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第十一幕.新たな問題

「さぁさぁ!よってらっしゃい見てらっしゃい!」「今日はうちは半額セールスやってるよー!」

「やっぱりここは町並みも綺麗ですね。」

「そうだろそうだろ!たまにはこうやって外に出るのも大切なことだからね。のんびり回ろう。」

 俺はシュタイン様と城下町にやってきていた。目的は得になくせっかくなら王都を回ろうと言う話になった。

「ほんとにボクも久々の休暇を使ったねー。ここ最近は第九騎士団の書斎にこもりっきしだったから、久々にここに来るよ。」

「それ団長も苦言を呈してましたよね。」

「うっ…中々痛いところをつくね。まったく、良いじゃないか。本を読むのが好きなんだから。」

「それはそうですけど少しは外に出た方が良いですよ。」

 そんなことを話していると、ふとシュタイン様が言葉をこぼした。

「桜の散る季節になったか…。」

「なにかあるんですか?」

「…そろそろ君にも伝えておかなくてはね。休暇を貰ったんだ。少し遠出をしよう。」

 そう言い、大きな大図書館に連れてこられた。

「ここは?」

「ここは清明京一知識を持っている図書館だ。まぁついてきな。」

 そう言い、中に入り歴史資料室に入った。

「さぁ君も知っておかなくてはならないことがこの国にはある。それは土蜘蛛伝説だ。」

「土蜘蛛伝説?」

「あぁ、少し長くはなるが聞いておくれ。」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 かつて、蒼穹王国の黎明期――

 清明京から北の方に館を構えた名門、天宮家に一人の将がいた。

 その名は、天宮 義久。

 風の妖術と剣に秀でた聡明な騎士であり、国王の信任厚く、国を支えた名士であった。


 しかし、桜が散り始めたある年の春、義久は原因不明の病に倒れた。

 高熱は日ごとに悪化し、名医も薬も術も、いずれも効果はなかった。

 祈祷を行い、水行を試みても、義久の命はあと数日とも言われていた。


 そんなある夜、義久が高熱にうなされ、意識が混濁していた時――

 ふいに、部屋の奥に赤き法衣を纏った僧形の者が現れた。

 その者は、血塗れのような口を開き、義久に囁く。


「苦しみを味わえ……己の力では癒えぬ苦しみを……」


 そう言いながら、呪縛の縄を持って頼光の体に巻きつけようとした。


 義久は意識朦朧としながらも、枕元に置かれていた愛刀――

 風の精霊が宿るという名刀「風澄」を手に取り、一閃。

 その刃が僧の身をかすめた瞬間、影のようにその姿は掻き消えた。

 しかし畳の上には、点々と赤黒い血の跡が残されていた。


 翌朝、義久は忠義深い部下――蒼穹王国に名を馳せる若き四騎士を呼び寄せた。

 彼らに、血の跡を追い、怪しき者の正体を突き止めるよう命じた。


 血の跡は館の裏手から北西の山際へと続き、やがて花の散り敷く桜の大樹の根元で途切れていた。

 その下にあった岩を動かすと――

 そこから現れたのは、古の封印を破って現れた土蜘蛛であった。


 巨大な蜘蛛の妖怪は毒糸を吐き、四騎士に襲いかかる。

 だが四人は連携し、それぞれの術と武技を駆使して激闘の末、土蜘蛛を討ち果たした。その後土蜘蛛の消息は不明となっている。


 その日から、義久の病は驚くほどに良好となり、彼の刀「風澄」は、あの夜の一閃により、「蜘蛛斬くもきり」とも称されるようになった。


 そして、当時の蒼穹王国の者の手記にはこう語り継がれている――

「花が舞う頃、蜘蛛には気を付けろ。闇より這い出るものあり」と。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これがこの国に伝わる土蜘蛛伝説の一節だ。」

 そんな伝説があったとは…、知らなかった。

「知らないのも無理はない。ごく一部の者が知ってることだからな。それにあくまでも伝承だ。土蜘蛛が今どこにいるのかも分からない。イズナ様なら知っているかも知れないけどな。」

