闇に蠢く、新たな次元獣。
――深夜、午前0時丁度。
地方都市・櫻魅耶の喧騒はとうに静まり返り、街は深い眠りに落ちていた。しかし、街の北西に位置する《櫻魅耶第二発電所》だけは、巨大な心臓の鼓動のように、低く唸るような稼働音を響かせ続けていた。
その静寂と稼働音が混ざり合う空間で、突如として“異変”が起きた。
――パリンッ!
何かが割れるような、鋭く乾いた音が深夜の空気に響き渡る。主変電所の高圧鉄塔の直上。何もなかったはずの空間が、まるでガラス細工が砕けるように歪み、禍々しい"次元の裂け目"が口を開いた。
そこから溢れ出したのは、星のない夜よりも深い、漆黒の霧。そして、その霧を押し分けるようにして、一匹の異形が姿を現した。
ドスンッ……。
重く、地響きを伴う足音がアスファルトを砕く。
新たに現れた次元獣だ。その姿は、前回の植物型とは全く異なる、重厚な装甲に覆われた獣のようであった。
次元獣は、迷うことなく巨大なトランス(変圧器)へと歩み寄った。
その容姿は、見る者に根源的な恐怖を与える。硬質な鱗のような皮膚に覆われた巨躯。最大の特徴は、首の周囲に展開された6枚の赤いヒレだ。
次元獣が大きく裂けた口を開くと、そこから触手のような絶縁体状の器官が伸び、発電所の基幹ケーブルへと絡みついた。
――バチバチバチッ!!
凄まじい放電現象が起き、深夜の発電所が青白い閃光に包まれる。次元獣は、人間が作り出した莫大な電気エネルギーを、まるで甘い蜜を啜るかのように吸収し始めた。
エネルギーが体内に流れ込むたび、次元獣の首元にある6枚の赤いヒレが、脈動するように赤黒く発光する。そして、十分にエネルギーを摂取したと判断したのか、次元獣はヒレをバサリと閉じ合わせ、頭部を完全に防護した。閉じられたヒレは、あらゆる衝撃を跳ね返す、鋭利で尖った盾へと姿を変える。
「おい……今の音、聞いたか?」
発電所の敷地内を巡回していた二人の警備員が、ライトを手に駆け出してきた。主変電所の方角から聞こえた異常な爆発音と、不自然な停電。
「トランスが爆発したのか? それとも……」
一人の警備員が、震える手で強力なサーチライトを向けた。
その光の先に浮かび上がったのは、巨大な鉄塔を飴細工のようにへし折り、電気を貪る"怪物"の姿だった。
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
「ば、化け物だ!!」
警備員たちは腰を抜かし、持っていたライトを放り出して逃げ惑った。しかし、次元獣は背後で絶叫する小さな人間たちに目もくれない。彼らにとって、人間など羽虫にも等しい存在。その関心は、ただ一点――己をさらに強大にするエネルギーのみにあった。
「ガガァァァァァッ!!」
次元獣が勝利を誇示するように咆哮を上げた。
電気を吸い尽くされた発電所は、過負荷によって次々と爆発を起こす。次元獣は、めちゃくちゃに破壊された建物の残骸を、図太い足で踏みつぶしながら進んでいく。
ドスンッ、ドスンッ、ドスンッ。
一歩ごとに櫻魅耶の大地が震える。発電所の管理棟は、怪物の通り道になっただけで粉々に粉砕された。
やがて、目的を果たしたと言わんばかりに、次元獣は再び開いた次元の裂け目の中へと、その巨躯を消していった。
後に残されたのは、火花を散らす無残な廃墟と、ただただ震え続ける目撃者だけだった――。




