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超次元勇士ゾーンG(グレート)ロボ  作者: 道化師
ティル・ナ・ノーグ編
22/25

―回想―私と三人との出会い。

「ねえ、愛。本当に行かなくてよかったの?」


冷房の効いたショッピングモールの喧騒の中、母親である、灰坂翠が隣を歩く娘に問いかけた。その両手には買い物袋が握られている。


「ううん、良いのよ。今日はお母さんと一緒に買い物したい気分だったから。せっかくの家族水入らずだし♪」


愛はそう言って、母の腕に軽く自分の腕を絡めた。学校では「"完璧な先輩"」として振る舞う彼女も、母親の前では一人の娘に戻る。

ふと、モールの吹き抜けから差し込む強い夏の日差しが、一年前のあの日と重なった。


(思えば……あの日、私は三人と出会い、私の日常は少しだけ賑やかになったんだよね) 


愛は目を細め、記憶の糸を辿り始めた。それは、彼女がまだ小学5年生で、三人がまだ、4年生だった頃の少しだけ苦くて、とても熱い夏休みの記憶――。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


―1年前の夏休み―。


灰坂愛は、同年代の女子に比べて、その身体の成長が著しく早かった。

身長はクラスの誰よりも高く、そして何より、5年生にして既に大人びた胸の膨らみは、子供たちの残酷な好奇心の標的になっていた。

クラスの女子からは「モデルさんみたい」と羨ましがられる反面、男子からはニヤニヤとした卑猥な視線を投げかけられる。


――灰坂、お前それ、中に何詰めてんだよ。あはは――


――重くないのかよ、その胸――


――出た!乳デカ女だー!――


そんな言葉を投げかけられるたびに、愛は背中を丸め、なるべく目立たないように過ごすようになっていた。大好きだった夏休みなのに、外に出るのが少し怖かった。

その日も、愛は塾の帰り道、日差しを避けるようにして公園のベンチで一休みしていた。手元には、終わらせなければならない算数の宿題。


「おい、見てろよ。あそこ、すげー女の子がいるぞ」


不意に、聞き慣れない声が響いた。顔を上げると、そこには見知らぬ、恐らくよそ男子4人が立っていた。彼らは愛の顔ではなく、明らかに胸元を凝視しながら、下品な笑みを浮かべている。

「なぁ、お前、何してんだこんな所で? 」

「うぉ!?胸でっか!」

「何を食べたら、あんなでっかくなるんだよ」

「にしても、でけぇ、おっぱいだな…!」


愛は恐怖で指先が震えた。逃げようとしても、4人に囲まれて逃げ道がない。


「い、いや…!」


声を絞り出すも彼らには愛の声は届かず、むしろ余計に4人の調子が乗るばかりだ。


「なあなあ、そのおっぱい本物か?ボールとか、入れてるとかじゃないよな?」

「バーカ。そんなの触ればわかる事だろ?そんなの」

「い、いや…!」


愛は咄嗟に胸元を両手で隠した。


「ンだよいいじゃん、ちょっとぐらい、いいじゃねぇか。触るぐらいよ」

「いやっ…!」

「コイツ…!」


一人が愛の腕を掴もうとした、その時――。


「―おい。何やってんだよ、お前ら」


――低く、通る声が響いた。


公園の入り口、虫取り網とカゴを担いだ三人の少年が立っていた。

真ん中に立つ、少し目つきの鋭い少年が竹澤尊(たけざわたける)

その隣で、大柄でいかにも力持ちそうな少年が桃谷門田(ももたにもんた)