「なるほど…。ですがその事を俺に知らせてどうなるんですか?」

「いや。ただ君には知っておいてほしかっただけだ。土蜘蛛という化け物がこの世のどこかにはいる。気を付けてくれ。」

「分かりました。今後気を付けることにします。」

 そう言い、図書館から出ようとしたとき、

「お二人さんや。少しこちらに来て貰っても良いですかな?」

 後ろを振り向くと年老いてはいるが背筋の延びた男性が立っていた。

「おやこれは館長さん。しばらくぶりですね。」

「やはりシュタイン様でしたか。お久しぶりですな。」

「様付けは止めてくださいよ。」

「お二人お知り合いなんですか?」

 俺がそう聞くと二人そろってこちらを向いて答えた。

「この人はここの館長であり、ボクの師匠でもあるへラルドさんだ。へラルドさん、この子は最近第九騎士団に入隊したミコト君です。」

「なるほど、君がミコト君か。噂には聞いているよ。」

「あ、ありがとうございます。て言うか師匠ってどう言うことですか?シュタイン様に師匠がいるって初耳なんですけど。」

「この人はボクが第九騎士団に入りたての時の軍師だったんだ。ボクの知識のほとんどはこの人から来ている。」

「お二人共、立ち話もなんですし応接室に行きましょう。」

 へラルドさんからそう言われ応接室に向かった。

「んで、へラルドさん。ボク達になんのようだい?」

「…これはごく限られた者のみ知り得る情報なのですが、土蜘蛛の住み家がつい先日分かりましてな。」

「土蜘蛛の…?!」

 俺がそう驚くのもつかの間、館長さんは話を続けた。

「土蜘蛛はここ清明京からはるか北にある大きな桜の木が咲いている古びた屋敷に目撃されたとのこと。まだ繭にくるまっており冬眠中だと考えられます。」

「ならその隙をついて!」

 俺がそう言い掛けたとき、扉が開いた。

「いや、土蜘蛛はおそらくもう目覚めている。」

 扉の方を見るとなんとエリシア団長が立っていた。

「団長、それはどういう意味に?」

「今言った通りだ。土蜘蛛はもう既に目覚めている。」

「まだ冬眠中のはずでは?」

 へラルドさんが聞くと団長は首を振った。

「どうやら噂を聞き付け調査に向かった男性二人が帰ってこないらしい。おそらくだが…」

「土蜘蛛に殺されたと。」

 へラルドさんは深刻そうな顔をしながら淡々と答えた。

「エリシア様、なぜこの時期に目覚めたのですか?」

「分からない。おそらく誰かが目覚めさせたのだろう。さっさと討伐しないと被害は甚大なことになる。」

「なら今すぐにでも討伐隊を編成しましょう。ミコト君行きますよ。館長お話ありがとうございました。」

「途中で入ってしまいすまなかったな。」

「いえいえ、無事に土蜘蛛を討伐できるのをここから願っております。」

 そうして俺らは図書館から出た。


 屋敷につくとハルカとミレイアが鍛練しているところだった。

「丁度良い。君たちは騎士団の人間を会議室に集めてくれ。」

「はい!わかりました!」

「了解したわ。」

 そうして第九騎士団全体が集まり出した。十五人ほどであろうか。

「まず、急な要請をしてしまいすまない。早速だが今回の議題だ。」

 団長が第一声を発し会議が始まった。

「土蜘蛛が復活した。」

 周囲がざわついた。

「団長、なぜ復活したかは検討はついているのですか?」

 ミレイアがそう問いかけた。

「正直なところ分かっていない。しかし、人為的なものだろうという検討はついている。おそらく…"オエステクリーナー"であろう。」

 団長が一拍おいてそう言ったとき、またも周囲がざわついた。

「たしかな証拠はあるんですか?!」

 団員の一人がそう発言した。

「証拠はない。ただ、そうでなければ土蜘蛛を目覚めさせる理由がない。それだけだ。」

「では、土蜘蛛の討伐の編成についてお話しします。」

 シュタイン様がそう言うと場が静まった。

「今回は新人二人に行ってもらいます。その二人とは、ハルカさんとミレイアさんに行っていただきます。しかし、その二人は先方として行っていただき、少し遅らせてミコト君を行かせようかと思います。大丈夫でしょうか?」

「副団長殿、本当に大丈夫なんですか?新人に行かせて。」

「二人とも源次殿のところで修行を積んでいます。少なくともあなた達よりかは強いかと思いますよ。」

 なにも言えなくなったのか、団員は黙ってしまった。

「では明日にも二人は向かってもらうとしよう。良いな二人とも?」

「「はい!」」

「ミコト、二人を生きて返してほしい。もしもの時は頼んだぞ。」

「わかりました。」

「ミコト君、後で源次さんの部屋に言ってほしい。」

「源次…?わかりました。」

 そうして会議は終わり、俺はその源次さんの部屋まで向かった。そして部屋の前についた。

「すいませーん。源次さんいらっしゃいますかー?」

「誰じゃ?」

「シュタイン様に来るように言われて来たカエデ・ミコトです。」

「シュタインの言ってた子か。入って良いぞ。」

 扉を開けると白い髪と髭を生やした老人が座っていた。

「やぁミコト君だったけかな?いやイズナ様と呼んだ方がええかのぉ?」

「ミコトで良いですよ。」

「そうかそうか。ワシの名前は天宮源次じゃ。何を隠そう、あの土蜘蛛伝説に出てくる天宮義久の子孫じゃ。」

 俺はとんでもない人と出会ったのかもしれない。

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