第十幕.決闘の終結
それは昨晩のことだった。
「なぁイズナ。」
『どうした主よ。』
「九尾の本来の能力を使うためには絶対に意識を落とさなければならないのか?」
『…どういう意味じゃ?』
「そのまんまの意味さ。イズナの能力を俺が意識のある状態で使いたい。」
『ほぅ。』
「たとえ勝ったとしてもそれは俺の勝利とは言えない、あくまでもイズナが勝ったと言うことだ。俺は自分の意識があり頭を回転させられる状態で勝ちたいんだ。』
『主、いやミコトよ。それは妾にも分からぬことなのじゃ。たしかに意識を保ったまま本来の力を発揮させた者もいた。しかし条件がまるで分からないんじゃ。』
「そうか…。」
なら諦めるしかないのか。
『…一つ。』
イズナが言葉をこぼした。
『一つだけ、考えられることがある。』
「…聞かせてくれイズナ。頼む。」
『さっき意識下で発揮できる者がおると言っただろう?その者はたしか5分ほどその場にある妖気を溜め、精神を研ぎ澄ました。極限まで集中をすればおそらく意識下の状態で本来の力を発揮できるじゃろう。』
「じゃあそうすれば!」
『じゃが、その意識下にある状態に慣れていない場合、おそらく短い間に本来の力は失われ、通常の状態に戻ってしまうじゃろう。それまでに決着をつけねばならん。』
「なるほど。どのくらい短いんだ?」
『あの者でもって10分といったところか。主の場合じゃともって5分かの。』
「5分か…。まぁわかった。そうなったら5分で決着をつける。その時は頼んだよ。」
『妾に任せるのじゃ!その代わり、油揚げは用意しておけよぉ?』
イズナにそう脅されてその日は終わった。
「憑依~炎獣九尾~」
俺の周りに炎が燃え広がった。憑依が終わった時、エリシア様が話しかけた来た。
「君は名前はなんと言うんだ?」
「…カエデミコトです。」
「ミコトか、良い名前だ。さぁ、その強さを見せてくれ!」
「風術~風神の舞い~」
エリシア様の剣がさらに光輝いた。
「こちらも全力でお相手します。」
「炎術・秘技~憑依一体~」
俺の周りに先ほどとは比べ物にならないくらいの炎の妖気が舞った。まるで王の帰還を待っていたかのようだった。
『ミコト、意識は保ててるか?』
「あぁ、だが長くは持ちそうにないな。さっさとケリを付けよう!!」
「帯刀~緋天・焔滅~」
俺の手元に炎で出来た刀が生成された。
「それがミコトの刀かい?」
「ええ、そうです。」
「実態のある物に纏わせるのではなく、武器その物を作ってしまうとは。なんて人だ。自分に自信がなくなるよ。」
「闘ってみないと分からないですよ!」
俺はエリシア様に切りかかった。何度も何度も打ち合っている内に隙ができないかお互いに探りあったいる様だった。
「隙が全く生まれないとは。ミコトよ、どんな修行を積んだんだ。」
「体がどうにも軽いんですよ。思い通りの太刀筋が生まれるのでやりやすいです。」
「しかし、どうせ時間制限のある術なのだろう?このまま時間を稼がせてもらう!」
その一言と共にエリシア様に吹き飛ばされた。
「いくら太刀筋が良くても、筋力が足らないな。それでは敵わないぞ!」
『あやつ!的確に主の弱点を言い当てるとは!中々のやつぞ!』
「感心しとる場合か!そろそろ決着付けないとやばいぞ!」
『うーむ。妾はもう少し闘いたいがのぉ。仕方がない。では最後はあの技で締めるとするかの。古龍をぶっ飛ばしたあの技で。』
そのイズナの言葉共に俺は妖気を溜め始めた。
そして、周囲に魔方陣を数多生成した。
「妖術か?来い!弾き返してくれるわ!」
そう言い、エリシア様は臨戦態勢をとった。
「いきますよ!古龍を倒したこの技であなたを倒します!」
「炎術~風火豪炎~」
轟音と共に数多の炎がエリシア様に向けられ放たれた。
「こい!」
「風術~暴風の型~」
エリシア様はなんとか防いでいる感じであった。
「イズナ!出力高められるか?!」
『お任せあれ!』
そうイズナが言うと、炎の火力が強まった。
爆発音と共にエリシア様が煙に包まれた。妖気を使いすぎたのか、自動的に憑依も解除された。
「どうだ…勝てたか…?」
そう言い、煙が晴れてきたところを見てみた。すると人影が見えた。
「…この量の妖術を操れるとは真見事だ。私も風神の力を全て借りないと防ぎきれないとはな。」
傷は多かれど、凛々しくたっているエリシア様がいた。周囲には何重にも風の結界が張られていた。
