第八部 第五話 ~普通のカフェ~
ノアが目立つだけで悠馬君もそんなに悪くは胃です。たぶん。
「よし」
拓海が言った。
嫌な予感しかしない。
ノアの胃がキリキリと痛んだ。
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「次は普通のカフェだ」
拓海が胸を張る。
ノアが即座に言う。
「普通って言葉を信用できなくなってきました」
悠馬は真顔で頷いた。
「同意します」
拓海が笑う。
「お前ら難しく考えすぎだ」
カフェは角にあった。
ガラス張り。
明るい。
人が多い。
“普通”に見える。
ノアは一瞬だけ安心した。
一瞬だけ。
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席に着いた途端、店員さんがにこやかにやってくる。
「ご注文お決まりですか?」
拓海が即答する。
「コーヒー」
悠馬が一拍置く。
「……紅茶」
ノアが胃薬を握りしめながら言う。
「水で」
店員さんが微笑んだ。
「かしこまりました」
そして。
視線が止まった。
ノア。
顔。
服。
アクセサリー。
存在。
店員さんの笑顔が少しだけ柔らかくなる。
「……素敵ですね」
ノアが固まる。
「え?」
店員さんは何事もないように続けた。
「モデルさんか何かですか?」
ノアが叫ぶ。
「違います!!」
悠馬が真顔で言う。
「彼は胃薬係です」
ノアが机に額を打ち付けた。
ゴン。
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拓海が腹を抱える。
「おいノア、歩くブランドじゃねえか」
ノアが呻く。
「やめてください……」
隣の席。
女の子二人組がひそひそ話している。
ちら。
ちら。
ちら。
ノアを見る。
悠馬を見る。
拓海を見る。
拓海を見るのは間違いだ。
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「ねえ、あの人すごくない?」
「どっち?」
「そっちじゃなくて…隣の!」
「顔が良すぎる…」
ノアが聞こえてしまう。
胃が縮む。
悠馬は静かに言った。
「ノア」
「はい…」
「君は普通に座っているだけで話題になりますね」
ノアが泣きそうになる。
「兄さん、やめてください…」
拓海が笑う。
「これが普通だ」
ノアが叫ぶ。
「普通じゃない!!」
紅茶が来た。
悠馬はカップを見つめる。
「……カフェとは」
拓海が言う。
「女と出会う場所だ」
ノアが即座に言う。
「違います!!」
悠馬が真顔で聞く。
「父さんはここで母さんと?」
拓海が凍った。
ノアが死んだ。
拓海は咳払いをした。
「……話を戻す」
悠馬が頷く。
「戻してください」
拓海は腕を組む。
「悠馬」
「はい」
「普通ってのはな」
「こうやって座って」
「何も決めなくても時間が過ぎることだ」
悠馬の指が止まった。
何も決めなくても。
時間が過ぎる。
走らされなくても。
予定がなくても。
ただ座っている。
悠馬は小さく息を吐いた。
「……それは」
拓海が笑う。
「怖いか?」
悠馬は少し考える。
「慣れていません」
ノアが小さく呟く。
「兄さんが座ってるだけで哲学になるのやめてください…」
拓海が肩を叩く。
「まあいい」
「今日は服」
「次はカフェ」
「そのうち普通に息ができる」
悠馬はカップを持ち上げた。
紅茶は温かい。
静かだ。
眩しくない。
悠馬はぽつりと言った。
「……呼吸ができます」
ノアが顔を上げた。
「兄さん?」
拓海が一瞬だけ黙る。
そして笑った。
「そうか」
ノアは胃薬を握りしめたまま呟く。
「……山じゃない日が来るんでしょうか」
悠馬は一拍遅れて答えた。
「検討します」
ノアは泣いた。
『普通のカフェは、普通ではなかった。』
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




