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オフ会に行ったら待ち合わせ場所に元カノがいた

作者: れぐるす

「そんなにゲームの方が大事なら、私じゃなくてゲームと付き合えばいいじゃない‼」


 もう三月だというのに、ゲームをしていると去年の夏休み前に元カノに言われたその言葉が脳内にリフレインし、集中できないことがある。


 無事、志望大学に合格した俺は今、春から始まる大学生活への期待に胸を躍らせるのではなく、ゲーム配信に勤しんでいた。

 受験も終わり、自由な時間が増えたため、思いっきり羽を伸ばしているという訳だ。


 しかし、自由な時間が増えたせいで、最近、ふと元カノの事を思い出してしまう事が増えてしまった。



——あの日、俺は、家に来ていた元カノの前で、今日のようにゲームに興じていた。


「そんなにゲームの方が大事なら、私じゃなくてゲームと付き合えばいいじゃない‼」

 瞳から零れ落ちた涙とその言葉だけを残し、元カノは俺の前から去って行った。


 

 いや。俺が悪いことをした事は分かっている。

 しかし、その上で言わせてほしい。

 

 あの女の方が悪い。と。

 

 確かに俺はあの時、彼女を忘れて完全にゲームにハマっていた。それは認めるし、反省もしている。

 ただ、俺がゲームにハマるきっかけを作ったのは間違いなくあの女だ。



 俺とあの女は、同じバスケ部に入っていた。だから、仲良くなったし、一年の夏に告白されて付き合うことになった。


 今となってはゴミ箱にぶち込みたい記憶でしかないが、一緒に部活をして、部活終わりに二人で帰っていた頃の俺たちは、本当に仲が良かったと思う。

 あの頃は、明日には忘れているような他愛もない話をしているだけで、楽しかった。


 そして、俺は彼女の事が大好きだった。バスケプレイヤーにしてはそこまで身長くなく、目立つ方ではなかったが、長めの髪を頭の後ろにまとめてバスケをする姿に、普段はクールであまり表情を変えない彼女がたまに見せる笑顔に、控えめな見た目をして、言いたいことはごまかさずにはっきり言うその性格に、俺は惹かれていた。


 しかし、当然そんな時間は長くは続かない。きっかけはあの女の発言からだった。


「私、生徒会に誘われたんだけど、入ってもいいかな」


 俺たちが高校三年生になったある日の帰り道、あの女はそんな言葉を口にした。

 その言葉に、俺は少しの苛立ちを覚えた。

 そんなの、嫌に決まっているだろう。

 生徒会に入ったら、確実に今より忙しくなる。一緒に帰る時間が取れなくなるかもしれない。


 あの女も、そんなことは分かっていただろう。分かった上で、俺に許可を求めてきたのだ。きっと、自分自身の罪悪感を消すために。


 それでも俺は、あの女に生徒会に入って欲しくないなんて、そんなこと言えるはずなかった。束縛しているみたいで嫌だったし、そもそも、そんなことをいう権利が俺にはない。

 高校三年生になり、受験を控えていた俺たちは、内申点も気にしなければいけなかった。彼女が生徒会に入ることを止めた場合、俺が彼女の成績に傷をつけることになるのだ。

 そんな事、できるはずがない。


「いいよ。てか別に、俺に許可取る必要ないじゃん」

「……そうだよね」


 二人きりの帰り道。いつもは会話が尽きないのに、その日はそれ以上あの女と話すことは無かった。


 そして彼女は、生徒会に入った。案の定、一緒に帰ることはめっきり少なくなった。たまに一緒に帰ることはできたが、俺は、前ほど彼女とのその時間を、楽しむことができなくなっていた。


 あの日以来、俺とあの女の間には、少しずつ、亀裂が入り始めていた。そしてそれは、確実に広がっていた。


 俺はその寂しさを埋めるため、ゲームにのめり込んだ。

 多分、もうこの時点で、俺たちの歯車は狂い始めていた。


 しかし、この時は。この時はまだ、俺はあの女に、そこまで嫌悪感を抱いてはいなかった。


 明確にあの女に対して怒りを覚えたのは、それから一か月ほど経ったある日だ。


青空(そら)、最近冷たいよね」


 その日はあの女と久しぶりに一緒に帰っていた。そんな時、あの女はあろうことか、そんなセリフを吐いたのだ。


「…………は?」


 なぜ俺が攻められているのか、意味が分からなかった。だって、俺との時間より生徒会を優先しているのは、あの女の方だ。そのセリフは本来、俺が言うべきものであって、決してあの女に言われる筋合いはないのだ。


