はここまでで」
「“また会おう”は、保留でいいや」
(……助かった)
三人で、店を出る。
外の空気が、ひんやりしている。
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歩きながら、悠馬は、さっきから
胸に引っかかっている言葉をようやく口にした。
「……ノア」
「なに?」
「……雑談って」
一拍。
「……疲れるな」
ノアは、驚いた顔をした。
それから、ゆっくり笑う。
「うん」
「だと思う」
「……そんなの、分かるのか」
「分かるよ」
ノアは、軽く肩をすくめる。
「兄さん、
雑談を“ちゃんとやろう”
とするでしょ」
「……ああ」
「だから疲れる」
(……なるほど)
「でもさ」
ノアは、少しだけ真面目な声になった。
「今日の兄さん、ちゃんと
“疲れた”って言えたじゃん」
悠馬は、歩きながら考える。
(……確かに)
前なら、
「問題ない」
で終わらせていた。
「……疲れるけど」
ぽつりと、もう一度言う。
「……嫌ではない」
ノアは、
一瞬だけ驚いてから、にやっと笑った。
「それ、結構大事なやつ」
「……そうか」
「うん」
二人で、少しだけ歩く。
雑談は、終わっている。
でも。
(……また会おう、か)
その言葉が、さっきほど重くない。
保留。
未定。
選択しなくていい未来。
(……それなら)
悠馬は、心の中でそっとメモを取った。
『雑談:疲れる。
でも、即拒否するほどではない。』
有能嫁計画とは、まったく別のところで。
悠馬の世界に、小さな“余白”ができ始めていた。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




