第九幕.第九騎士団
「あぁ、頭痛てぇ。あれした後まじで疲労感がドっと来るんだよなぁ。」
俺は決闘の後、執事さんの部下の人に医務室に連れて行かれたらしい。目が覚めるとどこだか分からない天井が見えるとちょっと怖いよね。
『まぁまぁ、勝てたから良いではないか。妾も旧友に会えて嬉しかったしな』
「イズナ、まさか会うのが目的で出てきたんじゃないだろうな?」
そう言った後イズナからは返答が返ってこなかったので、おそらく図星なのだろうな。そう思っていた時、誰かがノックするのが聞こえた。
「執事長の天影にございます。入ってもよろしいですかな?」
天影?
『審判をしていたあの爺さんじゃよ。』
あ、そうなんだ。なら良いか。
「どうぞ。」
扉を開け天影さんが入ってきた。
「失礼いたします。お体の具合はいかがですか?」
「お陰さまでだいぶ良くなって来ました。」
「それは良かった。実はここに来たのはそれを聞くのともう一つございまして。」
もう一つ?なんだろう。もしかして国王に勝っちゃったから処罰とか…?
俺が震えていると天影さんは笑いながら教えてくれた。
「ハッハッハッ!大丈夫ですぞ。処罰などございませんから。あの後国王陛下は自らの怠慢を直すため自ら御公務をしておりるのですぞ。」
あの国王が自ら仕事をするとは…。にわかには信じられないな。だかしかし、改心してくれたのであればされほど良いことはないな。
「ならばなんのお話を?」
俺がそう聞いたとき、天影さんは苦笑いしながら答えたくれた。
「騎士団組分け試験についてです。あの日国王陛下は、何もせずとも騎士団に入隊をさせると申してましたので、まずは騎士団入隊の胸をお知らせに参りました。」
「おぉ!ありがとうございます!それで何番隊に入るかとになったのですか?」
俺が目を輝かせながらそう聞くと天影さんはどこか気まずそうにこう答えた。
「カエデ殿が配属されましたのは、近衛第九騎士団になりました。えぇ、御察しの通りあの最狂と恐れられる、第三皇女であられるレオニス・エリシア様が団長となっている我が蒼穹王国最強と歌われている近衛騎士団です。」
だ…第九騎士団にエリシア様だと…。
「エリシア様って誰ですか?」
一泊空いた後、天影さんがずっこけてしまった。
「あいたた、この発言をエリシア様が知ったらどれほど怒られるか。エリシア様についてのお話からですか。…オッホン。エリシア様はこの国の第三皇女であられ、風神龍を使役されているお方になります。王族には珍しくガンガン攻撃を仕掛けていくお姿からついた異名は"疾風の刃"。愛刀である"颯天"は我が王国に古くから伝わる刀です。独断で突き進むため、第九騎士団に配属になった者は皆辞めていくと言われています。しかし、エリシア様単体があまりにも強いため、我が国一と吟われる騎士団になっています。」
「なるほどな。とりあえず、ある程度の情報は分かった。エリシア様か…。これはまた厄介なことになりそうだなぁ。」
『そう肩を落とすでない。まさか風神龍を使役しておるとは驚いたがな。』
「カエデ殿、頑張ってくだされよ。あのエリシア様を手なずけるのは至難の技ですからな。」
「手なずけるって、俺には無理なことですよ。」
「そうですかな?やってみなければ分からないものですぞ。期待しております。入隊式は一週間後に行われます。それまでこの城の中でしたらなにをされても構いません。どうぞおくつろぎください。」
そう言い、天影さんは部屋を去った。
それから一週間後…
「汝カエデミコトを第九騎士団に入隊することを許可する。」
レオニス・マンドナ国王陛下から全員直々に入隊を許可することを宣言され、式は終了した。
式の後、入隊した所の宿舎に行く事になった。言わずもがな、俺は試験にも行っていないので異端児扱いされた。すると後ろから話しかけられた。