そして、眼鏡をクイッと押し上げながら不敵に笑うのが石谷謙いしたにけん


「あ? 何だお前ら。部外者はすっこんでろよ」


よその男子のうちいかにもリーダー格の1人が前に出て毒づく。しかし、タケルは動じない。肩に担いだ虫取り網を地面に下ろし、一歩前に出た。

「部外者じゃねえよ。ここは俺たちの縄張りなんだ。そこで女の子をいじめていい許可なんて出してねえぞ」

「なんだとッ!」


男子たちのうちのリーダー格が、タケルに向かって威嚇するように更に一歩、踏み出した。彼らは小学6年生だろうか、この時の三人はまだ、4年生だ。 

リーダー格の男子はタケルたちより一回り体格がいい。

しかし、タケルは眉一つ動かさなかった。


「ガキとか、どうかなんて、お前らもガキじゃあねぇかよ、たく。寄ってたかって女の子を囲んで、ニヤニヤ顔なんかしやがって……。だっせぇ」


タケルの言葉に、背後で震えていた愛は目を見開いた。


(あれ?あの人たち……確か、同じ小学校の……)


私は学校でたまに廊下ですれ違う際、いつも騒がしく走り回っていた、下級生の三人組の事を思い出す。名前までは知らなかったが、その威勢の良さは噂で聞いていた。


「はぁ?、お前らコイツの何なんだよ。身体ばっかりデカい、ただの()()()だろ?」


その言葉が投げかけられた瞬間、タケルの後ろで、眉毛をピクッと動き一歩、前にモンタが動いた。


「……おい。今、なんて言った」


地響きのような低い声でモンタは普段、温厚で争い事を好まないが、その目は今まで見たことがないほど怒りに燃えていた。

モンタを含めタケルもケンも目の前で縮こまり震えている女の子を知っている。一学年上の灰坂愛先輩――。

学校の廊下ですれ違うたびに、その大人びた雰囲気と、どこか寂しげに伏せられた睫毛が印象的だった。

4年生のモンタにとって、彼女は遠い空に浮かぶ月のような綺麗な人で憧れの対象だったのだ。


「その子に――灰坂さんに……変なこと言うなッ!」


モンタが雄叫びを上げながら一歩踏み出す。その巨躯から放たれる威圧感に、よその男子たちが一瞬怯んだ。


「チッ、何だよ急に!数じゃこっちが上だ! やっちまえ!」


相手の4人が一斉に襲いかかろうとした、


――その時。


「無策だね。4対3を過信するのは、二流のやることだよ」


冷静な声と共に、ケンが眼鏡をクイッと押し上げた。ケンは塾帰りなのか、手に持っていた重たい参考書入りのバッグを、計算され尽くした軌道で一人の足元へ放り投げた。


「うわっ!?」


足を取られた一人が転倒する。そこへタケルが虫取り網を振り回し、目隠しをするように相手の顔を覆った。


「よしゃ!モンタ、今だ!」

「おうっ!」


モンタは自分よりも頭一つ分大きなリーダー格の男子の前に立ちはだかり、その両腕をがっしりと掴んだ。力任せに振り払おうとする相手を、モンタは圧倒的なパワーでねじ伏せる。


「さあ!灰坂さんに、謝れ!」


モンタの低い、けれど芯の通った声。

愛はベンチで小さくなったまま、その光景を呆然と見ていた。自分を嘲笑う大人びた視線から、自分を一人の"女の子"として守ろうとしてくれる。


「く、くそっ……! 覚えてろよ!」


圧倒的な気迫に押された4人は、バラバラに逃げ出していった。

嵐のような数分間が過ぎ、公園に静寂が戻る。セミの声だけが、やけに大きく響いていた。


「ンだよ、逃げ足だけは速いな。アイツら」


タケルが網を担ぎ直し、愛の方を振り返った。


「大丈夫か?灰坂さん 」


愛は、まだ指先が震えていた。けれど、彼らは今までクラスの男子たちから投げつけられた蔑称と言葉とは全く違う、自分を心配してくれる言葉に何故か、温かい響きに聞こえた。


「……う、ん。ありがとう。……助けてくれて、本当に、ありがとう……っ」


愛は顔を上げ、絞り出すような声で礼を言った。


その時、彼女の目には涙が溜まっていた。


恐怖から解放された安心感と、自分のために怒ってくれた彼ら三人への感謝。太陽の日差しに照らされた彼女の顔は、ほんのりと赤らみ、潤んだ瞳がキラキラと輝いている。


――その瞬間。


愛を一番近くで庇っていたモンタの鼓動が、ドクン、と大きく跳ねた。


(……ッ!)


