第十三幕.退治と旅立ち
「ミレイア」
「何?」
「あれが土蜘蛛か?」
俺は男を指差して聞いた。
「そうよ、土蜘蛛を使役していた人間を取り込み、あの姿になったの。」
「なるほどなぁ。」
俺がミレイアの話を聞き納得していると、
「カエデ・ミコト…」
土蜘蛛が呟いた。
「お主、先程の炎はなんだ?」
「なんだ、とは?」
「とぼけるでない。先程の炎は明らかに九尾のましてやイズナの炎であろうが!」
「イズナを知っているのか?」
俺がそう問いかけたとき、土蜘蛛は鬼の形相で答えた。
「バカを言え!アイツのせいで我はこの古びた屋敷に閉じ込められたんだ!あの忌々しい狐がいなければ!我らが王も封印されずにすんだのだ!」
「王だと?」
「あぁそうだ!我ら悪しき妖怪と言われている通称"緋華連"。我らが、王を復活させるのだ!そしてまた妖怪の世にする、それが我らの目的よ!」
ふーん。これは野放しにはしておけないな。
「勝負だ土蜘蛛。お互いの正義どちらが勝つかを争おう。」
「望むところだわ!イズナのあるじ!」
土蜘蛛が大量の妖術をこちらにはなってきた。
「さぁ受け止めてみろ!
血術~血の霧~ 」
俺は集中し、妖気をためた。土蜘蛛の技が目の前まで迫ってきたとき、術を唱えた。
「炎術~妖焔~」
炎が相手の妖術を包み込み消失させた。
「なぜだ…なぜだなぜだなぜだ!なぜ貴様ごときに我の妖術を受け止められるのだ!」
「言ったはずだ、俺はイズナの力を貰っている。一妖怪ごときが努力もせずに勝てるような力じゃねぇんだよ。」
「笑止!たかだか人間ごときが我に、妖怪に適うはずがないのだ!」
「話の分からないヤツめ。」
俺はそう言い、術を放った。
「炎術~焔羅~」
無数の炎が土蜘蛛に向かって放たれ、核ごと燃やしつくした。
「バ…バカな…この我が…人間ごときに…」
「どんな相手だろうと侮ってはならない。それが俺ら人間のしきたりだよ。」
「き…貴様…やはりどこかで見覚えがあるぞ…あの忌々しいヤツにどうにも姿が酷似しておる…まさか…貴様は…あやつの…!」
土蜘蛛はそう言い残し塵となった。
「あのお方…か…。ミレイア、大丈夫か?」
「私は大丈夫だけれど、ハルカが。」
俺らは急いでハルカを介抱した。
「大丈夫か?ハルカ。」
「ミコト…土蜘蛛は…?」
「なんとか倒せたよ。」
「そう…なら良かった。」
ハルカはわずかに笑みをこぼし、目を閉じた。俺らは急いでハルカを連れて王都に戻った。
それから一週間が経ち、ハルカは無事に目を覚まし、回復の方向に向かっていった。そんなとき、俺は国王に呼ばれ一人王宮に向かっていた。着くと天影さんが迎え入れてくれた。
「お待ちしておりました。ご案内致します。」
「これはご丁寧に、ありがとうございます天影さん。」
天影さんに着いていくと、[応接室]と書かれた部屋に案内された。
「国王陛下はもう少しでいらっしゃいますので今しばらくお待ちください。」
天影さんはお辞儀をして部屋を出た。部屋の作りは非常にシンプルな木造であり、床は畳張りで、どこか古き良き蒼穹王国を感じさせるものだった。たしか文献にははるか昔の蒼穹王国はこのような家が多かったんだよな。そんなことを考えているとノックの音が聞こえた。
「入るぞ?」
ドアを開けたのは、蒼穹王国第20代国王である、レオニス・マンドナであった。この前の決闘とは違い、軽装な服であった。
「どうだ?この応接室は。気に入って貰えたか?」
「ええ、どこか落ち着いた雰囲気が感じられますね。」
「そうだろそうだろ。これは古き文献によると和風建築と言うらしいのだ。このくらいの雰囲気の方が話もしやすいと思い、初代の国王が作ったのだそうだ。」
「そりゃすごいですね。そこまで相手を配慮できるとは。」
俺が感服していると、マンドナは話を続けた。
「さぁ、ミコト殿をここに呼んだのは頼みごとがあるんだ。」
「頼みごとですか?」
「あぁ、君にはあるところに行きそこの住人と話をしてきてほしい。」
ある場所?話?俺はまったく話が理解できなかった。
「まぁ理解に苦しむのもわかる。いきなりこんなこと言われて納得できる方がおかしい。」
「ま、まぁはい。」
「場所くらいは言おう。」
マンドナは一息おいて衝撃の場所を言った。
「場所は"稲波神社"。八百万の神々がいるとされている神社に行ってもらいたい。」
「い、稲波神社ですか…?……それってどこですか?」
俺がそういうと、マンドナと天影さんがずっこけた。
「ミ…ミコト殿、さすがにそれくらいは知っておいた方がよろしいかと。」
「全くだ…はぁ、いいか?稲波神社とは大陸の最北端にある神社のことだ。土地的に我が国の領土になって入るが、立ち入りを禁止にしているいわば禁則地だ。」
「へー。そこに神社?があるんですね。」
「…貴様、神社も知らんと申すか?全く貴様と言うヤツは…いいか?神社とはな……」
そこから小一時間くらい神社と言うものについての説明をされた。なにやら赤い鳥居と言うものが入り口についているらしく、中に神々を祀る本殿と言う建物があるらしい。
「分かったか?」
「ま、まぁ何となくは。」
「もうそれで良い。それでだなミコト殿には稲波神社に向かってほしい理由を言わなくてはならないな。」
「理由ですか?」
「あぁ、それはだな。」
また一息おいてゆっくり口を開いた。
「稲波神社にはある月になると狐の神々が集まるお祭りがあるらしい。そこに行き、悪しき王について色々と聞いてきてほしいのだ。」
「…なるほど。イズナの行かなくてはいけないところはそこか…。」
「おや、イズナ殿はもう行かれたのですな。」
天影さんが少し驚いたような口調でそう言った。
「そうなんですよ。なんか行かなければならないところがあるって言って、ついこの前…。」
「まぁ行ってみれば分かる、あそこは異様な気配がある。」
「分かりました。行ってみます。」
「頼んだぞミコト殿。」
そう言われ、俺は部屋を出て、この事を団長に報告するために宿舎に戻った。
「…と言うことなので、少しの間遠征に行ってきます。」
「陛下直々の命令なのならば仕方ない。ただし、帰ってきたら団のために働くこと。」
団長にも許可を貰えたところで、出発の準備をすることにした。
3日後…
「では言って参ります。」
俺の見送りにはさすがに陛下はいらっしゃらないが、目代として天影さんが来ており、他にもミレイアやハルカも来てくれた。
「お気をつけてミコト殿、あそこの地は行くまでが大変ですぞ。」
「ミコト、生きて帰ってくるのよ。」
「ミコト!またたくさん特訓しようね!」
「みんなありがとう!行ってくる!」
こうして俺は新たな旅へと向かうのであった。