「『は』って何? 青空と一緒に帰るために、私は急いで生徒会の仕事を片付けたんだよ? それなのに何で私の隣でゲームしてるの?」


 認めよう。彼女の前でゲームをするという行為は、決して誉められたものではない。そこは俺が悪かった。


 しかし、しかしだ。俺は別に、あの女に早く生徒会の仕事を終わらせてくれと頼んだ覚えはない。

それに、昨日だって一昨日だって、あの女は俺と一緒に帰ってくれなかったではないか。どうして生徒会活動を優先して彼氏との時間を蔑ろにすることは許されて、俺がゲームをしてあの女との時間を蔑ろにすることは許されないのか。あの時の俺は、それが許せなかった。


「……ごめん……」


 でも、俺はこの女と比べて大人だ。こみ上げてきた怒りをぐっと飲み込み、かわりに謝罪の言葉を口にする。


「別に、謝って欲しい訳じゃないんだけど」


 このタイミングで向こうが謝ってこれば、俺だってここまであの女に嫌悪感を抱くことは無かっただろう。しかし、あの女は謝ってこなかった。


 その後、俺たちは一言も口を聞かなかったことは、想像に難くないだろう。


 今思えばこの頃にはもう、俺たちの仲は修復不可能だったのかもしれない。

 言いたいことははっきりと言う彼女の事をかつては好ましく思っていたのだが、この頃にはただの性悪女だとしか思えなかった。


 そして、さらにその一か月後。


「そんなにゲームの方が大事なら、私じゃなくてゲームと付き合えばいいじゃない‼」


 その言葉を最後に、俺たちの仲は完全に崩壊した。

 



 俺たちは夏休みで部活を引退した。俺も彼女も理系ではあったが、三年生の時はクラスも違ったため、完全に接点を失った。


 連絡先は消していなかったが、部活の引退と同時に受験勉強が忙しくなり、一切連絡を取らなくなった。


 そして、ついに高校卒業まで、あの女と会話することは無かった。

 



 全てあの女が悪いとは言わない。俺にだって悪いところはあった。

 しかし、俺らの関係が終わりに向かったのは、間違いなくあの女のせいだ。ゲーマー風に言えば戦犯だ。


 例えば、某色塗りイカゲームで、人数不利なのにホコを持って敵陣に特攻するような。某アペで、敵の体力を削ったからといって、残りの敵の位置が分からないのに飛び出して真っ先にダウンするような。

そのレベルの戦犯をあの女はかましたのだ。


 それに比べれば、俺の悪かった所など、たかが知れている。

 

 まあ、今更騒いだところでどうにもならない。あの女とはもう別れたし、もう二度と関わることはない。


 自分の悪かった所は反省し、経験値にする。人生でもゲームでも、それが大切だ。


 それに、高校生のカップルは一年以内に七割が破局すると聞く。七割といったら、ちょうどソシャゲのガチャでの低レアキャラの排出率くらい。つまりは珍しくもない、当たり前のだという事だ。


 思えば、あの女で経験値を貯めることができてよかったのかもしれない。もし次に運命の人とやらに出会う事ができた時、その経験を生かすことができるのだから。




『ちょっと、エーテル君! 何ぼーっとしてるのさ』

 

 頭に着けたヘッドフォンから、コラボ相手の声が聞こえてきた。

 いかんいかん。ゲーム配信中だというのに、憎きあの女の言葉に惑わされ、つい集中が切れてしまっていた。


「ごめんなさい。メアさん」

『まあまあ、メアちゃん。そんなに怒らないでもいいじゃないか。それよりも、頼むよ、エーテル君』

『任せてください』


 俺は自分のキャラのウルトを敵の隠れている岩の裏側に投げ込み、敵をあぶりだす。


『行くよ!』


 メアさんの掛け声とともに、俺たち三人は遮蔽物を失った敵に弾丸の雨を浴びせる。俺たちの連携は見事にはまり、敵部隊は壊滅した。


『やったー! チャンピオン!』

『二人とも、お疲れ様。いい試合だったよ』

〈連携完璧〉 〈GG〉 〈やっぱりこの三人のコラボ面白いわ〉 〈大会本番も楽しみ〉


 ちらりとコメント欄を見ても、好意的な声で溢れている。

 