「ねぇねぇ!君名前なんて言うの?試験にいたっけ?」
振り向くと女性が立っていた。黒髪ショートであり、身長は俺より少し小さいくらいであろうか。
「俺はカエデミコト。国王陛下から試験は免除で良いと言われたから受けてはいない。」
「へーすごいねぇ!免除なんて聞いたことないよ!…どんな手を使ったの?」
さっきまでとは雰囲気がガラッと変わった。
「国王を言い訳にするなよ。どうせ不正でもしたんだろ?」
「していないさ。なぜする必要があるんだ。」
「さぁねー?ただ、ボクの予想だと、君が試験も受けずに、ここにこれてると言うことは…国王ぶっ倒したから、とかかな?」
この人…頭の回転量が違う…どうして分かった…。
「ま、冗談だけどね。そんなことあり得ないでしょ。龍の力を持っている蒼穹王家には敵わないよ。んじゃ私は宿舎あっちだから、またねー。」
そう言ってその人は去っていった。
「…っは?!名前聞き忘れた。」
『この期に及んでそこか。主よ。』
そこからだいたい二時間が経った。第九騎士団の宿舎は五つあり、真ん中の中央広場を囲むように建っている。その中央広場から声がした。
「第九騎士団の者よ!集合!」
甲高い声と共に、中央広場には銀色の髪をハーフアップに女性が立っていた。
「えーこれ服とか支給されないのー?」
俺は文句を言いながらも、村から持ってきた新しい服を着て部屋をでた。
中央広場に行くと、おそらく先輩と思える騎士の方々が並んでおり、俺ら新人は指示されるがままに横にならばされた。中央には、先ほどの高貴な人と、赤髪で眼鏡をかけた男の人が立っていた。全員が並び終えたところで銀髪の人が話し始めた。
「皆の者急な招集をかけてすまない!此度、我ら第九騎士団に新しく入隊した面々を紹介していこうと思う!」
「団長ーその前に自己紹介した方が良いと思うっすよ。」
隣にいた、赤い髪の男の人がそう言った。
「む、そうだったな。」
この人案外ドジなのかな?
「私は蒼穹王国第三皇女であり、第九騎士団団長である、レオニス・エリシアだ。よろしく。」
この人が天影さんの言ってたエリシア様か。確かにこの雰囲気に外見からして皇族の方か。
「ボクは第九騎士団副団長のヴァルド・シュタインだ。よろしくね。」
エリシア様の隣にいた人がそう言うと、周囲がざわつき始めた。
「え、あのヴァルド家の人?」「天才軍略家の家じゃないか。」「しかも当代の当主様じゃないか?」
え、この人そんなにすごい人なの?
「静かに!では新人の自己紹介…の前に、我が第九騎士団は弱気者は受け付けていない。よって試験には合格したかもしれないが、この場で直接実力を見させてもらおう!」
また周囲がざわつき始めた。中央広場に集めたのはそう言うことか。今のを聞いて逃げられないように、真ん中に集めたってことか。
「では訓練場に行くぞ。ついてこい。」
そうして、俺らは訓練場に連れてこられた。
「さぁ、選別方法はいたってシンプル。私と闘い、実力があると私が踏んだ者は合格とする!」
『まためんどくさいことになったのぉ、主よ。…ほーんあやつさすが王族とあって風神龍の力を持っておるとはな。国王が水神龍の力を持っていたら、こちらは風神龍か。』
さすがイズナ。分析というか、もうなんで分かるのか分からないけどさすがだ。
「さぁ!全員まとめてかかってこい!まとめて相手してやる。」
数分後…
「ふん。腰抜けしかおらんな。まだあと五人もいるのか早くかかってこい。」
うげぇ、鬼強いやん。周りには気絶した火とがたくさんいた。
「く、くそー。この人たちの分まで頑張るぞ!」「勝たなくちゃいけない!」
そう言って男二人がエリシア様と闘いに向かった。
「おい。」
声をかけられ振り向くと、さっき広場で俺に話しかけてきた女性が立っていた。
「あんた、あの人どう倒す?」
「さぁな。あちらの人にも聞いてみたらどうだ?」
