お泊り会【壊れた心編】と同じ日のリツキ・アンリ編
ミユキがジュディ、ゾーイ、ジャーリーと泊まる日の夕方。
心配しすぎているリツキは、アンリの部屋にいた。
もう少しで夕食だというのに、二人で残りのミルクレープを食べている。
「ミューが心配すぎる。覗きに行ってくれよ」
「嫌だ。ゾーイにはバレるし、そんなに何でも覗いてたらミユに気持ち悪いと思われる」
「今更だろ。どうすんだよ。ミューがゾーイになんかされたら」
「ジュディには危なそうなら邪魔をしろって言ってあるし、ゾーイはミユに対しては慎重だから大丈夫。僕はミユには嫌われたくない」
「俺より嫌われることしてないから大丈夫だって」
「お前と同類になるつもりはないし。最近はなくなったけど、お前はミユを触りすぎだから嫌がられてるんだ」
「最近は一人でなんとかできるようになったからな。この世界はエロ本もないしマジで困る。友達に店を教えてもらって助かったわ」
「え、女買ってんの?」
「買ってない。ミューにキレられるし病気が怖いから。大人のそういう発散道具みたいなの売ってる店を友達に教えてもらった」
「どうぐ」
アンリは少しだけ興味深げな眼をした。
「あ、見に行ってくれるなら場所教えるけど」
「……うーん」
「もういい。神聖力くれ。そしたら店まで瞬間移動できるから。ついでに俺がいくわ」
「は? 瞬間移動できるの?」
「神聖力があれば。神聖力を貰えば大体できるだろ? 普通はできなかったり?」
「少しはできるようになる人もいるけど、瞬間移動みたいな高度なものは普通はできない」
「へー勇者だからかな。俺はポーション飲んで練習したらできるようになった。はやく神聖力」
「まぁ、お前が責任を被ってくれるならいいよ」
柑橘系の神聖力がリツキに渡される。
アンリの提案で姿を消してから、瞬間移動をした。
到着した場所は、居酒屋だった。
ガードがかかっているが、姿だけは確認できる。
「ゾーイがミューを抱きかかえてる!」
「でもゾーイの様子が変だな。それにジュディが普通に見守ってるし」
「財布でも落としたんじゃね」
「ゾーイが財布くらいであの状態になるとは思えないけど」
「あいつ、ミューにくっつくためなら嘘くらいつきそうだし」
「うーん、まぁ……その方がまだしっくりくる。けど何もできないから、見ない方が良かったな……心配すぎる。あ」
次の瞬間、外に出る。
「ゾーイがこっち見た。バレたな」
「出てきてどうするんだ。別にバレてもいいだろ。まぁ見てても腹が立つだけだから、もう買い物に行くか」
リツキは呆れながら瞬間移動をした。
目的の店の外観は、高級感がある。
入ろうとするリツキの肩をアンリが掴んだ。
「僕は変身するけど、そっちは? 今なら変えてやる」
「うーん……別にこのままでもいいかな。恥ずかしいことでもないし」
「そう」
二人の透明化を解いてから、アンリは普通の容姿の男性に変身する。
服装はそのままなので貴族だろうというのはわかるが、すれ違っても誰の記憶にも残らないような顔だった。
二人で店の中に入る。
外観からは想像できない程度に内装が怪しい店は、売っている物も大変いかがわしい。
興味津々で二人は色々な商品を手に取る。
女性の買い物とは違い、二人とも無言だったし、なんなら顔を合わせないようにしていた。
アンリは色々店員に質問をしていたし、リツキはそれを見てすげー興味があるんだなと引いていた。
そうして、二人ともそれぞれ大きな紙袋一つ分買いこんだ。
「お前、最初はお試しにひとつって顔してるのに多いな」
「しょっちゅう来ないだろうし、お試しが失敗したら最悪だから」
変身を解いてから、また透明化を二人分かけてミユキの元に飛ぶ。
瞬間移動をすると、今度は自分の屋敷の廊下に出た。
「もう帰ってる! くっそ。俺らが買い物をしている間に!!」
「まぁ、でも時間も早いし安心したよ。荷物を置いて食事にしよう」
「買ったもので良かったものがあったら教えてくれよな」
「使った後に見せるのは嫌だ」
「食事しながら、今買ったの見るか~」
「行儀が悪すぎるから、食べた後リビングで見せる」
「オッケー」
休日に二人だけ勤務している使用人に食事を用意させて、二人とも一旦自分の部屋に荷物を置く。
荷物を置きながら、ふとリツキは気付く。
(あ、あいつエロ本代わりに覗き見してるのか)