「それじゃあ今日はここまで。またこのメンツでコラボやるから、絶対に見てね!」


 配信を切り、俺は大きく息を吐く。


『エーテル君、お疲れ!』


 ゲーミングチェアに座りながら大きく伸びをしていると、明るい声がヘッドフォンから聞こえてきた。

 彼女は(いさ)魚取(なとり)メア。つい一か月ほど前に大手VTyuber 事務所からデビューした新人VTyuber だ。

 配信者としては俺の方が先輩だが、大手からデビューしただけあって、登録者は彼女の方が多い。


「メアさんもお疲れ。それにしても、ゲームすごく上手くなったね」

『ほんと? エーテル君に褒められると、自信になるよ!』

『ああ。私から見てもメアちゃんはとても上手くなってるよ』


 メアさんと話していると、中性的で耳障りの良い声が聞こえてきた。もう一人にコラボ相手のエースさんだ。視聴者からは姐さんと呼ばれているように、とてもクールな配信者だ。


『これなら、大会でも上位を狙えるだろう』

『本当ですか? 頑張って練習して良かったです!』


 俺たち三人は、二週間後にあるFPSゲームの大会に向けて練習を重ねていた。


 俺とエースさんはこのゲームの経験も豊富だったのに対し、メアさんは初心者だったので、最初の頃はどうなるか心配だった。

 しかし、メアさんは努力家だった。俺とエースさんの指導もあり、ここ数日のメアさんは、十分中級者と呼べるほどの実力にまで成長していた。


『やはり君たちを誘ってよかったよ。二人の相性が良さそうだと前々から思っていたのだが、どうやら正解だったようだね』


 もともと俺はエースさんとの交流があり、良くしてもらっていた。そして、今回もエースさんに誘われて大会に出ることになった。その際、エースさんが新人のメアさんも誘ってくれたのが、俺とメアさんの交流の始まりだった。


『時に君たち。大会まで二週間を切ったし、ここらへんで一回、私たちの親睦を深めないかい?』

 突然エースさんがそんなことを言い出した。

「何をするんですか?」

『オフ会だよ』

『オフ会! やりたいです!』


 エースさんの提案に、メアさんがノリノリで賛同する。


「僕もいいですよ。今春休みなので、暇ですし」


 俺も断る理由がないし、なんだか楽しそうなので参加の意思を示す。それに俺は以前、エースさんとは会った事があるので、心理的ハードルも低かった。


『そうと決まれば早速場所と日時を決めようか』


 この前の配信で、自分たちが住んでいる場所の話になった時、三人とも割と近い地域に住んでいることまでは分かっていた。しかし、具体的にどこに住んでいるのかは知らないので、俺はとりあえず、一番近い主要駅の名前を挙げる。