俺が指を指した先には、水色でポニーテールの女性がいた。
「あの人?話しかけづらくない?」
「コミュ障かよ、えーと…」
「あ、自己紹介してなかったね。私はハルカよろしくねミコト君。」
「あ、あぁよろしく。」
「で、話しかけてきて?」
俺はそう言われ渋々話しかけに行った。
「なぁ、俺カエデ・ミコト。よろしく。」
「あら、これはご丁寧にどうも。私はセリス・ミレイアよ。よろしく。」
ミレイアさんは一礼して、冷たくこちらを見た。
「え?あなたあのセリス家の方なの?!」
「そんなにすごいのか?」
「当たり前でしょ!セリス家といえばこの国の四英傑家の一つよ!」
「あら、そこまで知っててくれてるのは嬉しわね。」
やばい、話に取り残された。そう思っていた時に話しかけてきた。
「で、どうして話しかけてきたの?今は試験中、なおかつあの人たちが闘っているのなら加勢をすべきだと思うけれど。」
話しかけてきてくれて嬉しいけど、言ってることはその通りすぎる。
「いや、なんか強そうだったし、協力すれば倒せないかなぁなんて。」
「協力?」
鼻で笑うようにそう言った。
「あなた達と協力なんてしなくても私一人で行くわよ。」
そうミレイアさんが言った時、爆発音がした。そっちを見てみるとエリシア様の足元に二人伸びてしまっていた。
「さぁあとはお前ら3人だけだ。」
エリシア様がそう言い、剣を構えた。
「さぁ、こい!」
「もうこうなりゃやけくそよ!」
ハルカはそう言って、短剣に妖気を集め、闘う準備をした。
「漆黒術~妖刀村正~」
ハルカの短剣が紫色の妖気をまとい伸びた。
『ほぅ、あの小娘村正の妖気を纏わせられるのか。しかし、完全に制御はできておらんで本来の力の三割しか出せておらんな。』
イズナがそう言葉を溢すのと同時にハルカがエリシア様に切りかかった。エリシア様も剣を悠然と振り応戦した。
「ふん。今まで相手したヤツより数段も剣の腕が良い。見事だ。」
「それはどうもありがとうございますね!」
ハルカは村正を一心不乱に振りかざしていた。しかし、エリシア様もそれをなんなくガードしていた。
『村正の足りない力を自らの太刀筋で補うってことか。中々考えたのぉ。』
なるほどな。確かにハルカは村正の本来の能力を発揮できていない。ならば自分の剣さばきでどうにかすればいいじゃないかということか。
そう考えていたとき、どうやら向こうでは決着がついたようだった。
「くっ…私の負けね。」
「確かに君は負けた。ただ、剣の太刀筋には目を見張るものがある。合格だ。また後で会おう。」
そう言って、手刀を入れ気絶させた。
「おい、この子を救護室まで連れていけ。」
部下にそう命令するとこちらに視線を移し、剣を構えた。
「さぁ、後の二人は何を見せてくれるのかな?」
「いやぁ、不味いことになったな。」
俺は少し笑みを溢しながらも汗を少しかいた。
「どうするの?多分あの人で勝てないのなら私たち個人が闘っても勝ち目がないわよ。」
ミレイアさんが少し顔を強ばらせてそう話しかけてきた。
「少なくとも相手はまだ能力を使っていない。それであの強さ。だいぶ不味いわね。」
「ようやく分かったか?相手は並大抵の団長じゃない。この国最強と吟われる団長ってことだ。だから協力しようと言っている。」
「…癪ではあるけどあなたに協力しましょう。それでどうするの?」
「任せろ。俺に作戦がある。」
ミレイアさんに作戦を伝えると少し顔を驚かせた。
「それであの人に勝てるの?」
「勝てるかは分からない。ただ、これがおそらく今の最善だ。」
「…分かったわ。あなたを信じましょう。」
「頼みました。ミレイアさん。」
「ミレイアで良いわ。それに敬語も不要よ。」
そう言い、二人でエリシア様の方に向き直った。
「さぁ話し合いは終わったかな?待ちくたびれたぞ。」
