第七部 第十七話 ~戻ったな~
もうそろそろ恋愛事情も終盤です。まだ恋愛してませんが。
山は、山だった。
だが山にも終わりはある。
終わりがあるから山なのだ。
なければ地獄だ。
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悠馬とノアは無言で処理した。
決裁。
確認。
返信。
会議調整。
噂対応。
胃薬補給。
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ノアは途中で三回机に突っ伏し、
悠馬は一度も突っ伏さなかった。
それが一番怖い。
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夕方。
ようやく机の上が見えた。
紙の地層が消え、
デスクがデスクに戻った。
世界が平面になった。
ノアは椅子に沈んだ。
「……終わった……」
悠馬は淡々とファイルを閉じる。
「終わりました」
ノアが呻く。
「兄さんの終わりましたは信用ならない」
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静かになったオフィス。
通常運転。
やっと戻った。
そう思った瞬間。
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「悠馬」
声。
低い。
灰色より重い。
悠馬が顔を上げる。
エドワードが立っていた。
いつからいたのか分からない。
気配が仕事より怖い。
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ノアが反射で立ち上がる。
「……何も起きてません」
エドワードはちらりと見る。
「知っている」
(知っているのか)
(全部か)
ノアの胃が鳴った。
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エド叔父は悠馬を見る。
「戻ったな」
悠馬は一拍置く。
「……はい」
「どこに」
直球。
まただ。
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悠馬は答えかけて止まる。
業務。
オフィス。
通常運転。
全部正しい。
しかし。
エドワードは淡々と続ける。
「アメリカはどうだった」
悠馬は少し考える。
「合理的でした」
ノアが机に額を打ち付けた。
ゴン。
エドワードの口元がわずかに動く。
笑いではない。
確認だ。
「呼吸ができたか」
悠馬の指が止まる。
ジェシカが言った言葉。
ノアが泣きついた夜。
飛行機の中。
空港で飛びつかれた瞬間。
悠馬は小さく答えた。
「……少し」
ノアが顔を上げた。
兄さんが「少し」と言った。
「事件」である。
エド叔父は頷く。
「そうか」
一拍。
「なら」
エド叔父は淡々と言う。
「まだ戻っていない」
ノアが呻いた。
「父上……」
エドワードは見ない。
「ノア」
「はい」
「お前はよく耐えた」
ノアの目が揺れた。
褒められた。
怖い。
エドワードは悠馬だけを見る。
「悠馬」
「はい」
「帰るとは何だ」
まただ。
逃げられない。
悠馬は一拍遅れて言う。
「……呼ばれることかもしれません」
ノアが固まった。
エドワードの眉がわずかに動く。
「ほう」
短い。
だが重い。
エド叔父は踵を返す。
「答えは急がなくていい」
振り返らずに言った。
「だが」
「次にお前が動く時」
「それが業務だけなら、また山になる」
去っていく背中。
オフィスは何事もないように動いている。
ノアは椅子に崩れた。
「兄さん……」
悠馬は静かに机を見る。
平面になった世界。
元に戻った世界。
しかし。
問いだけが残った。
帰るとは何だ。
居場所とは何だ。
ノアが小さく呟く。
「……お願いだから次は山を作らないで」
悠馬は一拍遅れて答える。
「検討します」
ノアが即答した。
「殺すぞ」
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