『え⁉ エーテル君もその駅近いの? 私もそこら辺に住んでるよ!』


 するとなんと、メアさんも俺の家からそう遠くないところに住んでいるらしいことが判明したのだ。まさに運命的だ。


『なるほど。なら集合場所はその駅にしよう。それで日時だが——』


 それからはトントン拍子に事が決まり、俺たちは二日後に現実で会うことが決まった。


『それでは、私は明日も仕事があるので失礼するよ』


 そう言い残し、エースさんは一足先に通話を抜けていった。彼女は社会人と配信者の二足のわらじを履いているので、忙しいのだろう。


『エーテル君って、普段どれくらい練習してるんですか?』


 エースさんがいなくなったのでお開きになるのかと思ったら、メアさんがそう話しかけてきた。


『配信の前に三十分以上はエイムの練習をしてるよ。後は試合の振り返りと反省を毎回してるくらいかな』


 反省をして次に生かす。ゲームだって、恋愛だって、それが大切なのだ。


『へー やっぱり、しっかり練習してるからあんなに上手なんだね。尊敬するよ』

『いやいや。メアさんだって、このゲーム初心者だとは思えないくらい上手くなってるし、毎日努力してるでしょ』

『今は春休みだから、最近はかなり練習してるんだけど、それでも二人に追い付ける気がしないよ』

『そんなことないよ。今日だって、メアさんのカバーのおかげで助かった場面があったし、一対一も前より強くなってたよ』

『エーテル君って、お世辞とか言えるんだね』

『俺はお世辞を言える性格じゃないよ。メアさんほど気も遣えないし』

『私も言いたいことは言っちゃう性格だから、そこまで気は遣えないよ。まあ、エーテル君に嫌がられてないなら、それでいいや』

『嫌がるわけないよ。メアさんとゲームやるの、すごく楽しいし』

『良かった、私も楽しいよ!』


 一度も会ったことがないのに、なぜかマイクの向こうのメアさんの笑顔が想像できる気がした。

 俺もメアさんも春休みだという事もあり、その後も俺たちは時間を忘れて話し込んでしまい、気づいたら日付が変わってしまっていた。


『オフ会、楽しみにしてるね! それじゃあ、おやすみなさい』

「おやすみ」


 通話を切って、ゲーミングチェアに持たれながら天井を仰ぎ見る。


 やっぱりあの女と別れてゲームにのめり込んだのは正解だった。だって今、俺はこんなにも楽しいのだから。

 特に、メアさんと出会ってからゲームをするのが楽しくなった。話していても楽しいし、優しい雰囲気があるし、ヘッドフォンから聞こえてくるメアさんの声は、不思議な安心感がある。


 メアさんの爪の赤を煎じてあの女飲ませてやりたいくらいだ。


 ただ、俺は決してメアさんと付き合いたいとか思っているわけではない。俺はもう、しばらく恋愛はこりごりだ。好きだったはずのものを嫌いになってしまうあの感覚を、俺はもう味わいたくない。


「そんなにゲームの方が大事なら、私じゃなくてゲームと付き合えばいいじゃない‼」


 あの女の言葉を頭から振り払いながら、俺はベッドに飛び込んだ。



◇  ◇  ◇



 オフ会当日。俺は少しだけ緊張しながら、集合場所に向かっていた。

 エースさんとは会ったことがあるが、メアさんとは初対面だ。緊張してしまうのは、仕方ないだろう。


〈駅の時計塔の下に居ます。黒のワンピースに、白いカーディガンを着ています。〉


 スマホを見ると、メアさんからメッセージが届いていた。どうやら先に待ち合わせ場所に到着しているようだった。

 俺も少し速足になって、時計塔に向かう。

 

 しかし、そこで最悪の事態が起こった。

 時計塔の下になぜか、今、俺がこの世で一番会いたくない相手。八か月ほど前に絶交した元カノ、汐留(しおどめ)()()が立っていたのだ。


「………………」

「………………」

「……ねえ、どっか行ってくれない? 私ここで人を待ってるんだけど」

「君こそどっかいけばいいだろ。俺だってここで人を待っているんだ」

「へえ。ゲームばっかりで、私とは全く遊んでくれなかった青空が人と遊ぶなんて、今日は槍でも降るのかしら」

「ああ、ぜひとも降って欲しいね。君の頭に」


 せっかくオフ会を楽しみにしてきたのに、気分が台無しだ。なぜ今日に限ってこの女と出会わなければならないのか。

 俺は大きくため息をつきながら、隣で不機嫌そうな顔をしている女を盗み見る。


 彼女は、俺と付き合っていた頃とは、雰囲気が全く変わっていた。不機嫌そうに俺に突っかかってこなければ、スルーしていたかもしれないほどの変わりようだ。


 付き合っていた時はそこまで垢抜けておらず、磨けば光る原石だと心の中で密かに思っていたのだが、今のこの女は、普通に可愛かった。いや、俺は決して可愛いなど思っていないが、客観的に見てそう思ったというだけだ。


 いつの間にか切られていた短い髪。付き合っていた頃は一度も付けているのを見たことの無いイヤリング。そして、黒いワンピースとカーディガンを合わせた、シンプルだが高校生とは思えない大人っぽい服装。何もかもがあの頃とは違っていた。


 しかし、今日はこの女には用はないのだ。いや、もう未来永劫用はないだろう。

 

