紅き鋼鉄の咆哮!発進、ゾーン・マシーン!
「……おい、嘘だろ。消えちまったぞ、あの人!」
山奥の秘密基地の裏手。タケルは、自分の左手首に巻き付いた黄金のブレスレット、《ゾーンブレス》を見つめて呆然と立ち尽くしていた。つい、数分前まで目の前にいた、透き通るような姿の"次元超人"は、言葉を遺して光の粒子となり、初夏の空へと溶けていった。
「『"未来を託す"』なんて、そんなSF映画みたいなこと言われても……」
ケンが、震える手で眼鏡を押し上げた。彼は常に冷静な理論派だが、今起きている現象は彼の天才的頭脳をもってしても解析不能だった。手首のブレスを外そうと試みるが、まるで肌の一部になったかのようにびくともしない。
「タケル君、これ……本当に僕たちがやるの? 本物のロボットに乗って戦うなんて……」
モンタは、その恵まれた体格を小さく丸めて、足元に鎮座する深紅の巨神を見上げた。メタリックレッドとシルバーに輝くその機体は、戦いの傷跡を残しながらも、静かな威圧感を放っている。
三人が戸惑う中、平和な櫻魅耶の街に、地獄の鐘の音が鳴り響いた。
――ドォォォォォンッ!
突如として街の中心部で爆発が起こった。空の亀裂から這い出してきたのは、全身から無数の太い蔓が突出しており、その表面には鋭利な巨大な棘がびっしりと生え揃っている巨大な人型の怪物――《次元獣》だ。
「なっ、何だあれは!?」
秘密基地に設置された多画面システムモニターにケンはパニックに陥る櫻魅耶の市街地が映し出された。《次元獣》の一振りが、三人がよく通う駄菓子屋の看板を粉々に砕き、逃げ惑う人々の影を飲み込もうとしている。
「おい、街が……!アイツ、街をめちゃくちゃに破壊してやがるぞ!」
タケルの瞳に、熱い怒りの炎が宿った。タケルは考えるよりも先に、基地の地下へと続くハッチに手をかけた。
「待てよタケル! 行ってどうするんだ! 僕らはただの子供なんだよ!?」
ケンの制止を振り切り、タケルは叫んだ。
「だから何だってんだ! 俺たちの街が破壊されてるんだぞ! あの人が言った『"希望"』ってのがこれなら、俺は今すぐアイツをぶっ飛ばしに行く!」
タケルの迷いのない背中を見て、ケンは大きな溜め息を吐いた。
「……はぁ。やっぱり、こうなるのか。理論もへったくれもないね、君は」
ケンは呆れ顔ながらも、素早い手つきでキーボードを叩き、ブレスから送信されてくるデータの解析を始めた。
「……わかったよ。君を一人で行かせたら、生存確率はゼロだ。僕がバックアップしてやる。……モンタ、君はどうする?」
「……タケル君が行くなら、僕も行く! 鍛えた筋肉は、こういう時のためにあるんだ!」
三人の心が一つになった瞬間、黄金のブレスが眩い光を放った。
ゴゴゴゴゴゴゴ!