「すまないな。俺らはあなたに勝ちたいからな。」
「ほぅ。私に勝つか。やれるものならやってみろ!」
エリシア様がこちらに向かってきた。
「ミレイア!頼んだ!」
そう言い、ミレイアにスイッチをして、俺は妖気をため始めた。
「5分時間を稼げば良いのよね、任せなさい!」
「5分も持ちこたえられるかなぁ!」
ミレイアとエリシア様がお互い剣で切りあった。切りあうたびに火花が飛びミレイアがエリシア様を吹き飛ばした。
「ハッハッハ!私が飛ばされるとは!天影以来だ!」
「憑依~雪女~」
ミレイアの周りを氷の粒が舞った。そしてそれらは全てミレイアの剣に吸い込まれた。
「帯刀~凍煌~」
ミレイアの剣がまるで氷のように青く光輝いた。
「これは強そうだな。私も本気で相手をさせてもらおう。」
エリシア様の周りに強力な妖気が集められていた。
「憑依~風神龍~」
国王の青龍の何倍も強い妖気がした。吹き飛ばされそうなほど強い。
「さぁこい!我が刀よ!」
「帯刀~颯天~」
エリシア様の剣、否、刀に黄緑の妖気が纏った。
「よし、闘う準備は整った!始めよう!」
エリシア様が先に切りかかった。ミレイアはなんとか受け止めはするが、押されぎみであった。
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これが風神龍の力。蒼穹王家の者は皆龍神の力を持っているとは聞いてたが、この人のは別格だ。私の"凍煌"でも守るので精一杯なんて。
「くっ…!」
「君、名前をなんと言う?」
そう聞かれたが、剣を防ぐので精一杯だったがどうにか声を出した。
「セリス・ミレイア…」
「なるほど、あのセリス家の者か!それは強いわけだ!」
すごい、すごすぎる…!エリシア様の剣の太刀筋は綺麗で、踊っているようだった。まるで風に乗って闘っているようだった。
「…やっぱりね。」
「やっぱり?」
「あなたはこの場に風を巻き起こし、それに乗り攻撃を仕掛ける。」
少し驚いた顔をされたがすぐに元の笑顔に戻った。
「はたしてどうかな?その推測は半分当たっているが半分外れだ。」
剣の振る速さが増したような気がした。
「ちっ…!あいつはまだなの…?」
ミコトはまだ妖気を溜めるために集中していた。
「こっちに集中しなくて良いのか?!」
「まずっ…!グハッ…!」
私は背中を切られ立ち上がれなくなった。
「ふん、少し油断を見せたのが命取りだったな。もちろんミレイア、君は合格だ。お疲れ様。」
「ふん。そっちこそ私に集中してて良いのかしら?」
「なんだと?」
ようやく準備が整ったのね。遅いわよ。私が負けちゃったじゃない。
「すまないな。少し遅かったか。」
「私は負けたから、せめてあなたは勝ちなさいよ。」
私はそう言って、能力を解除し深い眠りについた。
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少しミレイアに集中しすぎていたか。こやつのことを忘れていた。恐らく炎の能力であろう。特に特徴もなく、帯刀のために必要な剣も持っていない。一体どうやって闘うんだろう。
「申し訳ありません団長。準備に時間がかかりました。俺の妖怪は少し妖気が多く必要で皆が妖気を使いすぎて集めるのに時間がかかりました。」
嘘だな。妖気は絶えずこの空間に放出されているはずだ。
「ハッ!変な言い訳してないでさっさとかかってこい。」
「そうですか。では遠慮なく。」
「憑依~炎獣九尾~」
目の前のヤツの体が業火に包まれた。その瞬間私はとんでもない者の相手をすることを悟った。
「…ハハ。なるほどな。まさか化け物の相手をしなくてはならないとはな。」
これは骨が折れそうだ。私はそう思い、覚悟を決めた。
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