 思考を切り替えながら、この場に来ているはずのメアさんを探す。

 えっと、確か黒のワンピースに白いカーディガンを着ているって連絡が来ていたような……

 俺は首を巡らして、時計塔の下にいる、黒のワンピースに白いカーディガンの人物を探す。

 それなのに、探せど探せど、それらしき人影は目に入ってこない。


〈俺も到着しました。青いシャツにジーパンを履いてます〉


 仕方がないので俺もスマホを取り出し、三人のグループにメッセージを飛ばす。


 すると、もう二度と関わりたくない女が、俺の事をジロジロ見てきたではないか。

 最初の方は無視していたが、しばらくして我慢の限界を迎えた俺は、スマホから目線を上げ、隣にいる女を睨みつけた。


——何見てるんだよ——


 しかし、俺は、その言葉を吐き出すことができなかった。


 そう、目の前の元カノ、汐留海美の服装は、黒いワンピースに白いカーディガンだったのだ。それは何度見ても変わらない、目の前の事実だった。


 ゲーム配信では、どんなピンチに陥っても冷静さを失わないことで有名な俺の思考が停止する。

 向こうも向こうで、スマホと俺を交互に見るロボットに成り下がっていた。


 いや、冷静になれ。黒いワンピースに白いカーディガンの人間なんて、この世にごまんといるだろう(失礼)。

 メアさんは恐らく、お手洗いにでも行ったのだろう。きっとそうだ、そうに違いない。

 だって、この、根暗ですぐにキレる女が。あの、努力家で、明るくて、尊敬できるメアさんであるはずがないのだから。


 しかし、俺の現実逃避も長くは続かなかった。


 ピロリン。と、通知を告げる音が、俺と、俺の目の前にいる女のスマホから同時に聞こえる。


〈二人ともすまない、少し電車が遅れているようで、後五分ほどで到着する予定だ。〉


 姐さんことエースさんが、五分の遅刻を律儀に報告してくれたようだ。


 ただ、今の俺は、そんな事などもうどうでもよかった。


 目の前の黒いワンピースに白いカーディガンを着た女のスマホが、俺と同じタイミングで鳴った。流石にこれは、もう偶然では済まされない。



「あの、メアさん、ですか?」


 俺は目の前の女に、思わずポロリとそう呟いてしまった。

 そして、尋ねてしまってから、違ってくれ。お願いだから、否定してくれ。そう強く願った。


「……はい……」


 俺の願いは届かない。目の前の女は、小さく口を動かし、俺のそう告げる。


 そう。配信で俺が最近コラボしていた、大手VTyuber 事務所の新人VTyuber 、勇魚取メアの正体は、八か月前に別れた元カノ、汐留海美だったのだ。


「………………」

「………………」


 再び沈黙が俺たちの間を支配する。俺の今までの人生の中で、一番気まずく、ずっしりと重い空気だった。


「…………帰る」

「待ちなさい」


 もうこの女とは関わりたくない。俺はその一心で踵を返して歩き出そうとしたが、メアさん、改めクソ女の鋭い声に呼び止められる。


「もうすぐエースさんが来るのよ。エースさんは少し遠い所から、私たちに会うためにここに来てくれるの。それなのに、あなたが自分勝手に帰るなんて。そんな無責任な行動、許されないわ」

「へぇ。随分優しくなったものだね。俺には一切気を遣ってくれなかったのに、エースさんには気を遣えるんだな」

「あなた昨日、『メアさんは気遣いができる人だ』みたいなこと言ってなかったっけ?」

「なっ…… そ、それを言うなら、君だって昨日、俺に向かって『尊敬するよ』って言ってたじゃないか」

「そ、そんなのお世辞に決まってるじゃない!」

「君、昨日は言いたいことははっきり言う性格だって言ってたぞ」


 勝った。俺はにやりと笑みを浮かべながら目の前の、バスケプレイヤーにしては身長の低い女を見下す。

しかし、目の前の女は諦めていなかった。


「私、昨日あなたに『メアさんとゲームやるの、すごく楽しいし』って言われた覚えがあるのだけど」


 あぁぁぁぁあ~~~~~! 何バカなことを言ってるんだ昨日の俺! 