「な、なんだ!? 基地が揺れてる!」
三人が驚愕する中、手作りで改造してきた古い二階建ての廃屋が、凄まじい駆動音と共に組み換わっていく。
壁は超合金の装甲板へと覆われ、床は精密な油圧シリンダーによって地下へと沈み込んでいく。
「秘密基地が……本物の軍事要塞みたいになっていく……!」
ケンの叫び通り、古びた内装は一変し、青い光が走るサイバーパンクな指令室へと変貌した。
地下深く、広大な格納庫。そこには、"次元超人"の遺志によって修復され、三つの形態に分割された次元マシーンが鎮座していた。
『各機、パイロットの生体反応を確認。システム、オールグリーン』
無機質なシステム音声が響き、タケル、ケン、モンタの三人は、それぞれの機体へと吸い込まれるように乗り込んだ。
次元マシーンに吸い込まれた三人を待っていたのは、外観からは想像もつかないほど洗練された未知のテクノロジーだった。
「なんだこれ……計器が一つもないぞ!?」
タケルが座る1号機フレア・ストライカーのコクピットは、全天周囲モニターとなっており、視界を遮る壁が存在しない。タケルが操縦桿を握ると、黄金のブレスから無数の光の糸が伸び、彼の神経と機体をダイレクトにリンクさせた。機体は全長16.5m程ある、高度迎撃戦闘機型。
一方で、全長:18mある 重装甲・多目的装甲車型の2号機アイアン・グラップラーはモンタが乗り、するとモンタの前にプロレスのリングを彷彿とさせるような、二本の巨大なレバーと力計測器がせり出していた。
「モンタ君、それは君の筋力をパワーに変換するインターフェースだよ!」
映像通信にケンの顔と声が飛ぶ。
「うわぁビックリした!?」
モンタは突然映像通信から映った、ケンの声に思わず驚愕した。
そして3号機のギガ・ランダーに座るケンだけは、空中に浮かぶホログラムパネルを高速でフリックしていた。
「このマシーンの大きさは全長25m…!こんな大きさなだけに重力制御で動かすなんて…でも、このシステムならなんとか、僕が最適化出来そうだ!」
「んじゃあ、そろそろ行くぜ……!」
「ちょっと待ってよ!」
タケルが発進しようとした時、ケンが制止する。
「何だよ、ケン。街がヤバいんだ、早く行こうぜ!」
逸る気持ちを抑えきれないタケルが、リンクした操縦桿を強く握りしめる。
「ちょっと待って、タケル! まだ起動シーケンスの同期が不完全なんだ。もし今、無理に動かして、出力が暴走でもしたら……。そもそも、僕たちは操縦の仕方だって教わってないんだぞ!」
ホログラムの数値を必死に追いながら、ケンがモニター越しの通信で叫ぶ。理論派の彼にとって、未知の兵器をぶっつけ本番で動かすなど、正気の沙汰とは思えなかった。
しかし、タケルは全天周囲モニターに映し出されるコックピットの光景を不敵な笑みで見渡した。
「難しく考えすぎだって! ケン、よく見てみろよ。このレバーの握り心地にボタンの配置……商店街の近くのゲーセンにある『超銀河大戦』とそっくりじゃねえか!」
「……はぁ!? 何を言ってるんだ君は。これは未知のオーバーテクノロジーで、物理法則すら――」
「あそこのスコアボード、いっつも俺たちが独占してたろ? 同じだよ! 考える前に、体が覚えてるって!」
「タケル君の言う通りだよ、ケン君!」
アイアン・グラップラーのシートで、モンタも大きく頷いた。
「このレバーも、プロレスのトレーニングマシンの重さに似てる! 気合を入れれば、動かせそうな気がするよ!」
「気合で動くなら、科学者なんていらないよ……!」
ケンは大きな溜め息をついたが、モニター越しに映るタケルの真っ直ぐな瞳を見て、言葉を飲み込んだ。
「……わかったよ。君の『ゲーセン理論』が正しいことを祈るしかないね。ハイド・ベース、発進ゲート開放! 行くよ、タケル!」
「おうよ! 1号機、フレア・ストライカー! 行くぜええッ!」
タケルが「格ゲー」の必殺技コマンドを入力するようにレバーを叩き、ボタンを連打する。
その瞬間、フレア・ストライカーのメインエンジンが吼えた。カタパルトから解き放たれた深紅の戦闘機が、アフターバーナーの炎をなびかせて、一気に櫻魅耶の空へと舞い上がった。
続いて、モンタの2号機アイアン・グラップラーが地響きを立てて爆走し、ケンの3号機ギガ・ランダーが重力制御の青白い光を放ちながら滑空を開始する。
「うおおっ、本当に飛んだ! すごいぞ、これ!」
「加速Gが計算を超えてる……っ! 舌を噛まないように気をつけて、モンタ君!」
「大丈夫! 全然怖くないよ!」
三人の少年を乗せた三機のマシーンが、次々と破壊され燃えていく街を救うため、初めての戦闘へと飛び出していく。




