幕間 ~菜摘という地面~
もうそろそろ終わるので今更ですが!
雑な紹介
佐伯悠馬:仕事は神、恋愛は初期設定未実装。胃が弱い。
ノア:弟。兄の人生の実況解説者。
凛と蘭:アメリカにいる双子の妹
エド叔父:人生をイベント扱いする人。
佐伯拓海:悠馬の実父。性格は全然違う。
佐伯菜摘:悠馬の母親。悠馬は母親似。
悠馬のフラットに戻ると、冷凍庫が増えていた。
増えすぎていた。
冷凍庫が冷凍庫ではなく、菜摘の倉庫になっている。
ノアが扉を開けて固まる。
「……兄さん」
「はい」
「これ、何ですか」
悠馬は淡々と答えた。
「母です」
「母が強すぎます」
拓海がソファに沈みながら笑った。
「菜摘は昔からこうだ」
ノアが即座に言う。
「拓海父さんが昔からこうだからでしょう」
「うるせえ」
悠馬は袋を一つ取り出す。
ラベル。
『悠馬へ
食べなさい
野菜も入れなさい
胃を大事にしなさい』
完璧な命令文。
叔父上より生活に刺さる。
拓海がそれを見て、少しだけ黙った。
珍しい。
「……母さんは」
悠馬がぽつりと言う。
「怒りませんね」
拓海が鼻で笑う。
「怒ってるだろ」
「怒っているように見えません」
「怒ってんだよ」
ノアが小声で付け足す。
「静かに怒るタイプです」
拓海は頭を掻いた。
「菜摘はな」
一拍。
「幼馴染なんだ」
悠馬は顔を上げた。
その話は、あまり聞いたことがない。
「近所に住んでた」
「小さい頃からずっと一緒だった」
「俺が馬鹿やっても」
「菜摘だけは、黙って後始末してた」
ノアが頷く。
(今もだ)
拓海は続ける。
「高校で俺がイギリスに行った」
「大学もこっちだ」
「ほとんど帰らなかった」
悠馬は静かに聞く。
「菜摘は日本に残ってた」
「普通なら忘れるだろ」
「でも」
拓海の声が少し低くなる。
「忘れなかった」
ノアが珍しく黙っている。
悠馬も黙っている。
拓海がこういう話をするのは異常事態だ。
「ずっと、だ」
拓海は短く言った。
「俺がどこで何してても」
「菜摘は菜摘だった」
悠馬は小さく言った。
「……母さんは、強いですね」
拓海が笑った。
「強いっていうか」
「俺が唯一頭が上がらねえ」
ノアが即答する。
「知ってます」
「黙れ」
拓海は椅子に沈んだまま言う。
「俺が刑事になった時も」
「勝手に危ないことして」
「勝手にいなくなって」
「勝手に戻って」
「それでも」
「菜摘はずっと待ってた」
悠馬は少しだけ目を伏せた。
待つ。
居場所。
帰る。
言葉が繋がる。
拓海がぽつりと零す。
「……お前も」
「菜摘に似てる」
悠馬が顔を上げる。
「顔じゃねえ」
「雰囲気だ」
「黙って耐えるとこ」
「放っとくと倒れるとこ」
ノアが呻く。
「兄さんは倒れます」
「知ってる」
拓海は小さく息を吐いた。
「だから」
「生活改善とか」
「普通とか」
「今更なんだよ」
一拍。
「菜摘がずっとやってきた」
悠馬は静かに言った。
「……僕は、母さんに甘えてます」
拓海が即答した。
「甘えろ」
「甘えられるうちは甘えろ」
「それが普通だ」
ノアがぽつりと呟く。
「拓海父さんが普通を言うと怖いです」
「うるせえ」
冷凍庫の中は埋まっている。
菜摘という地面で。
悠馬の生活は、
まだ崩れずに済んでいる。
悠馬は思った。
帰る場所が分からなくても、
帰れる温度は確かにある。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




