第一部 第八話 ~実践3:郊外教育(説明は後)~
エドワードと悠馬は血縁関係はありませんが、対外的には「甥」ということになっています。
朝、というには少し早い時間だった。
佐伯悠馬は、
ハミルトン邸の玄関で、
コートを着せられながら思っていた。
(……嫌な予感しかしない)
外は快晴。
空気は澄み、
いかにも「良い一日が始まりますよ」と言わんばかりだ。
――だからこそ、危険だ。
「車を出せ」
エド叔父の一言で、すべてが動き出す。
「……叔父上」
悠馬は、ここで一度、勇気を振り絞った。
「今日は、何の――」
「アスコットだ」
即答。
「……は?」
「郊外だ。気分転換にもなる」
(ならない)
「……あの、
“レッスン”って、
何のレッスンなんでしょうか」
言えた。
今日は、ちゃんと言えた。
だが。
「その話は、
着いてからでいい」
笑顔。
(説明、後回し……)
悠馬は、
ノアの方を見た。
(助けて)
ノアは、
肩をすくめて小さく首を振る。
(もう始まってる)
――車は、すでに動いていた。
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郊外の景色は、確かに美しかった。
緑。
整えられた庭。
遠くに見える競馬場の建物。
「……アスコットって、競馬場ですよね」
「そうだ」
「……教育と、どう関係が」
「ある」
(説明しろ)
車が止まり、ドアが開く。
降り立った瞬間、悠馬は悟った。
――”人が多い。”
だが、
昨日までの「個別」「少人数」とは違う。
ここには、
”流れ”がある。
人々は、
それぞれの距離を保ち、
それぞれの会話をし、
それぞれの役割を演じている。
「今日は、知人が何人か来ている」
エド叔父が言う。
「軽い挨拶でいい。
深く踏み込む必要はない」
(昨日と真逆……)
「……叔父上」
悠馬は、もう一度、食い下がった。
「俺、何の評価をされてるんですか」
足を止める。
エド叔父は、
初めて立ち止まり、悠馬を見た。
「評価?」
「はい。
レッスンなら、目的とゴールが……」
「目的は単純だ」
穏やかな声。
「“場”に慣れること」
(場……)
「フランスでは、個別対応で崩れた」
(報告、やっぱり来てる)
「ならば、今日は“流れ”だ」
人が多く、
視線が分散し、
会話が短く、
役割が固定される場所。
「逃げなくていい。
固まらなくていい。
ただ、立っていればいい」
(それなら……)
ほんの一瞬、希望が芽生えた。
――が。
「……叔父上」
悠馬は、小さく息を吸った。
「それ、
レッスンの説明としては、遅くないですか」
エド叔父は、微笑んだ。
「今、説明した」
(今!?)
その瞬間、
知人らしき人物が近づいてくる。
「エドワード、
今日はいい日だね」
「そうだな」
紹介が始まる。
「こちらは、甥の悠馬だ」
(始まった)
「……はじめまして」
声は出た。礼もできた。
――奇跡だ。
会話は、短く、軽い。
天気。
今日の予定。
それだけ。
人は、次々と流れていく。
(……あれ?)
悠馬は、気づく。
誰も、踏み込んでこない。
距離は一定。質問も浅い。
(……これ、昨日より……楽……?)
エド叔父は、
少し離れたところから、
それを見ていた。
(……よし)
フランスでは、個別距離で崩れた。
だが、
“場”が主役なら、悠馬は耐えられる。
「……叔父上」
一段落したところで、悠馬は言った。
「これ……教育、ですか?」
「そうだ」
「……聞く前に始まってましたけど」
「その方が、本質が出る」
(理不尽)
だが、否定しきれない自分がいる。
確かに、
今日は逃げていない。
走ってもいない。
胃は……
まだ生きている。
エド叔父は、静かに結論を出した。
(実践3、合格……ではないが、”適性あり”)
「さて」
穏やかに言う。
「次は、”もう一段階、距離を詰める”」
悠馬の背中に、
冷たいものが走った。
「……叔父上?」
「今日は休日だ」
その笑顔。
「時間は、まだある」
(やっぱり……終わらない……)
郊外の空は、どこまでも青かった。
AIアシスト作品です。
対人耐性0、恋愛耐性0、人との距離感が終わっている悠馬君のコイバナ?になるんだろうか?な、話です。一応コメディです。たぶん。
前回の「佐伯悠馬は胃が痛い」を読んでいなくてもわかるように頑張ってみました。
一言でもいいので感想をくださるとうれしいです。




