表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。  作者: 雨宮羽那
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/56

8・責任転嫁


 翌朝。いつもなら朝一で教会へ顔だけは出すはずのミレシアは、昨日の朝に引き続いてやはり今日も姿を見せなかった。

 ミレシアの昨夜見せた意味深な態度は、一夜明けた今も頭の片隅にひっかかったままだ。

 エルティアナ様の像の前でひざまずき、祈りの言葉を口にしながら、私はどうにか心を落ち着かせようとしていた。


 (初代聖女・エルティアナ様。我々セレノレア国民が、今日一日を平和で穏やかに過ごせますように……)

 

 そうして、朝の祈りを終えようと私が目を開いた……その時だった。

 教会の扉が乱暴に開かれ、足音と叫び声が教会に満ちていた静寂を容赦なく切り裂いた。

 

「レティノア、大変よ!」

 

「祈りを捧げている場合じゃない! 今すぐ顔を上げろ!」


 叫び声の主は、見慣れた顔だった。

 フランヴェール伯爵とその夫人――私の父と継母だ。


「お父様、お義母様……どうしてこちらに」


 私は立ち上がり、そっと祈りの姿勢を解く。

 

 彼らがわざわざ教会に足を運ぶなんて、珍しいこともあるものだ。彼らが嫌う私が教会に常駐しているせいもあるのだろう。普段なら滅多なことがない限りは訪れてきたりはしないのに。


「ミレシアがいないの!」

 

「最後にミレシアの姿を見た目撃情報があるのは教会なんだ! レティノア、何か知らないか!」

 

 慌てた様子でバタバタと駆け寄ってきた二人は、私に向かって口々に叫んだ。


 (ミレシアが、いなくなった!?)


「た、確かに昨夜遅くにミレシアが教会へ来ました。ほんの少しだけ話して、すぐに帰っていきましたが……」


 どもりながらも返した私の言葉に、継母が瞬間ぐわっと目を見開く。


「姉のくせに、どうして止めなかったの! あなたが引き止めるべきだったでしょう!」


 そう言われても困る。こちらとしては、ミレシアがあの後失踪するなんて知るわけが無いのだから。


 ……違う。ヒントは与えられていた。

 私の脳裏には、去り際のミレシアの言葉が繰り返し再生されていた。


 『あたしがいなくなれば、あの人たちもきっと気づくわ。あたしにふさわしいのは誰なのかって』


 だが、誰が思うだろう。まさか、本当に翌日姿をくらませるなんて。


「ミレシアがいなくなったのはあなたの責任よ、レティノア! あなたがミレシアに最後に会っているんだから!」


 癇癪(かんしゃく)を起こしたように私を責めたてる継母の声が、教会の高い天井によく響いた。

 私は困惑しきったまま、ただ言葉を失って立ち尽くすしかない。


「昨夜からミレシアの様子は少しおかしかったが、その時は深く考えなかったんだ。だが、今朝になってミレシアの部屋にいくと、置き手紙があったんだ。……アレクシスのもとへ行くと」


 父はそう言うと、握りしめていた手紙を私の方へ見せた。そこには確かに、ミレシアの筆跡で文章がしたためられていた。


「私たちもアレクシス――ローヴェン伯爵家へ行ったが、2人とも昨夜のうちに姿を消している」


 父は手にしていた紙片を悔しげに握りしめた。

 継母は耐えられないとばかりに、ブロンドの髪を乱暴に掻きむしっている。


「朝から色んなところをまわって、2人の姿を見てないか尋ねたわ! ミレシアの最後の目撃情報が教会(ここ)だったのに、あなたなんてことをしてくれたのよ!」


 私は言葉を返せず、ただ唇を噛み締めていた。

 父はどこか焦りを滲ませる表情で顎に手を当て、何やら考え込んでいる。


「しかし、ミレシアがいなくなったことが陛下に知れたらまずい……。クラウス殿との婚姻はミレシアに受けさせるつもりだったが、こうなった以上は――」


 (クラウス様と、ミレシアが婚姻……?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