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偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。  作者: 雨宮羽那
第3章

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34/56

34・今だけは


「聖女殿」


 低い声に呼ばれて顔を上げる。

 見上げれば、そこにはクラウス様が立っていた。


「すまない、待たせてしまっただろうか」


「い、いいえ!」


 クラウス様は、以前旅芸人の公演を見に行った時と同じような服装をしていた。

 いつもの白い騎士服も良いが、シンプルな服装もまたよく似合っている。


 慌てて立ち上がると、クラウス様は何やらじっと私の頭を見つめていた。

 

「……その髪型は、いつもと雰囲気が違うな」


「せ、セリナがアレンジしてくれまして……」


「セリナ……。ああ、あのにぎやかな侍女か」


 どうやらすぐに髪型が違うことに気づいてくれたらしい。それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「……よく似合っている」


 言いながら、クラウス様はふいと視線を逸らした。ほんの少し、頬が赤いように見えたのは気のせいだろうか。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 まさか、クラウス様に褒めてもらえるなんて思ってもみなかった。

 まっすぐにクラウス様の顔を見られなくて、どうしても俯いてしまう。

 

「……そ、それで、今日はどちらに行かれる予定なんですか?」


 なんだか礼拝堂に流れる空気の温度が、いつもよりも高い気がする。

 私は自分の顔の熱さを隠すように、クラウス様へ問いかけた。

 

「城下の先にある湖畔に向かおうと思っているが、嫌ではないか?」


「い、いいえ! ……楽しみです」


「……そうか」


 クラウス様は安堵したように息を吐くと、扉の方へ向かって歩き出す。

 私はクラウス様の後を足早で追いかけた。


 

 教会を出て、クラウス様と並んで街を歩く。

 こうして二人で歩くのは、巡礼訪問のあの日以来だ。


 昼の城下町は活気に満ち、人々の賑わいに包まれていた。

 道の両脇には雑多な店が立ち並び、果物や焼き菓子の甘い香りが風に乗って漂ってくる。

 クラウス様は以前と同じように、隣を歩く私の歩調を時折確認しながら進んでいた。


「あ……」


 歩いていると、ふと、ある店のショーウィンドウに目を惹かれてしまった。

 私は思わず足を止めてしまう。


 中に飾られていたのは、レースの美しい純白のウェディングドレスだった。恐らく仕立て屋かなにかだろう。

 柔らかな布の重なりと、繊細なレースの模様に、つい見入ってしまう。


 (……綺麗)


「どうした」


 立ち止まってしまった私に、クラウス様が気づいたようだった。

 クラウス様はつかつかとこちらに歩み寄ると、私が見ていたショーウィンドウへ視線を向ける。

 ドレスを見ていたことがなんだか恥ずかしくて、私はどうにかこの場から逃げようと口を開いた。


「突然止まってしまってすみません、クラウス様! 行きましょう!」


 そう声をかけるも、今度はクラウス様がショーウィンドウを見つめたまま動かない。

 

「クラウス様?」


 どうしたのだろうと名前を呼べば、クラウス様はドレスから私へと視線を動かした。琥珀の瞳がじっと私を見つめている。

 

「……こういうのが好みなのか?」


「え」


「……似合うと思う。きっと綺麗だ」

 

「……っ」


 言葉が出ない。

 今日は一体どうしたというのだろう。

 デートという、いつもとは違う状況だからだろうか。

 なんだかクラウス様の好意が、いつもよりもはっきりと伝わってくる気がするのだ。

 私は信じられない思いでそっとクラウス様を見上げる。だが、クラウス様の瞳には嘘や冗談の色は見つからなかった。


「……ありがとうございます。嬉しいです」


 どうにか小さな声でそう返して、私たちは再び湖畔に向かって歩き始める。

 歩みを進めながら、私は頭の片隅で考えていた。

 私とクラウス様の結婚式が、実現するのかどうかを。


 去り際、私はもう一度だけ、あのショーウィンドウを振り返った。


 (……きっと、私がウェディングドレスを着てクラウス様の隣に立てる日は来ない)


 それは、私の想いがクラウス様へ届く届かないとはまた別の話だ。

 私たちの関係は、ミレシアが見つかれば終わる。私たちの意志とは関係なしに、終わらせられる。


 そう思うと、浮かれていた気持ちがどんどんと沈んでいくようだった。私はそれを吹き飛ばすように強く頭をふった。


 (……どうせいつか終わってしまうなら。一緒にいられる今だけは、幸せな気持ちでいてもいいかしら)


 この先の未来、クラウス様の隣にミレシアが並んだとしても、耐えられるように。


 

 

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