ケンとリーリア、それぞれの休日。
――4月29日水曜日―午後13時。
静寂が支配する図書館の窓から差し込む春の陽光が、古い書物の匂いと微かな埃をキラキラと輝かせている。石谷謙三ことケンは向かい側に、いつものように現実離れした美しさを放つ彼女、花見・リーリアが座っていた。
聖アルテミス女学院の伝統あるセーラー服。その襟元から流れるプラチナブロンドの髪は、相変わらず何度見ても精緻な銀糸を紡いだかのように光を反射している。
「へぇ~リゾートアイランド、か。チケット持ちの方限定の有名なあの、リゾートアイランド、ティル・ナ・ノーグね」
花見さんは文庫本から目を離さず、鈴を転がすような声で言った。
「はい。クラスの一つ上の先輩から一緒に遊びに行かないかと誘われたんですよ」
「そうなんだ」
花見さんはそっけなく応じると、細い指先でページをめくる。その仕草一つをとっても、中学1年生とは思えない気品が漂っていた。
家族のいない家、外の世界への憧れ
ふと、以前彼女から聞いた話を思い出す。花見さんの両親は共働きで、世界中を飛び回っている。この豪華な制服や恵まれた環境とは裏腹に、彼女の日常は「“孤独”」という色のない絵画のようだった。
ケンは少し勇気を出して、いつもみたいに勉強を教えてもらったり、他愛もない会話などで延長で切り出してきた。
「花見さんは、ゴールデンウィークは何をして過ごす予定なんですか?」
彼女の手が止まる。視線は活字を追ったまま、少しだけ口角を上げた。
「私はね、同じクラスの女子からキャンプに誘われているの。山の方へ行くんですって」
「キャンプ、ですか。意外ですね。花見はインドア派だと思っていました」
「失礼ね、私だってたまには外の空気を吸いたくなる時もあるんだからね」
冗談めかして言う彼女だったが、その瞳には微かな期待が滲んでいた。普段、誰もいない大きな家で過ごす彼女にとって、友人からの誘いは、どんな高級なリゾートよりも輝いて見えているのかもしれない。
「あっ、そうだ、石谷くん」
花見さんが顔を上げ、僕をまっすぐに見つめた。その瞳は、まるで晴れ渡った空のような青。
「後でキャンプで楽しくしている写真とか送るから、石谷くんもリゾートアイランド、ティル・ナ・ノーグでの君が楽しんでる写真、私に送ってね♪」
不意に浮かべた無邪気な笑顔。それは、普段学校で見せているかもしれない花見さんの"お嬢様"の仮面を脱いだ、等身大の少女の顔。
「……ッ///、はい! もちろんです。最高の写真を撮ってきますよ!」
ケンは胸の鼓動が少し速くなるのを感じながら、力強く頷いた。
ケンと花見はゴールデンウィークの連休に過ごす場所も違う。けれど、デジタルの中でお互いの時間を共有する約束をした。ティル・ナ・ノーグの青い海と、彼女が見るであろう深い山の緑。
その二つの景色が混ざり合う時、僕たちの連休は本当の意味で始まるのだ。
「期待してるわよ、石谷くん」
花見さんは再び本に目を落としたが、その表情は先ほどよりもずっと柔らかいものになっていた。




