第八部 第六話 ~買った服で外に出る~
悠馬君の私服、どんなの買ったんだろ
フラット。
悠馬は紙袋を机の上に置いた。
静かに。
まるで爆弾のように。
ノアが胃薬を握りながら覗き込む。
「……兄さん」
「はい」
「それ、本当に買ったんですよね」
悠馬は頷く。
「買いました」
拓海が胸を張る。
「俺が選んだ」
ノアが即答した。
「やめてください」
紙袋の中身。
ジャケット。
シャツ。
シンプルだが“ちゃんとしている”。
悠馬の今までの私服は、
ノアの置いていった部屋着
+
仕事帰りのスーツ崩し
+
「適当」
だった。
拓海が言う。
「着替えろ」
悠馬が一拍置く。
「ここで?」
「ここで」
ノアが呻く。
「なんで僕の家みたいになってるんですか」
悠馬は静かに寝室に入った。
数分後。
出てくる。
……違う。
明らかに違う。
“外にいる人”になっている。
ノアが固まった。
拓海が満足そうに頷く。
「ほらな」
悠馬は袖を見下ろす。
「……落ち着きません」
ノアが小声で言う。
「兄さんが普通の服着てるの怖いです」
悠馬が真顔で返す。
「僕もです」
拓海が笑う。
「慣れろ!」
ーーーーーーーーーーーーーー
外。
ロンドンの街。
石畳。
夕方。
人の流れ。
悠馬は歩きながら、少しだけ周囲を見る。
いつもなら目的地しか見ない。
今日は違う。
ノアが横で警戒している。
「兄さん、変なことしないでくださいね」
悠馬が首を傾げる。
「変なこととは」
拓海が即答する。
「ナンパだ」
ノアが叫ぶ。
「しません!!」
悠馬が真顔で聞く。
「父さんはするのですか」
拓海が詰まった。
「……昔はな!」
ノアが胃を押さえた。
その時。
すれ違った女の子がふと振り返る。
ちら。
悠馬を見る。
そして。
ノアを見る。
女の子が小声で言う。
「……え、なにあの人たち」
もう一人が答える。
「モデル…?」
ノアが即座に俯いた。
「やめてください」
悠馬が真顔で言う。
「ノアは目立ちますね」
ノアが呻く。
「兄さんまで追い打ちかけないで…」
拓海が笑う。
「お前は歩く広告だな!」
さらに。
店の前で店員が声をかけてくる。
「Hey, welcome!」
ノアに。
ノアにだけ。
ノアが硬直する。
「……僕じゃないです」
店員が笑う。
「あら、ごめんなさい。すごく素敵だったので。」
拓海が肩を叩く。
「ほら、手本だ」
ノアが叫ぶ。
「何の手本ですか!!」
悠馬がぽつりと言った。
「……普通の外出は、戦場ですね」
ノアが即答した。
「兄さんが言うと重い!!」
拓海が大笑いする。
歩きながら。
悠馬はふと、胸元を押さえた。
ネクタイがない。
スーツじゃない。
仕事じゃない。
それでも。
自分は歩いている。
悠馬は小さく言った。
「……服が違うだけで」
「世界が違って見えます」
ノアが一瞬黙った。
拓海も黙った。
珍しい沈黙。
そして拓海が笑う。
「だろ?」
「だからだ」
「お前は今までずっと“仕事の服”で生きてきた」
ノアが胃薬を飲みながら呟く。
「兄さんが普通に街を歩いてるだけで泣きそうです…」
悠馬は一拍遅れて答える。
「検討します」
ノアが叫んだ。
「検討するな!!」
『買った服で外に出るだけで、世界は少しだけ広かった。』
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




