第三部 第二話 ~ハミルトン邸・夕食:着席=詰み~
ゆうまはにげだそうとした
しかしまわりこまれてしまった
ハミルトン邸の玄関は、いつもと同じように静かだった。
いつもと違うのは、悠馬の心拍数だけだ。
(……夕食だ)
(ただの夕食)
(”ただの夕食なわけがない”)
ドアを開けた瞬間、
いつも通りの空気。
いつも通りの照明。
いつも通りの使用人。
――違和感が、ない。
それが一番怖い。
「いらっしゃい、悠馬」
エド叔父は、穏やかな笑顔で迎えた。
「……こんばんは」
声は出た。
表情も崩れていない。
(……まだ戦えてる)
「今日は、少し人が来ている」
(……来ている)
その言い方。
「気楽にしていい」
(信用できない)
ダイニングに通される。
テーブルは、いつもより少し小さい。
人数が、限られている証拠だ。
(……何人だ)
椅子は、四脚。
エド叔父。
悠馬。
――そして、
すでに座っている人物が一人。
女性だった。
年齢は、悠馬と近い。
落ち着いた服装。
派手ではない。
しかし、場に馴染む雰囲気。
立ち上がり、軽く会釈する。
「はじめまして」
柔らかく、聞き取りやすい話し方。
「今日は、お招きいただいてありがとうございます」
(……あ)
悠馬の中で、何かが”静かに確定”した。
(第一候補だ)
紹介が、まだなのに。
エド叔父が、当然のように言う。
「こちらは、佐伯悠馬」
「……はじめまして」
……一瞬詰まった。
とりあえず挨拶する。
「佐伯です」
女性は、にこやかに頷いた。
「噂は、よく伺っています」
(……噂)
(……どこで?何の?)
エド叔父は、何も説明しない。
料理が、運ばれてくる。
着席。
――その瞬間。
(……負けた)
悠馬は、はっきり悟った。
”ここからは、逃げ場がない。”
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会話は、驚くほど普通だった。
天気。
最近の街。
仕事の話。
女性は、踏み込みすぎない。
距離も、近すぎない。
(……フランスの刺客より、はるかに厄介だ)
エド叔父は、ほとんど話さない。
聞き役に徹している。
それが、余計に怖い。
「佐伯さんは、こちらでの暮らしが長いそうですね?」
「……ええ」
(来た)
「日本には、あまり?」
「……ほとんど」
(説明、するな)
女性は、驚きも、同情も見せない。
「そうなんですね」
それだけ。
(……普通だ)
普通すぎる。
だから、警戒が外れそうになる。
「フランス、お疲れだったでしょう」
(……なぜ知ってる)
「いえ、仕事ですから」
無難な返答。
女性は、少しだけ笑った。
「そう言えるところが、すごいと思います」
(評価、いらない)
エド叔父が、ここで口を挟む。
「悠馬は、無理をしている自覚があまりない」
(やめろ)
「だが、周りはよく見ている」
(やめてくれ)
女性は、視線を悠馬に戻す。
「……そうなんですね」
(……今の、点数入ったな)
料理が進む。
会話も、途切れない。
誰も、
「結婚」
という言葉を使っていない。
それなのに。
(……全部、その前提で組まれてる)
悠馬は、背筋を伸ばしたまま、心の中で呻いた。
(……逃げ腰でも、逃げられないってこういうことか)
ふと、女性が言った。
「佐伯さんは、静かな方ですね」
(……来た)
「……よく、言われます」
「でも」
一拍。
「話す時は、とても分かりやすい」
(……やめろ)
「安心します」
その一言で、悠馬の眉間に確実にしわが寄る。
(……まただ)
エド叔父は、それを見逃さなかった。
だが、何も言わない。
ただ、紅茶を一口飲む。
(……ほら)
(……始まってる)
夕食は、穏やかに終わった。
女性は、丁寧に礼を述べ、帰っていった。
ドアが閉まる。
静寂。
「……叔父上」
悠馬は、やっと口を開いた。
「これは……」
エド叔父は、微笑んだ。
「夕食だ」
「……それ以上では?」
「今は、な」
(……今は)
悠馬は、天井を仰いだ。
(……フランスより逃げ場がない)
(……ここが、本番か)
エド叔父は、穏やかに締めくくる。
「今日は、よく話せていた」
(……評価、やめろ)
「次は、もう少し楽になる」
(なるわけない)
悠馬は、玄関に向かいながら、心の中で呟いた。
(……着席した時点で 負けだった)
ハミルトン邸の夕食は、無事に終わった。
しかし。
『有能嫁計画・第一弾は、確実に起動してしまった。』
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




