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偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。  作者: 雨宮羽那
第2章

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15/56

15・聖騎士団長は怖い人?


 私の名を呼びながら、男の子は目の前まで駆けてきた。

 男の子の小さなその手には、色とりどりの小花が握りしめられている。

 どこかで摘んできたのだろうか。


「あのね、これ、レティノア様にあげる! 前来てくれた時に、僕の怪我を治してくれたお礼渡せてなかったから!」


 目線を合わせるようにしてしゃがみこむと、男の子は小さな花束を私へと差し出した。


「ありがとう。とても綺麗ね」


 私は男の子の手からそっと小さな花束を受け取る。男の子はとても嬉しそうに笑っていた。


「すみません、レティノア様! どうしても今日渡したいと聞かなくて……」


 少し遅れて、慌てた様子で男の子の母親が駆け寄ってきた。


「いいえ。ありがとうございます」

 

 頭を下げる母親に、私は小さく首を振って答える。

 その瞬間、私の隣に控えているクラウス様の様子が視界の隅に映った。

 彼は突然駆け寄ってきた子どもに警戒してか、腰に提げていた剣の柄に手をかけていた。


 クラウス様としてはきっと当然の反応だったのだろう。特に彼は、王国騎士団から聖騎士団長として配属されたばかりだ。今まで戦場で生きてきた人だから、咄嗟に体が動いてしまったのかもしれない。


 (だけど、この人たちは警戒すべき相手じゃない。それを伝えないと)


 数ヶ月前の訪問時、私は確かにこの男の子の怪我を治した。

 だから、クラウス様がここまで警戒する必要はないのだ。

 

 私がクラウス様に声をかけようとするよりも早く、クラウス様の仕草に気づいた子どもの母親がはっと息を呑んだ。


「ひいいい……っ!」


 (……っ!)


 私もクラウス様へと視線を向ける。そうして私はようやく、母親が怯えた理由に気づいたのだ。

 彼の放つ空気が、あまりにも冷たく、鋭く研ぎ澄まされていたからだ。


 その気配に触れただけで、背筋が凍えるような気がした。

 今まで私と話していた時にはそこまで感じていなかった強い威圧感に、思わず気圧(けお)されてしまう。

 

 母親は素早い動作で男の子を抱えあげると、青ざめた顔のまま広場の遠くの方へ走り去っていった。


「おいあれ! レティノア様のとなりにいるのって……新しい聖騎士団長、か?」


 誰かが広場の端で声を上げた。

 その言葉に、周囲の視線が一気にクラウス様の方へと集中する。

 

「知ってるぞ! あいつ、戦場で味方以外、躊躇いもなく瞬く間に切り伏せたって! 騎士団で働く弟が言ってた!」


 次いでそんな叫びが聞こえてきて、あっという間に人々の間にざわめきが広がっていった。

 先ほどまで温かく歓迎してくれていたはずの広場の空気が、どんどんと冷えたものに変わっていく。


「今だって、子どもを斬ろうとしてなかったか!?」

 

「どうしてそんな人が聖騎士なんかに……?」

 

「レティノア様のそばにいるなんて……。血も涙もない人なんでしょう?」


 ざわめきがやんだ後、広場にはしばしの沈黙が流れた。一人また一人と、街の人々が私――否、クラウス様から距離を取っていく。


 花束を握ったまま、私はただ立ち尽くしていた。

 何かを言わなければ、と思った。

 けれど、言葉が見つからなくて、結局私は口を閉じるしかなかった。


 


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