第三部 第八話 ~コーヒー一杯分の距離~
ノアは友達100人居そう
その店は、ノアの行きつけだった。
ロンドンの中心から少し外れた通りにあって、
観光客も少なく、
「仕事の話をしなくていい人」が集まる場所らしい。
(……ここ、会議室じゃないな)
佐伯悠馬は、店に入った瞬間、そう思った。
そして同時に、どう振る舞えばいいのか分からなくなった。
木のテーブル。
雑多な会話音。
誰も資料を持っていない。
「兄さん、ここ」
ノアが手を振る。
向かいには、ノアの友人が一人座っていた。
年齢は同じくらい。
服装はラフ。
視線がやたら柔らかい。
「はじめまして」
握手。
悠馬は反射的に距離を測る。
――近すぎない。
――遠すぎない。
――無難。
(……無難、って何だ)
席に着く。
コーヒーが運ばれる。
「砂糖は?」
悠馬は、条件反射で答えた。
「……いりません」
一拍。
ノアが、即座に口を挟む。
「嘘」
「……何が」
「兄さん、普段 砂糖三杯 でしょ」
――静止。
友人が目を丸くする。
「三杯!?」
悠馬の耳が、ほんのり赤くなる。
「……家では、ですが」
ノアは満足そうに頷いた。
「ほら、出た」
友人は吹き出した。
「なにそれ、可愛い」
(……可愛い?)
理解不能。
だが、
砂糖を三杯入れて、スプーンを回した瞬間、
肩の力がすっと抜けた。
(……落ち着く)
その変化を、友人は見逃さなかった。
「仕事の時と、顔が全然違うね」
「そうですか」
「うん。今の方が普通」
(……普通)
会話が始まる。
ノアの近況。誰と会ったか。どこに行ったか。
悠馬は聞き役に回る。いや、分析役に回ってしまう。
(目的のない会話)
(結論なし)
(オチもない)
(……どう参加する)
友人が視線を向ける。
「佐伯さんは?」
来た。
「……何を話せば」
一瞬、場が止まる。
だが友人は笑う。
「何でも」
(……範囲が広すぎる)
悠馬は考えた末、無難な答えを選んだ。
「……最近は、出張が長くて」
「大変そう」
「……はい」
沈黙。
ノアが助け舟を出す。
「兄さん、カフェ来るの珍しいんだよ」
(余計な情報)
友人は興味深そうに言う。
「へえ。休日は何してるの?」
――地雷。
悠馬は固まった。
(……何してる?)
仕事。
資料。
移動。
それ以外が出てこない。
「……特に」
正直な答えだった。
友人は一瞬驚いてから、笑った。
「正直だね」
そして、何気なく言った。
「佐伯さんって、人と話す時、距離が一定だよね」
悠馬の眉間に、無意識にしわが寄る。
「……そうですか」
「近づきすぎないし、離れもしない。
なんか測ってる感じ」
ノアの心の声。
(あ、始まった)
「嫌じゃないよ?」
「むしろ安心する」
一拍。
「でも、友達としてはちょっと不思議」
――刺さった。
悠馬は反射的に、仕事の脳を起動させる。
(論点は何だ)
(誤解を修正すべきか)
ノアが横から言う。
「兄さん、今それ 真顔詰めモード」
「……これが?」
友人が吹き出す。
「なにそれ」
ノアは軽く説明した。
「職場だとこの顔で、淡々と逃げ道潰してくる」
「怒ってないのに」
友人は笑った。
「なるほど。前に言われなかった?」
「アンドロイドみたいって」
――再燃。
悠馬は完全に固まった。
「……は?」
「感情ないわけじゃないけど、処理が早すぎるって」
友人は頷く。
「分かるかも」
だが、続けた。
「でもさ、冷たいわけじゃないよね」
「むしろ、ちゃんと相手を見ようとしてる」
悠馬は言葉を失った。
反論できない。
修正もできない。
ただ、否定されていないことだけは分かった。
後編?に続きます
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