「ハハ…まさかあなたも秘術が使えるとは思いもしませんでした。俺の負けです。」
イズナもこの調子だとしばらく起きそうもないし、勝ち目はないな。
「負けを恥じることはないぞミコト。私にここまでの傷を負わせたのは天影以来いなかったからな。まさか私と同年代くらいの者がここまでやるとは思わなかった。ミコト歳はいくつだ?」
「たしか今年で17です。」
「ハハハ!よもや年下とは思わなかったぞ!年下にここまでやられてしまったら私の負けとも言えるな。私は今年で20になるから3歳差にここまでやられてしまったか。まだまだ修行が足らないな。」
意識が朦朧としてきた。
「さぁ、あちらでゆっくり休みなさい。おい、医務室に連れていけ。」
そこで俺の意識は途切れた。
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「どうでした?今年の新人は。」
応接室に帰ってきた団長を癒しながらそう聞くと、いつもにない笑顔で答えた。
「化け物ぞろいだ!刀の扱いが優れた者がいれば私と一戦交えても恐れず向かってくる者もいた。」
「そうでしたか、では今年の合格者は二名ですか?」
ボクがそう問うと、団長はニヤリと笑い答えた。
「いや、三名だ。」
「おや、もう一人はどんな人ですか?」
「九尾の、それもあの親方であるイズナの能力を持っていると思われるやつだ。」
「ほぅ。イズナ様のですか。」
イズナ様と言えばあの五英獣の一角を担い、あの悪しき王を封印したとされているお方じゃないか。
「それは中々に興味深い。」
「お前が興味を持つとは、ビックリだ。」
「ボクをなんだと思っているんですか。まぁとりあえず、合格者は三名でよろしいですか?」
「あぁ、かまわない。あの子達の教育係はどうしようかなぁ?」
エリシア様がニヤリと笑いこちらを見てきた。
「…ボクが誰かを教育できるとでも?」
「やってみないと分からないだろぉ?」
ニコニコ笑いながらそう言われ、これは大変なことになりそうだと、頭を悩ませた。そんな姿を見てエリシア様は大爆笑をしていた。この人いつか絶対に殴る。
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「負けちったか。」
病室で手当てを受けながらそう言葉をこぼした。
「お、いたいた。調子はどうだい?」
そんな時にいつものようにおっとりした雰囲気のシュタイン様が入ってきた。
「ハハ、まさかあんなに化け物だとは思いもしませんでした。」
「人間いずれは壁にぶつかるものさ。それを一々気にしてたらきりがない。」
「そうですかね…正直今回の闘いで現実を知りました。古龍を倒せたのならこの人も倒せるのではと少し油断をしてしまった気がしたんです。」
俺が悔し涙を見せるとシュタイン様は優しく背中を撫でてくれた。
「嘆くことはない。失敗は誰にでもある。それを怒ったり、ネチネチ言うやつは三流以下だ。ボクは今でこそ天才軍略家なんて言われてるけど、最初のころは父上にその戦略では勝てないと何度も言われたくらいだ。ただ、父は絶対にしからないし怒らなかったんだ。」
シュタイン様は窓のそとを見て言葉をこぼしていた。やがてこちらを見て、
「まぁ、なにが言いたいかっていうとね。どうして、こうしよう、ああしようと考えたかが大切なんだ。今回の敗戦から学べることはたくさんあると思う。一重に力が足りないと言ってもいろんな力があるだろう?それを一つ一つ研究しな。」
そう言い、シュタイン様は立ち上がった。部屋を出ようとしたとき何かを思い出したかのように呟いた。
「あ、そう言えば言い忘れていたけど。君の教育係はボクになった。明日からよろしくね。」
「へ?どう言うことですか?」
俺が聞くのを無視するように部屋を出ていった。
そんな時、部屋を出たシュタインは一言呟いた。
「なんだ。案外ちゃんと考えられてるし、頭も良さそうじゃないか。これはすごい子になるぞ。」
誰にも聞こえないような声でそう言い、自室に戻っていった。
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次の日、俺はシュタイン様の自室に呼び出された。
「すいませーん。シュタイン様はいらっしゃいますかー?」
俺がそう聞くと少し遅れて返事が返ってきた。
「あーミコト君か!入っていいよー!」
入る許可が出たため俺は部屋に入った。
