第二部 第三話 ~到着初日・取引先レセプション~
エド叔父さんどこから見てたんだろ。家でzoomとかかな。
レセプション会場は、
想像以上に人が多かった。
天井の高いホール。
柔らかな照明。
グラスを手にした人々の、途切れない会話。
(……初日から、フルスロットルだ)
佐伯悠馬は、
胸の奥で静かに覚悟を決めた。
隣では、ノアがすでに“場”に馴染んでいる。
「Bonsoir」
笑顔。
軽い会釈。
完璧な距離感。
(……早い)
悠馬が状況を把握する前に、
ノアは二人、三人と会話をつなげていた。
取引先の男性が、
自然な流れでノアに声をかける。
「今回のプロジェクト、あなたが中心ですか?」
――来た。
悠馬は、一瞬だけ息を止めた。
だが、ノアは即座に首を振る。
「いいえ」
そして、はっきりとした声で言う。
「”こちらが責任者です”」
(やめろ)
男は、初めて悠馬を正面から見る。
一瞬の間。
「……そうですか」
視線が、値踏みするように動く。
「日本人の方が責任者とは、少し意外でした」
(言い方)
「部下の方かと」
(ですよね)
悠馬は、静かに名刺を差し出した。
「佐伯と申します」
短い挨拶。余計なことは言わない。
男は名刺を受け取り、一瞬だけ目を落とす。
――役職名。
そこで、表情が変わった。
「……失礼しました」
トーンが、わずかに変わる。
「こちらこそ、お会いできて光栄です」
(……切り替え、早いな)
その様子を見て、ノアが明るく言う。
「兄は、細かいところまでちゃんと見るんですよ」
(言うな)
「だから、現場の人にもすごく信頼されてて」
(止めろ)
男は、興味深そうに頷く。
「なるほど」
視線が、今度はじっくりと悠馬を測る。
「それは心強い」
――評価が、静かに上がっていくのが分かる。
(……一番、面倒なやつだ)
会話は、次々と広がった。
同じ質問。
同じ誤解。
「ご同行の方が責任者で?」
「部下の方ですか?」
そのたびに、ノアが否定し、悠馬が名刺を出し、
相手が一瞬で態度を変える。
(……これ、何回目だ)
ノアは、完全に善意で動いている。
誰に対しても、同じ調子で言う。
「兄は本当に優秀で」
「判断が早くて」
「現場も大事にして」
(全部本当だから、否定できない)
そのうち、空気が変わった。
「……あの日本人、本当に責任者らしい」
「静かだけど、話が早い」
「余計なことを言わないな」
視線が、完全に“評価の目”に変わる。
悠馬は、その変化を感じ取りながら、
淡々と受け答えを続けていた。
条件。
スケジュール。
判断基準。
必要なことだけを、簡潔に。
「……やりやすい」
誰かが、ぽつりと言った。
それを聞いた瞬間、
悠馬の胃が少しだけ緩む。
(……仕事なら、できる)
だが。
その横で、
ノアが楽しそうに笑っている。
「兄は、家では全然偉ぶらないんですよ」
(今は言わなくていい)
「料理もするし」
(やめろ)
「僕が小さい頃は、よく――」
(爆弾)
周囲が、面白そうに耳を傾ける。
「へえ」
「意外ですね」
「ギャップがある」
(……評価が、仕事から人となりに拡張されてる)
それは、悠馬が一番避けたかった展開だった。
レセプションが進むにつれ、
悠馬は確信する。
『今回は、前回より確実に逃げ場がない』
一方で。
少し離れた場所から、
この様子を見ていた人物がいた。
エドワード・ハミルトン。
直接は、何もしていない。
ただ、グラスを手に、
穏やかに眺めているだけだ。
(……いい流れだ)
主役に見える者。
実権を持つ者。
そのズレが、相手に「確認」を強いる。
そして確認の末に、
静かな信頼が積み上がる。
「……さて」
エドは、小さく呟いた。
「今夜は、ここまでだな」
その頃、悠馬はまだ知らない。
このレセプションが、
”評価の第一段階”
でしかないということを。
そして、ノアという爆弾が、
まだ解除されていないということを。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




