深夜に現る次元獣、襲来。
――23時55分。
櫻魅耶の街が寝静まった深夜。時計の針は、約束の零時を目前に控えていた。
それぞれの家で、タケル、ケン、モンタの三人は人生で最もスリリングな「寝たふり」を完遂しようとしていた。
タケルは自分のベッドに、丸めた毛布とクッションを巧みに配置した。上から掛け布団を被せれば、暗がりの中では健康的な少年が一人、健やかに眠っているようにしか見えない。
「よし、これで母ちゃんが部屋を覗いても大丈夫だ」
タケルは暗闇でニヤリと笑った。
同じ頃、ケンは自室の学習デスクに本を積み上げ、さらに枕を寝椅子に置くことで、いかにも「勉強中に寝落ちした息子」のシルエットを作り上げていた。その徹底ぶりは、親の心理すら計算に入れた完璧なカモフラージュだった。
モンタは、自分の巨体に似せた大きな抱き枕を布団に潜り込ませ、呼吸音の代わりに小さなタイマーの音を響かせた。
三人は、左腕に巻かれた《ゾーンブレス》のパネルを起動させる。
青白い光が文字盤に走り、転送先の座標が“ハイド・ベース”に固定された。
「行くぜ…!」
タケルがボタンを押し込んだ瞬間――三人の体は粒子状の光へと分解され、それぞれの自室から音もなく消え去った。
『生体反応、三名を確認。転送、完了しました』
無機質なシステム音声がベースに響く。
ハイド・ベースの格納庫に実体化した三人は、互いの無事を確認する間もなく、それぞれの愛機へと駆け出した。
「計算通りだ。転送システムは正常に機能したよ」
『各機、パイロット搭乗を確認。ベース形態から出撃形態へ移行します』
ゴゴゴゴゴゴ……!
山奥の三人の秘密基地が凄まじい駆動音と共に分割され、超合金の装甲板が地表を割ってせり出してくる。三人は吸い込まれるように、それぞれの定位置へと走り込んだ。
タケル:1号機
モンタ:2号機
ケン:3号機
「よーし、二人とも! 例の次元獣を倒しに行くぞ。 ゾーン・マシーン、全機発進ッ!!」
三機のマシーンは、闇に紛れるように山影から飛び出し、一路、目的地である"第二発電所"へと向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――数分後。
三機は高度5,000メートルの雲海の中に潜んでいた。
眼下には、昨夜一部が破壊されたものの、依然として櫻魅耶の電力を支え続けている第二発電所が広がっている。
「……見て。自衛隊が展開してる」
ケンの操縦席、中央に浮かぶ全天周囲モニターの一部に、高感度赤外線カメラの映像が映し出された。
発電所の周囲には、最新鋭の10式戦車や地対空ミサイル車両が隙間なく配置され、サーチライトが夜空をせわしなく切り裂いている。
「俺たちが目立っちゃうと、あいつらパニックになるよな?」
「そうだね、タケル。今は光学迷彩を最大出力にしているけど、戦闘が始まればそうはいかない。自衛隊に気づかれないように、一気に次元獣を仕留めるよ」
三人は固唾を呑んで、モニターに映る“何もない空間”を見つめ続け、沈黙が流れる。
――だが、正確にそれはやってきた。
――パリンッ!!
高圧電線が不自然な放電を繰り返し、夜空の一部が鏡が割れるようにひび割れた。
「来たッ!」
タケルが叫ぶ。
漆黒の空に走る、紫色の稲妻。その亀裂から、昨日警備員が目撃したあの異形が、ゆっくりと這い出してきた。
首の周りに配置された6枚の赤いヒレ。鈍色の外殻は、昨夜よりもさらに禍々しく、その体躯は周囲の鉄塔を玩具のように見せかけるほど巨大だった。
「ギガァ"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ァ"ッ!!」
次元獣の咆哮が櫻魅耶の深夜に轟き、自衛隊のキャンプが蜂の巣をつついたような騒ぎになる。
地上から一斉に放たれる照明弾が、怪物の姿を白日の下に晒した。
「よし、ケン、モンタ! 晩飯(電気)を食い始める前に、攻撃するぞ!」
タケルが操縦桿を強く引き込み、フレア・ストライカーの機首を急降下へと向けた。
深夜の櫻魅耶を舞台に、少年たちの次元獣との二度目の戦いがいま、幕を開ける。




