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偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。  作者: 雨宮羽那
第2章

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22/56

22・すべては娘のために(side継母)


 レティノアたちが巡礼訪問へ向かっていたちょうどその頃、フランヴェール伯爵夫妻はセレノレア王城、謁見控え室にいた。

 重厚な絨毯と冷たい石壁の中、二人は王への謁見の順番を待つ。


 ミレシアがいなくなって既に三日は経とうとしていた。

 目撃情報はちらほらとあるものの、未だミレシアを見つけられないことに夫人は苛立っていた。


 (あの子がいなくなったのは全部レティノアのせいよ! あの生意気な小娘がミレシアを引き止めないから!)

 

 待合の椅子に座ったまま、ヒールのかかとをいらいらと絨毯へ打ち付ける。分厚い絨毯が音が吸い込む、そんな些細なことさえも夫人の神経を逆撫でした。

 隣に座る夫――フランヴェール伯爵や、同じように王への謁見を待つ貴族たちが、ちらちらと夫人へ視線を送っている。だが、取り繕えるだけの余裕が、今の夫人にはない。


「まあまあ、落ち着きなさい。我がフランヴェールとローヴェン、両家の使用人総出で探しているんだ。二人なんてすぐに見つかるさ」


 王城の中で人目があるということもあり、伯爵は夫人を落ち着かせようと語りかける。

 だが、あいにく逆効果だったようで、夫人は伯爵の言葉にぐわっとまなじりを吊り上げ、勢いよく立ち上がった。


「ローヴェン家のアレクシスなんてどうだっていいわ!」

 

 (ミレシアさえ戻ってくるならなんだっていい!)


 夫人が叫ぶ声が、控え室に響き渡る。


「そこ、騒がしいぞ! 静かに」

 

 見かねた廷臣が、控えの間の奥から眉をしかめながら冷ややかな声を響かせた。

 隣から渋い表情をしたフランヴェール伯爵の咳払いも聞こえ、夫人は一旦席へ腰を落ち着ける。

 

「次は……、フランヴェール伯爵夫妻か。王の間へ」


 ようやく順番が回ってきたらしい。

 廷臣に声をかけられ、伯爵夫妻は揃って立ち上がった。


「いいか、王の間では決して声を荒らげるなよ」


「……わかっておりますわ、あなた」


 さすがの夫人も、国王陛下の前では感情を落ち着ける術を心得ている。言い返す代わりにため息をひとつついて、夫人は伯爵の後について行った。


 

 ◇◇◇◇◇◇



 王の間では国王が玉座に座り、静かにフランヴェール夫妻を見下ろしていた。

 天窓から差し込む光が、国王の威厳を際立たせている。

 

「――という次第でございます。ミレシアは現在捜索中ですが、既に方々(ほうぼう)へ手を回しております。じきに見つかるでしょう」


「聖女の座が一時的に空位となっておりますが、ご安心くださいませ、陛下。聖女の任も、婚姻も、相応の者が代わりを務めております。王命に背くことはございません」


 フランヴェール伯爵夫妻は玉座の前にひざまずき、ことの次第を国王に話した。

 この場での失言は許されない。

 これは、聖女の血を受け継ぐ家系フランヴェールの威信がかかっているだけではない。

 

 (ミレシアの戻る場所をいかに確保しておくか、それが一番の重要問題だわ)


 夫人にとって前妻の娘であるレティノアは、この上なく目障りな存在だ。

 前妻に似た清楚で品の良い顔立ちも、それでいて自分の信念を曲げない強い眼差しも、彼女が持つ力も。何もかもが憎らしい。


 他に方法がなかったとはいえ、ミレシアのために用意した条件のよいクラウスとの婚姻を、天敵ともいえるレティノアに渡すなど絶対に許せない。


 (あの子は、ミレシアが見つかるまでのただのキープ役。ぜんぶ渡してなるものですか)


 そもそも、ミレシアに聖女の地位を得させるために、どれだけの苦労をしたと思っているのだ。

 

「ミレシアが見つかり次第、聖女の任も婚姻も、しっかりと引き継がせますわ」


 夫人は、意図を込めてにこりと微笑んだ。まるで、国王陛下に圧をかけるように。

 その意図が伝わっているのかいないのか、はたまた自分の目的が達成されれば過程はどうでも良いのか。国王はゆったりと頷いた。

 

「うむ、ならばよい。聖女とクラウスをこの国に留め続けられるなら、我が国の秩序は揺るがぬ。報告大義であった。下がって良いぞ」


「はい、御前を失礼いたします」


 伯爵と共に王の間を後にしながら、夫人は一人考える。


 (ミレシアは、私の大事な大事な一人娘。あの子が幸せに生きるためなら、なんだってするわ。そう、夫を騙し続けることだって、ね)


 夫人がほくそ笑むように口元をゆがめていたことに、前を歩く伯爵は気づかない。

 

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