第八部 第七話 ~普通の夜(※普通ではない)~
クラブは「普通の夜」になりますか?
次の休日。
拓海は朝から機嫌が良かった。
それが一番怖い。
「さて」
拓海が言った。
「いよいよ普通の夜だ!」
ノアが即座に反応する。
「やめてください!!!!」
「何でだよ」
「拓海父さんの普通は危険なんです!」
「失礼だな!」
拓海は笑った。
「俺は健全な大人だぞ」
ノアが真顔で言う。
「健全な大人はその声量で言いません」
悠馬は淡々と聞いた。
「……普通の夜とは何でしょうか」
拓海が満面の笑みになる。
「飲みだよ」
ノアが呻いた。
「終わった……」
ーーーーーーーーーーーーーー
夜。
ロンドンの街は昼より騒がしい。
光が多い。
人が多い。
音が近い。
悠馬は少しだけ息を浅くした。
ーーーーーーーーーーーーー
「兄さん、大丈夫ですか」
「大丈夫です」
「その大丈夫は信用できません」
「通常運転です」
「やめてください」
拓海が肩を叩く。
「気楽に行け」
「今日は“普通”だからな!」
ノアが小声で言った。
「普通を強調する夜は普通じゃないんですよ」
ーーーーーーーーーーーー
店に入った瞬間。
酒の匂い。
音。
熱。
空気が胃に来る。
悠馬は一拍止まった。
「……ここは」
「クラブ!」
拓海が即答する。
「普通の夜だろ!」
ノアが叫んだ。
「普通の夜にクラブは入りません!!!」
「入るだろ!」
「入りません!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
拓海はカウンターに向かう。
「とりあえず飲むか!」
ノアも迷いなく続く。
「俺も」
悠馬は静かに言った。
「僕は飲めません」
拓海が振り返った。
「え?」
ノアが即答する。
「兄さんは胃が弱いので」
「……飲んだことないのか?」
「あります」
「あるのか」
「倒れました」
「倒れたのか」
ーーーーーーーーーーーー
拓海は腕を組む。
「俺の息子のくせに情けない」
悠馬は真顔で返す。
「胃は遺伝ではありません」
ノアが小さく頷く。
(兄さんは正論で殴る)
拓海とノアの前にグラスが並ぶ。
拓海は一気。
ノアも一気。
何事もない。
「……平気なんですか」
悠馬が聞く。
拓海が笑った。
「平気だぞ!」
ノアも涼しい顔だ。
「平気です」
悠馬は静かに思う。
(僕だけ人間の仕様が違うのでは)
店内はさらに騒がしくなる。
笑い声。
香水。
酒。
熱。
悠馬は水を飲んだ。
水なのに胃がきゅっとする。
拓海が急に立ち上がった。
「よし!」
嫌な予感。
「ノア!」
「はい」
「行ってこい!」
「どこへ」
「手本を見せろ!」
ノアが固まった。
「……何の」
「ナンパだよ!」
悠馬が静かに言う。
「普通の夜とはそういうものなのですか」
ノアが叫んだ。
「違います!!!兄さん真顔で学ばないで!!!」
拓海が笑う。
「顔がいいから余裕だろ!」
「余裕じゃありません!」
「行け!」
「嫌です!」
「行け!」
ノアが胃薬を握りしめながら立ち上がった。
「……兄さんのためですよ」
悠馬は少しだけ頷いた。
「ありがとうございます」
「感謝しないでください」
結果。
ノアは立っただけで女の子に声をかけられた。
「Hi…」
ノアが死んだ目で返す。
「……Hi」
拓海が爆笑している。
「ほら!普通!」
ノアが振り返って叫ぶ。
「これが普通なら世界がバグってます!!!」
悠馬は静かに観察した。
(普通とは難しい)
そして。
悠馬は酒を飲んでいないのに限界だった。
匂い。
音。
熱。
胃。
「兄さん?」
ノアが戻ってくる。
悠馬は一言。
「帰りたいです」
拓海が即答する。
「早い!」
ノアが即答する。
「当然です!!!」
拓海は肩をすくめた。
「普通の夜は難しいな」
悠馬は静かに答えた。
「普通以前に胃が難しいです」
ノアが呻いた。
「兄さん、名言にしないでください」
ーーーーーーーーーーー
こうして。
普通の夜は終わった。
普通ではなかった。
でも。
悠馬はほんの少しだけ思った。
走らされるだけの人生ではなく、
自分で“帰りたい”と言えた夜だったのかもしれない。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




