火照る肌と少年たちの聖夜
地下での惨劇を、地上の誰もがまだ、誰一人として知らない――。
リゾートアイランド『ティル・ナ・ノーグ』の夜は、優しく、そして甘美に少年たちを包み込んでいた。
「あ~~~……極楽、極楽……」
タケルが露天風呂の縁に頭を預け、手足を思い切り伸ばす。
夜空には満天の星々と、島全体を彩るイルミネーションの残光が混ざり合い、湯気越しに見る景色はどこか現実味を欠いていた。
「タケル、お前泳ごうとするなよ。ここはプールじゃないんだから」
「分かってるって、ケン! でもさ、こうして三人で露天風呂なんて、なんか修学旅行みたいで最高じゃん?」
ケンは肩までお湯に浸かり、心地よい倦怠感に目を細めていた。隣ではモンタが、湯船に顔を半分沈めて「……愛先輩も、今頃隣のお風呂に……」とブツブツ不穏な独り言を漏らしている。
「おいモンタ、のぼせて変な妄想すんなよ。さあ、上がるぞ」
タケル、ケン、モンタの三人は露天風呂から上がり。着替えを済まし、三人は並んで自動販売機の前に立った。
選ぶのは、温泉の“正装”とも言えるコーヒー牛乳だ。
「ぷはぁっ!! これこれ! これがないと終わらねぇよな!」
腰に手を当て、瓶を高く掲げて一気に飲み干すタケル。
三人の少年たちの間には、日常を忘れさせるような穏やかな時間が流れていた。
浴衣に着替え、ホカホカと体から湯気を立てながら男湯の暖簾をくぐる。
――その瞬間だった。
「あっ、みんな。奇遇だね」
隣の女湯の出口から、ちょうど灰坂 愛先輩が現れた。
濡れた髪を軽くまとめ、首筋には湯上がりの微かな赤みが差している。普段の快活な印象とは異なり、浴衣の襟元から覗く白い肌と、しっとりとした女の艶が、夜の照明に照らされて一層際立っていた。
「…………ッ!!!」
それを見た瞬間、モンタが石化した。
目を見開き、口を半開きにしたまま、コーヒー牛乳の空き瓶を握りしめて愛先輩を凝視している。その顔は、のぼせているのか照れているのか分からないほど真っ赤だ。
「……あーあ。モンタのやつ、完全に魂抜かれたな」
「救いようがないですね。愛先輩、そんなに見つめられると困っちゃいますよ」
タケルとケンの呆れ顔をよそに、愛先輩は「ふふっ、どうかした?」と無邪気に微笑む。その破壊力に、モンタは危うくその場で膝を突きそうになっていた。
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それから四人で長い廊下を歩きながら、他愛もない雑談に花が咲く。
「明日ビーチでお母さんが特等席を予約してくれたの♪」なんて、明日の予定を話をしているうちに、タケルたちの宿泊部屋の前に四人揃って到着した。
「じゃあ、僕たちはここで。愛先輩もゆっくり休んでくださいね」
ケンがそう言って別れを告げようとしたその時、愛先輩がくるりと振り返った。
「ねえ、せっかくだし、この後みんなで私の部屋に来ない? お菓子もたくさんあるし、カードゲームでもして遊ぼうよ!」
「「「え"っ!!?」」」
思わぬ誘いに、三人の声が重なった。
特にモンタは、今度こそ心臓が止まりそうなほどに激しく動揺している。
「いいのかよ、俺ら、三人がお邪魔しても!」
「もちろんよ。お母さんも夜は若者同士で楽しみなさいって言って、マッサージに行っちゃったし」
愛先輩のウィンク一つで、少年たちの運命は決まった。
これから始まるのは、リゾートの夜の延長戦。
タケルは楽しみな冒険に目を輝かせ、ケンは密かに花見さんへの"報告"のネタが増えたことを考え、モンタはただただ幸福なパニックに陥っていた。
ホテルの地下深くで、紫の瞳が獲物を求めて蠢いていることなど、今の彼らには想像すらできない。
楽園の夜は、どこまでも残酷に、そして優しく過ぎていく――。




