第六幕.本気
「グォォォォ!!」
ヴァルムートの呼応と共に空が暗くなっていった。
「すごい唸り声だ…!吹き飛ばされてしまいそうだな。」
ヴァルムートはこちらに火炎玉を何発も撃ってきた。俺は避けるので精一杯であった。
『主よ~。避けているだけだは相手は倒れないぞ~?なんせ古龍であるからな。』
「んなことわかってるさ。だが攻撃をする隙がねぇんだよ。」
その時ヴァルムートの背中になにか光るものがあった。まるで大きな宝石のように光輝いていた。
「あれはなんだ?もしやあれが弱点か?!」
「カエデ!そやつの弱点は確かに背中の宝石だ!だが、私の速さを持ってしても周り込めなかった。」
「ちぃ…!どうする…!」
俺は避けながらも必死に思考を巡らした。どうすれば回り込める?どうやって攻撃を当てる?…いや待てよ。俺は今なぜ古龍の攻撃を全て避けられているんだ?…そうか!
「そうか…!分かったぞ。」
『なんじゃ主。もしや妾の能力を今になって思い出したのか?』
「すまない。少しいなかっただけで忘れたしまっていた。」
そうだ。イズナの能力によって相手の攻撃がゆっくりに見えるんだ。しかしそれをどう使えばいい?
『仕方ない主じゃ、今しがた指南をしてやろう。』
その声と共に、イズナが体の中に入ってくる感覚がめぐり、目の前が真っ白になった。
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気がつくと、一面草原の所の木の下にイズナが立っていた。
「ここは…いったい?」
『妾の思考世界じゃ。安心せぇ外の時間は止まっておる。』
「いったいどうやって…いやそんなことよりなぜここに呼んだんだ?」
『さっきも言っただろう。指南じゃよ、指南。』
「指南だと?」
『いいか主?憑依とはなんだと思う?』
「あれだろ?妖怪の力を乗り移らせるみたいな。」
『だめじゃ。』
「へ?」
『なにもわかっとらん。皆は憑依というのはその妖が完全に乗り移るとでも考えられているが、そんなわけない。なら自我が今頃乗っ取られているだろう。本来の憑依は人格ごと妖に預けることを言うのじゃ。しかし、現代の憑依とやらは自我は乗り移さずに能力だけじゃろう?それでは完全な力は発揮できやしない。』
「ならいったいどうしたら。」
『簡単なこと。人格から、なにからなにまで妖に預ける。さすれば、本来の力を発揮できる。』
全て預ける…どこかでやったような…まさか!
「…まさかあの時の!」
『ようやく思い出したか?』
そうだ。あの時ウルフに襲われたとき、俺はイズナに全てを託し半分意識を持っていかれていた。
「…もし人が妖怪に意識を渡したとして、意識は戻ってこれるのか?」
『なんとも言えんな、人と妖の信頼関係があれば戻ってこれるだろうな。まぁ妖が人を信頼していれば意識は戻ってはくるじゃろうな』
俺は悩んだ。俺からイズナに対する信頼はある。しかし、イズナから俺に対する信頼があるのかが怖かった。主従関係であるとは言え、心から従っているのか分からない。
『主よ。』
「なんだ。」
『妾を信じよ』
その一言を聞き、俺は覚悟を決めた。
「分かった。イズナ、頼んだ。」
『任せるんじゃ主。必ず倒してしんぜよう』
イズナがそう言った時、視界がまた白くなり、意識が遠のいていった。
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私は団長だ。団長がこのような姿で本当に情けない。今、目の前にいるカエデミコトという旅人に古龍を討伐依頼をしているというのが屈辱で仕方なかった。そう思っていたときだった。
カエデが眩い光と炎に包まれた。
「そう自分を卑下するでないぞ、団長さん。四大大国の一翼を担う国の、たかが一騎士団の団長が古龍を倒せるわけがないのじゃなからな。」
「そのしゃべり方…カエデ…?いや、カエデではない、貴様は誰だ。」
「久しぶりじゃのぉ。こうやって実態となって現世に現れるのは。…む?そうかミコトは男であったな、戦いにくいで性別を変えるとするか。」
カエデの体がみるみるうちに、女性のようになっていった。否、体がどんどん変わっていった。髪は黒から白に。短髪も長髪となった。筋肉質なはずの体も華奢になっていった。
「自己紹介がまだだったな、団長殿。妾があの九尾の親方と呼ばれている、イズナじゃ。以後よろしゅう頼むぞ。」
「…へ?イズナ様?」
…今さらっとすごいこと言ったよこの人!九尾の親方?!イズナ?!あれ伝承上の存在じゃなかったの?!てかなんでカエデがつれてんの?!
