タケル、ヤンキーギャルと遭遇する。
――4月29日、午前11時13分。
ケンが図書館でリーリアと優雅な時間を過ごしているその頃――タケルはと言うと。
「よっしゃあ! 今日はシミュレーション特訓、全メニュー消化してやるぜ!」
ゴールデンウィーク直前の高揚感と、有り余るエネルギー。タケルは自宅を飛び出すと、"秘密基地"へと続くショートカット、神社の石段を一段飛ばしで駆け上がる。心臓の鼓動がリズムを刻み、視界が加速する。
だが、石段の最後の一段を踏み越えた瞬間、タケルの視界に賽銭箱の前に、一人の少女が座り込んでいた。
神聖な境内の空気とはおよそ不釣り合いな、刺すような視線。
派手に染め上げられた髪、鋭いツリ目、そして挑戦的な色のカラーコンタクト。服装はさらに過激だ。おヘソが丸見えの短いトップスからは、発育の良い胸元が、こぼれんばかりに主張している。
「……あァ?」
少女がタケルを睨みつけた。その威圧感は、そこらの大人よりもよっぽど恐ろしい。
「何見てんのよ、ガキ。ここ、私の特等席なんだけど…」
その声は低く、どこか冷めている。知的な響きを含みながらも、隠しきれない棘があった。
「はぁ?、こっちは急いでんだよ。通らせてくれよ!」
「はあ? 生意気……。ガキの分際で私に指図するわけ? 邪魔。どっか行きなさいよ、目障り」
タケルより頭一つ分以上高い身長。立ち上がった彼女の影がタケルを覆う。
(なんだ、この人……。でも、ここで引いたら、俺の男としてプライドが許さねぇ!)
「だったら…どかねぇなら、無理やり通るだけだぜ!」
「フンッ、やってみなさいよ。あんたみたいなチビ、片手で捻り潰してあげるから」
少女は不敵に笑う。その瞳の奥には、どこか世界を拒絶するような、寂しさを煮詰めたような複雑な色が混じっていた。
タケルは直感した。真正面からぶつかれば、確実に叩きのめされる事を。
「――へ、悪いな、お姉さん! 」
タケルは低く潜り込むように踏み込んだ。
「甘いっ!」
少女が右手を振り下ろそうとしたその瞬間――タケルはあえて無防備な懐へと飛び込み、彼女の重心を崩すために、目の前にあった一番大きな突起に手をかけた。
――ギュッ。
「……え?」
タケルの両手は、少女の豊かな胸を真正面から鷲掴みにしていた。柔らかく、それでいて弾力のある感触が手のひらに伝わる。
「…………ッ///!!!?!??」
少女の顔が、一瞬で真っ赤に染まった。あまりの衝撃に、全身の筋肉が硬直する。
「にしし♪、隙ありだぜっ!」
タケルはその硬直を見逃さず、脇をすり抜けて一気に境内の奥へと駆け抜けた。
「んなぁッ///!?待て! こらぁああっ!! 触ったな!? 今、あんた何したか分かってんの!?」
背後から、これまで聞いたこともないような絶叫が響く。
「悪いな、お姉さん! おれ、急いでるんだ! また今度なッ!」
「今度なんてあるか! 死なす! 絶対に許さないからなぁー!!」
タケルは振り返らず、一気に茂みの中へと消えた。そして、独り残された少女――睡蓮寺 棘は嵐のように去っていった、茂みの中へと消えた少年の方に顔を向けたまま、自分の胸を押さえてその場にへたり込んだ。
「な、なんなのよ、あのガキ……ッ!///」
心臓がうるさいほどに脈打っている。怒りか、屈辱か、それとも別の何かか。
「女子の胸を鷲掴むなんてッ///……本当ッと、生意気なガキね…///!」
彼女は誰にも見られないように、真っ赤になった顔を膝に埋めた。家庭の事情で荒れていた心に、土足で踏み込んできた名前も知らない少年。
「もし、次、何処かで会ったら……絶対に覚えてなさいよッ!///」
4月下旬の爽やかな風が、彼女の火照った頬を撫でていった。




