第七部 第十六話 ~現場復帰~
ちなみに一か月休暇を取った時はちゃんと調整したため問題はなかった模様。
「兄さん」
空港を出るなり、ノアが言った。
「帰りましょう」
悠馬は頷いた。
「はい」
車だろう。
家だろう。
休息だろう。
そう思った。
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ノアは即座に言う。
「オフィスへ」
悠馬の動きが止まった。
「……オフィス?」
「はい」
即答。
「今すぐ」
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「ノア」
悠馬は一拍置く。
「君は休んでいないのですか」
ノアは笑った。
笑顔というより痙攣だった。
「休み?」
「何それ」
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車はロンドンの街を抜ける。
灰色。
通常運転。
悠馬は少しだけ懐かしいと思った。
思った瞬間に嫌な予感がした。
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到着。
オフィスのビル。
自分の職場。
戻った場所。
エレベーター。
ノアは無言でボタンを押す。
悠馬は資料を持ち直した。
業務に戻る。
戻れる。
戻れるはずだった。
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扉が開く。
そして。
悠馬は固まった。
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机。
山。
いや、山脈?
書類の地層。
決裁の堆積。
未処理の文明。
悠馬は静かに言った。
「……ノア」
ノアは即答する。
「はい」
悠馬は山を見たまま続ける。
「これは何ですか」
ノアは胸を張った。
「兄さんの仕事です」
悠馬の眉がわずかに動く。
「僕の仕事は消えないのですね」
「消えるわけないでしょう!!」
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悠馬は一歩近づく。
紙を一枚取る。
未決裁。
次。
未確認。
次。
「佐伯確認待ち」
「佐伯不在のため保留」
「佐伯戻り次第至急」
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悠馬は静かに紙を戻した。
そして言った。
「ノア」
「はい」
「君は」
一拍。
「今まで何をしていたのですか」
ノアが爆発した。
「やってましたよ!!!」
「全部!!!」
「兄さんの代わりに!!!」
「噂対応も!!!」
「会議も!!!」
「父上も!!!」
「胃薬も!!!」
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悠馬は一拍遅れて言う。
「胃薬は業務ではありません」
「業務です!!!僕にとっては!!!」
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悠馬は山を見た。
そして冷静に結論を出す。
「……一か月でこれは異常です」
ノアは泣きそうな顔で叫ぶ。
「異常なのは兄さんです!!!」
「これを通常運転で処理してた兄さんが異常なんです!!!」
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悠馬は黙った。
否定できない。
ノアは机に突っ伏した。
「兄さん……」
「もう二度と……」
「一か月とか……」
悠馬は一拍遅れて答える。
「……検討します」
ノアが顔を上げた。
「殺すぞ」
オフィスの灰色の中で。
悠馬は資料を開いた。
帰ってきた。
業務に。
噂に。
山に。
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そして思った。
(帰るとは)
(こういうことではない気がする)
(帰るとはこういうことではない気がする)→デショウネ




