第一部 第十話 ~父上、それはやりすぎだと思う~
ノア君は陽キャです。
アフタヌーンティーが終わった後。
ノアは、一人で書斎に向かっていた。
扉の前で、一度だけ深呼吸をする。
(……言うよ)
逃げない。これは、兄のためだ。
ノック。
「入れ」
短い返事。
エドワード・ハミルトンは、
いつも通り書類に目を落としていた。
「父上」
「どうした」
ノアは、その前に立ち、率直に言った。
「……やりすぎだと思います」
ペンが止まる。
エドは顔を上げ、息子を見た。
「何がだ」
「全部です」
即答だった。
「アスコットも、
アフタヌーンティーも、
“レッスン”って言ってましたけど」
ノアは、言葉を選びながら続ける。
「悠馬、ほぼ何も聞かされてません」
「聞く前に始まるのが、一番素が出る」
「それ、仕事の部下にやったら
問題になりますよ」
一瞬。
エドは、ふっと笑った。
「だから、仕事ではやらん」
(言い切った)
「……父上」
ノアは、少しだけ声を低くした。
「兄は、逃げない人です」
「知っている」
「逃げないから、限界まで我慢します」
エドは、しばらく黙って考えた。
そして、静かに言う。
「だからこそ、支える人間が必要だ」
「……それを、
本人の了解なしに決めるのは……」
「最終的には、本人が決める」
その言葉に、ノアは眉を寄せた。
(本当に?)
エドは、
息子の視線を正面から受け止める。
「安心しろ。壊すつもりはない」
「……でも」
「教育だ。破壊ではない」
その区別が、曖昧だと思ったが、
ノアはそれ以上言わなかった。
ここで止められないことは、
分かっている。
「……せめて」
ノアは、最後に言った。
「兄さんに、“考える時間”をください」
エドは、一拍置いて頷いた。
「分かった」
(本当かな)
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数日後。
佐伯悠馬は、ようやくロンドンに戻っていた。
オフィスに入った瞬間、肩の力が抜ける。
(……ここは、安全地帯……)
仕事は、
裏切らない。
スケジュール。
会議。
数字。
誰も、距離感を測ってこない。
誰も、“普通の会話”を求めてこない。
「……生き返る……」
デスクに座り、深く息を吐いた。
――その直後。
秘書が、静かに声をかける。
「佐伯様、
次のフランス出張について
ご相談があります」
(……フランス)
一瞬、胃が反応した。
「今回のフランス出張ですが、
日程が長く、レセプションも含まれますので、
同行者を一名つけるのが適切かと」
(……社交……)
だが、悠馬は考えた。
「お願いします」
秘書は、即座にメモを取る。
「候補は?」
悠馬は、即答した。
「ノア以外でお願いします」
(叔父上の視界から外す)
(仕事として同行できて)
(距離感が分かってて)
(変な誤解が生まれない人)
「承知しました」
「お願いします」
秘書が下がる。
悠馬は、
椅子に深くもたれた。
(……よし)
(今回は、対策を打った)
(誰かいれば、逃げ道ができる)
(一人じゃない)
久しぶりに、胸の奥が静かになる。
「……大丈夫だ」
そう呟いた。
だが。
その頃、
ハミルトン邸・書斎。
エドワード・ハミルトンは、
新しい報告書に目を通していた。
――フランス出張(長期)
――レセプション複数
――同行者選定:秘書判断
――ノア除外指定
エドは、静かにペンを置いた。
「……なるほど」
誰かを連れて行く。
それは、
”正しい判断””だ。
だが。
(選定基準は、誰が決める?)
エドは、穏やかに微笑んだ。
「さて……」
リストを一枚、引き寄せる。
「これは、”応用編”だな」
その頃、悠馬はまだ知らない。
自分が取った“安全策”が、
次のレッスンの”条件を満たしてしまった”
ということを。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




