第七部 第十九話 ~映像~
悠馬君。帰ってあげなよノア泣いてるよ?
成田空港は、明るかった。
ロンドンの灰色とは違う。
光が強い。
音も違う。
言葉も違う。
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悠馬は立っていた。
日本語が聞こえる。
理解できる。
でも、身体が反応しない。
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(日本)
自分は日本人だ。
そういうことになっている。
パスポートもそう言っている。
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だけど。
『帰ってきた』という感覚はなかった。
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悠馬が日本に来たのは一度だけだった。
二十四か、二十五の頃。
仕事で。
短期の出張で。
拓海が言った。
「せっかくだから見とけ」
「お前が昔住んでた辺り」
悠馬は頷いた。
「はい」
その時はそれだけだった。
住宅街。
公園。
坂道。
住んでたらしいマンション。
見た。
確かに見た。
そして思った。
(映像だ)
記憶の中に、うっすらと同じ構図があった。
夕方の光。
コンクリートの匂い。
子供の声。
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だが当時の悠馬には余裕がなかった。
考える暇がなかった。
居場所なんて言葉は、業務外だった。
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仕事に戻った。
ロンドンに戻った。
通常運転に戻った。
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そして今。
結婚式が終わって。
問いが残って。
胃が静かになって。
悠馬は突然、ここに来た。
(今なら何か思うだろうか)
そう思った。
思ってしまった。
電車に乗る。
窓の外。
流れる街。
知らないのに知っている気がする。
降りた。
小さな駅。
拓海が昔教えた場所。
名前も曖昧だ。
歩く。
住宅街。
公園。
坂道。
住んでたらしいマンション。
同じだ。
変わっていない。
変わっている。
悠馬は立ち尽くした。
(ここにいた)
(確かに)
(でも)
胸の奥に何かが浮かぶ。
懐かしさではない。
帰属でもない。
ただ、距離だけ。
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(僕はここにいた)
(でも、ここは僕の場所ではない)
その瞬間。
少しだけ理解した。
居場所とは、出生地ではない。
血でもない。
国でもない。
帰るとは。
『思い出に戻ること』ではない。
悠馬は息を吐いた。
(じゃあ僕は)
(どこに帰るんだろう)
スマホが震える。
ノアからの未読が増えている。
三桁に届きそうだ。
悠馬は画面を見つめて、少しだけ思った。
(あれは)
(帰れと言っているのか)
(呼んでいるのか)
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悠馬はまだ返事をしない。
ただ、もう一度周囲を見た。
映像だった場所。
今は映像ではない。
現実だった。
そして現実は、答えをくれなかった。
ただ静かに言った。
「ここではない」
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