 ああそうだよ! 昨日の俺は確かにそう言った。話してて楽しいとも思ったし、声を聞いて安心するとかも思ったし、何ならメアさんの爪の赤をこいつに飲ませたいとも思ったよ! ていうか、俺たち付き合ってた時に電話なんていくらでもしてただろ! 通話の声でメアさんが海美だって気づけよ! バカなのか⁉ 

 形勢逆転。目の前の女はしてやったりという表情で腕を組みながら俺を見上げてくる。心の中では俺の事を見下しているに違いない。


 いや、冷静になれ。


「ああ、確かに昨日の俺はそう言った。しかし、記憶が正しければ、俺のその言葉に対し、君は『良かった、私も楽しいよ!』と返してこなかったかな?」


 こうなれば道連れだ。ここから逆転できないのなら、目の前の女を俺と同じ立場に引きずり込んでやる。


「そ、それは……!」


 目の前の女は、顔を真っ赤にして拳を握っている。まあ、それは俺も同じことだが、あの女に見下されなくなっただけでも及第点と言える。犠牲は大きかったが、何とか昨日の俺の尻を拭くことはできた。


「だいだい、高校では大して友達もいなかったあなたが、なんでゲーム配信なんてやってるのよ⁉」

「それを言うなら、どうして真面目で頑固一徹でお堅い元生徒会書記の君がVTyuber なんてやってるんだよ」

「別に私の事なんて、もうどうでもいいでしょ?」

「ああ、もうどうでもいいね」


 売り言葉に買い言葉。人目のある場所だというのに、俺たちはお互いに一歩も引くことはなく、口論を始めてしまった。


「二人とも、待たせてすまない」


 そんなことをしていたせいで、俺たちは近づいてくる人影に気づくことができなかった。

 はっと顔を上げると、エースさんが口喧嘩をしていた俺たちを見下ろしていた。


「メアちゃん。初めまして、私がエースだよ」


 この前オフで会った時にも思ったのだが、エースさんは恐ろしくスタイルが良い。身にまとうクールな雰囲気も相まって、まるでモデルのようだった。


「初めまして! 私、メアです」


 さっきまで俺を睨みつけていた女が、笑顔でエースさんに挨拶をしている。それを見て、俺も慌てて気持ちを切り替える。


「エースさん。お久しぶりです」

「ところで、二人ともさっきは何を話していたんだい? ずいぶん近い距離で仲良く話してい

たみたいだけど」

「あ、えっと… ちょっと、ゲームの話を… ね?」


 隣の女が、話を合わせろと睨みを利かせてくる。この女に従うのは癪だが、この状況では致し方ない。俺はプライドを捨てた。


「あ、はい」

「仲がいいのは良いことだ。それじゃあ、早速行こうか」


 歩き出したエースさんを追いかけようとすると、あの女に後ろから服の襟をつかまれ、無理やり屈まされる。

「(ちょっと。もう少しうまく合わせなさいよ)」

「(なんで俺がお前に合わせなきゃいけないんだよ。それと耳元で囁くな。鳥肌が立つ)」

「(私だってあなたと合わせたくないし、あなたに触れたくもないわよ。さっきも言ったわよね? エースさんはわざわざここまで来てくれたの。私たちの問題に巻き込むわけにはいかないわ)」


 海美は、まっすぐ俺の目を見てくる。今は嫌いなはずの彼女のその瞳から、なぜか目が離せなくなってしまった。


「(分かったよ。俺も大人だ。今日だけは合わせてやる)」

「(調子に乗らないで。あなたよりも、そこで大人しくベビーカーに座っている女の子の方が、よっぽど大人よ)」


 あのクソ女。俺が下手に出るとすぐこれだ。しかし、俺は大人なので言い返したりはしない。

 俺の服の襟から手を離し、エースさんの隣に笑顔で駆け寄る猫かぶり女の背中に向けて、俺は恨みのこもった視線を送っておいた。




 エースさんはこの町に来るのが初めてだというので、しばらく目的もなく散策することになった。

 しかし、これがかなりの生き地獄だった。

 なにせ、この駅前には、彼女との思い出が多すぎる。


 もちろん綺麗な思い出なんかではなく、小学生の頃『解毒薬』の事を『かいどくやく』と間違えていたような。『せんせいのツメ』の事を『先生の爪』だと勘違いしていたような。思い出すと悶えだしたくなるような記憶だ。


「お! なんだかいい感じのアクセサリーショップがあるね。入ってもいいかい?」

 プチ旅行気分で楽しそうなエースさんがアクセサリーショップに入っていく。俺たちもついて行くが、この店は、海美と付き合っていた時に訪れたことのある店だった。



——このイルカのネックレス、かわいいと思わない?

——うん。海にとっても似合うと思うよ。

——本当? 買っちゃおうかな。

——あ、待って。じゃあ、俺にプレゼントさせてくれないかな?

——いいの?

