第七部 第十一話 ~どうしたい~
悠馬君はアメリカでもいいと思うんだ。少しは明るくなりそう
翌朝。
ジェシカは悠馬を呼び出した。
場所は本社の上階。
窓が広い。
空が青い。
ロンドンでは考えられない光だった。
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「悠馬」
ジェシカは書類も見ずに言う。
「あなたはどうしたいの」
直球。
逃げ道がない。
悠馬は一拍遅れた。
「……業務としては」
「違う」
即答。
「業務じゃない」
ジェシカは淡々と繰り返す。
「あなた自身」
「どうしたいの」
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悠馬は黙った。
自分自身。
その単語が一番曖昧だ。
ロンドン。
圧迫。
広がる噂。
エドワードの有能嫁斡旋。
「支える存在が必要だ」
笑い話の形をした圧。
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好きかもしれない、と思ったら振られた。
未遂。
分類。
処理。
完了。
全て自分の気持ち以前。
そういうことにした。
周りは進む。
凛は決めた。
蘭も進む。
ノアも進む。
皆、何かを持って前に行く。
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自分だけが取り残されているような。
でも同時に。
もう少しこのままでいてもいいような。
動かないことが、
唯一の居場所だったような。
悠馬は小さく息を吐いた。
「……分かりません」
ジェシカの眉がわずかに動いた。
「そう」
「それが答えね」
悠馬は窓の外を見る。
西海岸の空。
軽い。
呼吸ができる。
ロンドンでは常に胸の奥にあった重さが、少し薄い。
ジェシカが静かに言う。
「ここでは息をしてる」
悠馬は否定できない。
そして。
一拍遅れて。
悠馬の中で、業務脳が動いた。
(息ができるなら)
(ここにいればいいのでは)
(業務的に可能では)
ピコーン!
悠馬の目がわずかに開く。
「……ジェシカ」
「何?」
「僕も、、、」
一拍。
「ここに何年か住んでみようかと思います」
「…………」
沈黙。
ジェシカは瞬きをした。
凛なら即答する。
カイルなら大喜びする。
ノアなら死ぬ。
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ジェシカはゆっくり言った。
「……それがあなたの答え?」
悠馬は真顔だった。
「合理的です」
ジェシカは額に手を当てた。
「あなたは本当に、」
「本当にズレてるわね」
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悠馬は静かに続ける。
「グループの拠点もあります」
「視察の延長として」
「配置も組めます」
「業務上も――」
「悠馬」
ジェシカが止めた。
「それは居場所の話じゃない」
悠馬は口を閉じた。
違うのか。
でも。
『ここでは息ができる』
それは場所ではないのか。
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その瞬間。
悠馬のスマホが震えた。
通知。
>ノア。
>ノア。
>ノア。
>未読。
>未読。
>未読。
「?!」
画面の数字が増えている。
二桁。
三桁に届きそうだ。
悠馬は静かに目を閉じた。
(……ノア、後のことは頼んだ)
合掌。
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ジェシカはため息をついた。
「まずロンドンに戻りなさい」
「そしてノアを救いなさい」
悠馬は一拍遅れて頷いた。
「……検討します」
ジェシカが即答した。
「しなさい」
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光の中で。
悠馬は初めて、
自分の「どうしたい」が
どこにも着地していないことに気づいた。
そしてノアは今日も、胃薬を追加した。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