目の前で涙を浮かべて自分たちを見つめる“灰坂さん”の表情が、たまらなく愛おしく、そして綺麗に見えた。

モンタの胸の中に、熱い何かが一気に広がっていく。それが“初恋”だと自覚するにはまだ幼すぎたが、モンタはこの時、心に誓った。この人を、二度とあんな目にあわせたくないと。


「……別に。俺たちの公園で威張ってるのが気に入らなかった、だけだぞ!」


タケルが照れ隠しに頭をかく。


「まぁ、あそこで見捨てる選択肢はなかった、だけですから」


ケンが少しだけ耳を赤くして眼鏡を直した。


「あ、あの!灰坂さん!」


モンタが我慢できずに一歩前に出た。


「あ、あの……僕、桃谷門田って言います!こっちの二人は竹澤尊と石谷謙で僕たち三人は同じ 羽山小学の4年生です! その……もしよかったら、一緒に遊びませんか!?」

「えっ……?」


愛は目を丸くした。


「宿題、まだ終わってないんだろ? なら俺たちが終わるまで付き合ってやるよ。あいつらみたいな奴に絡まれないよう、俺たちが見張らなきゃいけないしな!」


タケルがニカッと笑う。


愛の心に、すーっと涼しい風が吹き抜けた。


「……うん。……うん! 私、灰坂愛って言います。君たちと同じ羽山小学校で一つ上の5年生。改めてよろしくね!」


それから、空が黄金色から深い茜色、そして紫色のグラデーションに染まるまで、四人は公園で過ごした。

モンタが捕まえた大きなアブラゼミを愛に見せて「ひゃあ!」と驚かれたり、ケンの持っていた難解なクイズに四人で頭を悩ませたり。

愛が教えてあげた算数の問題が解けて、モンタが「灰坂さん、教えるの天才だ!」と大はしゃぎしたり。

身体のことなんて、誰も気にしていなかった。

タケル、ケン、モンタの三人が見ているのは、ただの“灰坂愛”という一人の少女だった――。


「あーあ、もう夕日だ。そろそろ帰らなきゃ」


タケルが伸びをした。


「灰坂さん、家まで送るよ。この時間帯だと女の子一人で帰るのは危ないからね」


ケンが提案し、三人は愛を囲むようにして歩き出した。

帰り道、愛は心の中で何度も反芻していた。


――あの日、あの時、勇気を出して声をかけてくれたタケル君、ケン君、モンタ君。自分の日常を、少しだけ……いや、劇的に変えてくれた三人。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「愛? ほんとにどうしたの、にやにやして」


母親の翠の怪訝そうな声に、愛はハッと我に返った。


「えへへ、なんでもないよ。ちょっと、去年の夏休みのことを思い出してただけ」


愛は母の腕をぎゅっと抱きしめ直した。


あの日、モンタ君が私の顔を見て真っ赤になった理由、今はもう、なんとなく分かる。

今では"愛先輩"なんて、呼んでる彼らだけど、あの日の"灰坂さん"と呼ぶ少し硬い声が、今の私を作ってくれたんだ。


「ねえ、お母さん。買い物終わったら、アイス買って帰らない? タケル君、ケン君、モンタ君の三人の分も♪」

「あら、いいわね。あの子たち、きっと喜ぶわ」


ショッピングモールの外は、あの日と同じ、突き抜けるような青空。

愛は眩しそうに目を細め、三人の顔を思い浮かべながら、軽やかな足取りで母親と一緒に並びながら歩き出した。





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