姿を消す方法を覚えてもいいかもしれない。
それに、瞬間移動もできるようになった今なら、きっと記憶を見るとかそういうこともできる。
(じゃあ、俺とミューがイチャイチャしてるのも、あいつ目線でなら見られるってことか)
なんて最高なんだ。
自分の目線も見たいが、他人からの目線も見たい。
(でも人とデコくっつけて興奮するのは流石にどうかと思う。録画もできないし)
仮に録画できたとしても、それを他人に見られたら相手を殺さなければならないから、それはそれで扱いが難しい。
ガッカリしながらダイニングに行き、食事をしながらそのことを話す。
「そうだよ。だから記憶を見るとかは僕はやらない。ミユに記憶を見せているところを見られたら、僕とお前をやましい目で見るかもしれないし」
あっさりとアンリはそう言った。
「ミューから見て、俺とお前はどっちが下なんだろう。絶対男側だと思ってたのに昨日分かんなくなったわ」
「僕もわからないし、知らなくていい。ただ男相手は嫌だ。ミユ相手ならどうしてもっていうなら考えるけど」
「ミューならケツくらい貸してもいいけど、俺も男は興奮できないな。本に書かれてたみたいにお前を女みたいとか思わないし」
「今の僕は女装は厳しいと思う程度に大人だからね。あの小説の作者はおかしい」
「いや、俺がそう思わないってだけで今もイケるんじゃね? ゾーイと身長が似たようなもんだし」
リツキの言葉にムッとしながら、アンリは食事をとる。
なんだかんだ、二人も二人で仲が良くなってきている。
「俺は男相手は嫌なのに、ミューは女相手も大丈夫そうだよな。そもそも最初は女みたいだったお前を受け入れたわけだし」
「僕は男だし関係ないと思うけど、ゾーイの距離感でも全然のんきにしてるから、大丈夫そうだなとは思ってる。腹立たしい」
「この前記憶見てた時、ミューとゾーイがキスしそうなくらい近かったけど、ミューはあせってただけなのビビった。あんなに男と近いの俺はキツイ」
「僕も嫌だ……あれミユの口を押さえたのは正解だった。ミユは無警戒すぎて心配すぎる」
二人でため息をつく。
「お前はゾーイがミューと付き合いたいって言ったらどうする?」
「言わないのが不思議なくらいだけど、迷い中かな。でも国で働いてるのもミユへの好意だとしたら、引き離したらミユは友達と重要な仕事仲間を失うから困るだろうな」
「友達じゃねーだろとは思うけど、一旦様子見か……ぶっちゃけ美人だし男とか下手な奴よりマシではあるんだよな」
「仕事仲間を女として見るのは気持ち悪い」
「いや、そういう目で見ないだけで女は女だし。ジュディも女だけどそういう目では見ないだろ。お前も屈強な男がゾーイの代わりに来たら気分が違うだろうし」
「確かに……女の子のほうがいい……でもミユと恋人になりたい女か……でもゾーイ以外の女の子を連れてきても、お前に惚れるか僕に惚れる可能性もあるから、上手くいかなそうな気もする」
「ユラみたいなことか。……確かに。そっちに会わせる必要はないけど、ときどきこっちに来るもんな」
「それにミユはドロテアもモーリスも深く関わった奴全員危なくなる。ジュディとシャーリーだけが大丈夫だけど。誰が来たって同じだ」
「確かに。お前もそうだったし……ミューが地上に降りた天使すぎて……大聖女だし当然だけど。俺がしたんだけど……畜生」
「とにかく。僕が国の仕事をするのは、魔王領との大事な交渉カードを失うから嫌だし、諦めさせて懐柔したいけど……難しいだろうから、どうしてもだめそうなら一旦は友達として受け入れさせるしかない」
苦々しい顔をして、アンリは眉を顰める。
大聖女という能力があって、アイデアも出してくれるし優しく気立てが良い女性なんて、他の誰が来たって危ない。
貴族の娘だって、恋愛しかしてこなかった人間は結婚後も子育てか恋愛をする人間が多いことも知っている。
それはそうだ。今までそれを恋愛を趣味としてやってきたのだから、結婚したからどうこうというわけではなく、それが好きなのだ。
その中で、色恋に特別な興味もなく皆のために時間を使ってくれるミユキという人間は稀有な存在で、ゾーイが惹かれたのも無理はない。
「まぁ、そうするしかないか」
諦め気味にリツキは呟いて、食事を終える。
食べた後は、リビングにガードをかけて戦利品を紹介しながら夜は更けていった。