「まぁ長く話すとミコトの体が持たん。さっさと決着をつけようぞ。」
そう言い、イズナ様は宙に浮き、古龍と対峙した。
「グルルルル…」
「なんじゃビビってるのか?情けないのぁ古龍の癖に」
そこから古龍とイズナ様の超次元の戦いが始まった。至るところで火花がちり、炎がぶつかり合っていた。
「遊びはここまでとしよう。次で決めるぞヴァルムートよ。」
「キシャァァァ!」
お互いに妖気を溜めあっていた。その妖力が地面を震わせ、立っていられなかった。
「行くぞ!古龍!
炎術~風火豪炎~
受けてみるのじゃ!」
イズナ様の手から放たれた炎とドラゴンの口から出た火炎玉がぶつかり合い、熱い炎がその場を包んだ。私は思わず目を閉じてしまった。
目を開けると、そこには古龍が倒れており、イズナ様が余裕の表情で立っていた。
「のぉ、そこの団長殿。」
突然、イズナ様が話しかけてきた。
「は、はい!」
「事後処理頼んだぞ。あと、
今、目の前で起きたことは絶対に口外してはならないからな。」
最後の言葉の時、イズナ様の目線が鋭くなり、私は冷や汗をかいた。これがあの九尾の親方の圧なのか。
「それと、ミコトがそろそろ起きる。こやつを王都まで届けてやくれないか?」
「なんと、カエデは王都に向かっていたのですね。」
「あれ、あやつ言っていた気が…まぁ良い、では頼んだぞ。団長殿」
そうイズナ様が言った直後、カエデの体が炎に包まれ倒れた。
「何て言う子だ。まさかイズナ様を使役されているとはな。これは陛下への連絡が増えそうだ。」
私はカエデを背負い、拠点に戻った。
「団長!無事だったんですね!」
「心配しましたよ!」
団員達が私を迎え入れたくれた。私はなにもしていないのに。
『今目の前で起きたことは絶対に口外してはならないからな。』
私はイズナ様の言ったことがフラッシュバックした。ここは嫌だが私の手柄にするしかないのか。
「古龍は私が討伐した。カエデは戦闘を見て気絶したしまったそうだ。手当てを頼む。」
私は部下にカエデを預け、本部に向かった。
中には副団長がおり、今起きたことを話すことにした。
「……というわけだ。なので私はヴァルムートを倒してはいない。」
「団長、頭の痛い子を連れてしまいましたね。こりゃ一刻も早く国王に報告しなければなりませんぞ。」
「あぁ、そのつもりだ。だから古龍ヴァルムートの処理が終わり次第、すぐにここを経ち王都に向かうことにする。連絡よろしく頼むぞ。」
「へぇへぇ、分かりましたよ。にしてもあの子どうして王都なんかに行くんでしょうね?」
「おそらく、今度行われる騎士団振り分け試験に行くのだろうな。あやつなら第一騎士団に行けるだろうな。」
「あそこですかぁ。どうですかね。あそこの団長気難しい人ですし、あの子はあまり好まなそうですけどね。むしろ、団長が面倒見たそうにしてますけど」
「は、はぁ?!そんなわけないだろ!」
「冗談ですよ、冗談。」
「はぁ、さっさと古龍の始末を始めろ!」
「へいへい。」
副団長が本部を出て一人になった。
「私はあいつに助けられたってことか。どんな形であれ、感謝をしないといけんな。」
そう言い、団長も本部を出た。