第七部 第十四話 ~帰るって何だ~
悠馬君のコイバナを書くはずがなんか自分探しの旅みたいな話になってる件
帰る。
ノアにそう送った。
『帰る』
たった二文字。
業務連絡のように短い。
でも、あれは業務ではなかった。
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空港へ向かう車の中で、
悠馬は資料を閉じた。
珍しいことだった。
西海岸の光が窓の外に流れていく。
眩しい。
軽い。
呼吸ができる場所。
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ジェシカが隣で言った。
「悠馬」
悠馬は顔を上げる。
「あなたは“帰る”って言ったわね」
「はい」
「どこに?」
直球だった。
逃げ道がない。
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悠馬は一拍遅れた。
ロンドン。
会社。
ノア。
業務。
役割。
全部正しい。
だから答えられるはずなのに。
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「……ロンドンに」
言った瞬間、
自分で違和感を覚えた。
ロンドンは長い。
人生のほとんどがそこにある。
だが、それは“帰る”なのか。
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ジェシカは窓の外を見たまま言う。
「あなたは“帰る場所”を探してるんじゃない」
悠馬の指が止まる。
「……何ですか」
ジェシカは淡々と続けた。
「“帰りたいと思える場所”を探してるのよ」
一拍。
「立場じゃなくて」
「役割じゃなくて」
「あなた自身の場所」
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悠馬は返せなかった。
帰りたいと思える場所。
そんなものを考えたことがない。
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日本。
血は日本人だ。
だが日本は母国ではない。
記憶は薄い。
帰ると言われても、そこには戻れない。
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ハミルトン家。
親のいる場所。
生活を与えられた場所。
実家と呼べなくもない。
だが居場所ではない。
選んだ家ではなかった。
『必要だから置かれた場所』だった。
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会社。
頂点。
総括。
立場。
それもまた場所ではない。
ただの役割だ。
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ジェシカが静かに言う。
「あなたはどこにも属してないんじゃない」
「属する場所を与えられすぎたの」
悠馬の喉が詰まる。
与えられた場所。
与えられた役割。
与えられた帰属。
「だから」
ジェシカは続ける。
「自分で選ぶ場所が分からない」
搭乗口が近づく。
人の波。
英語。
いつも通りの言葉。
いつも通りの世界。
悠馬は歩きながら思う。
(帰る)
帰るとは、戻ることではない。
呼ばれたところへ行くことなのか。
ノアのメッセージが浮かぶ。
『帰ってきてください』
あれは命令ではなかった。
弟の声だった。
役割ではなく、人として。
機内。
席に座る。
シートベルト。
離陸。
西海岸の青が遠ざかる。
悠馬は目を閉じた。
帰る。
ロンドンへ。
灰色へ。
噂へ。
業務へ。
そして、ノアの胃薬へ。
それでも。
呼ばれた。
だから行く。
(帰るって何だ)
答えはまだ出ない。
ただ一つだけ分かる。
自分は今まで、
“帰りたい”を考えずに生きてきた。
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飛行機は雲を抜ける。
灰色の世界へ向かう。
悠馬は一拍遅れて思った。
帰るとは。
居場所とは。
選ぶとは。
まだ分からないまま。
それでも悠馬は、帰っていった。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