「失礼します。」
「やぁミコト君。調子はどうだい?」
「まぁボチボチっすね。」
「ハハハそうかい!まぁ座ってくれ。」
指定された席に腰を掛けるとシュタイン様も腰を掛けた。
「さぁ、本日から部隊として活動をしてもらうわけだが、君にはボクから戦術を教わってほしいというのが団長からの命令だ。」
「戦術ですか。」
「戦術と言っても君一人が闘うための戦術だけではない。君が一つの軍を束ねるために必要な知識を叩き込む。」
「しかし、第九騎士団は少数精鋭。束ねるも何も各々が闘えばそんなことはないのでは?」
団長にハルカ、それにミレイアだっている。そうそう負けることはないだろう。
「まぁそう考えるのが普通だ。しかしだね、我々第九騎士団はその少なさゆえに他の部隊と組まされることが多いんだ。その時に軍を束ねるのが我々の仕事でもあるんだ。だから軍略を知っておかなくてはならないんだ。」
シュタイン様はそういうと、椅子から立ち上がった。
「さぁ今から二週間みっちり君に叩き込む。覚悟しておくことだね。」
「えーそんなぁー。」
そうして俺は嫌々シュタイン様に図書館に連れていかれしばらくの間そこに缶詰状態にされた。
一方その頃…
「てや!はー!」
「…。」
ミレイアはある老人と闘っていた。その老人は白い髭をたくわえ、白髪の長髪スタイルであった。和服を着ており非常に動きやすい服装だぅた。
「はぁはぁ…。まだまだ!」
「ミレイア殿、太刀筋がぶれてきておりますぞ。」
老人はミレイアに鋭い一撃を与えた。
「ぐっ…さすがにお強いですね。」
「侮ってもらっては困る。私を誰だと思っているのですかな。」
「もちろん知っていますよ。この国の最北端にあるに伝わる風閃流の継承者であり、エリシア様の師匠である天宮源次。その名前を聞いたことがない者はこの国にはいないはずです。」
「ハッハッハ。はずですか、私も廃れたものですな。」
ミレイアはまた剣を構え直した。
「さぁもう一手お願いします。師匠。」
「うむ。弟子の要望にはきちんと答えなければですな。…そろそろ桜も散る季節か。あやつに気を付けなければな。」
そう言い、源次は愛刀"風澄"を構え直しミレイアと剣を交えた。
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ここはあるボロボロの屋敷。そこにはクモの巣が大量にはられており、人々はその屋敷を蜘蛛屋敷と呼んだ。噂だと、そこには土蜘蛛が住み着いているらしい。その噂を確かめるべく中に入って行った者で帰ってきた者はいないという。今日もある調査隊が中に入って行った。
「おい、そちらは大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。それにまだアイツが出る季節じゃないだろう?」
「まぁそれもそうだな。」
そういう会話を交わしながら調査隊である男二人は奥へと進んだ行った。するとある重厚そうな扉を発見した。
「…開けるぞ。」
「あぁ、かまわない」
一人が開け、もう一人は短剣を構えて応戦しようとしていた。開けた瞬間中には大きな糸の繭があった。
「やっぱりまだ冬眠中か。今のうちに調査を進めよ…」
「ん?どうし…た…」
一人の声が聞こえなくなったので後ろを振り返ったらなんと大きな蜘蛛がこちらを見ているではないか。
「どう…して…目覚めるのはまだのはず…」
「我もそうしようかとおもったのだがなぁ。使役する人間が早く起きよとうるさいから起きてやったわ」
「にん…げん…?」
そう男が言うと、フードを被った人が扉を開け入ってきた。
「すまないね。まだこの事を知られるわけにはいかないんだよ。おとなしく殺されておくれ。」
そういうとフードを脱いだ。
「な…!あなたは…!」
そう言い掛けたところで殺されてしまった。
「土蜘蛛よ、すまない。予定外のことが起きてしまった。」
「予定外?」
「あぁ、九尾が目覚めた。それも親方が目覚めた。」
再度フードを被った人がそう言うと土蜘蛛は顔をしかめた。
「我はアイツが苦手だ。そうか、だから我を早く起こしたのか。」
「そういうことだ。頼んだぞ土蜘蛛。」
「任せろ。貴様があのお方を復活させるのならば尽力しよう。」
そう言い、土蜘蛛はその男の中に入っていった。
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