——うん。

――へへ。ありがとう。とっても嬉しいよ。

——海美が喜んでると、俺も嬉しいからね。



 死にたい。どうやらあの時の俺は、彼女に自分のプレゼントしたアクセサリーをつけさせることで、独占欲を満たしたかったらしい。

 しかし、努めて冷静に過去の自分を分析しても、黒歴史が薄まるわけではない。俺は拳を握り、歯を食いしばりながら、なんとか正気を保ち続けた。


 ふと、あの女に目を向けると、エースさんとアクセサリーの話で盛り上がっている。俺は昔の事を未だに引きずっているというのに、あの女は全く気にしていないようだ。


 ああ。海美はもう、とっくに俺の事なんか忘れて、前に進んでいるんだな。どうせ俺が渡したあのネックレスも、もう、とっくに捨てられているのだろう。


 ふと、そんなことを考えてしまい、慌てて首を振る。

 あの女が俺との記憶を消しているという事は、俺の黒歴史が世に残らないという事だ。寧ろ、喜ぶべきことではないか。


「おや、このイルカのネックレス。メアちゃんにとても似合いそうではないか」


 エースさんのその言葉に、俺はハッと顔を上げる。

 一つの店に、イルカのネックレスがそう何種類もあるはずがない。エースさんが指を指しているイルカのネックレス。それはあの時、俺が海美にプレゼントしたものだった。


「あ、それは……」


 笑顔のエースさんに対して、海美は何とも言えない顔をしている。それはそうだ。元カレから貰ったネックレスなんて、例えエースさんの勧めであっても着けたいものではないだろうから。


「気に入らなかったかい?」

「えっと、そういう訳ではないんですけど」


 そう言って、海美はエースさんの肩を引っ張り、エースさんの耳に手を当てて何か言をいながら、自分の首元を触る。

 一体何を話しているのだろうか。


しかし、俺が推理しようとする前に、エースさんが答え合わせをしてくれた。


「なんだ、もう着けていたのか。だったらそう言ってくれればいいじゃないか」


 その瞬間、海美は顔を真っ赤にしてエースさんの口を塞ごうとした。しかし、海美とエースさんの身長差は少なく見積もっても三十センチはあるため、エースさんを止めることができないでいた。


「ところで、どうしてワンピースの下に隠しているんだい? せっかくなら——」

「あ! あっちにもかわいいアクセサリーが! エースさん。行きましょう!」


 海美はエースさんを俺から引き離しながら、俺と距離を取ることにしたようだ。

 だが、そんなことをされなくても、俺は海美の着けているネックレスの事を追求するつもりは無かった。


 だって。もう、俺と海美は別れた、無関係の人間なのだから。

 しかし、そのはずなのに、俺の意識はどうしても、海美の首元に向かってしまった。

 


 結局あの後、楽しそうにアクセサリーの話をする二人をぼーっと追いかけてから、エースさんが行きたがっていた、ここら辺では有名なケーキ屋さんにやって来た。

 海美の隣にエースさんが座ったので、俺は海美の向かいに腰を下ろす。


 もちろん、この店にも黒歴史という名の海美との思い出がある。

 ただ、先ほどまでと比べてその思い出が気にならないのは、他の事に意識を持って行かれているからだろう。


 俺は、エースさんと楽しそうに話す目の前の女から目をそらしながら、前と変わらず美味しいケーキをちまちま食べ進めた。



 暫くすると、エースさんが眉をひそめながらスマホを取り出した。


「すまない、仕事の電話のようだ。ちょっと失礼するよ」


 そして、エースさんはそう言い残し、スマホを耳に当てながら店の外に出ていく。俺たち二人は、向かい合ったままその場に取り残されてしまった。


「……何ジロジロ見てるの」

「……誰が君の事なんか見るか、バカ」


 口ではそう言ったが、馬鹿は俺だ。俺は確かに目の前の海美を見てしまっていた。正確には、彼女の首に着けられたネックレスを見てしまっていたのだ。

 あのネックレスは俺が渡した物だという証拠は無いし、仮にそうだったとして、海美がなぜ今日着けてきたのかも分からない。


 ただ一つ分かることは、俺はこの女が嫌いだし、向こうも俺が嫌いだということ。でなければ、別れるはずがないのだから。


「私、高校の時はあなたよりテストの順位上だったんですけど。何なら共通テストの点数で勝負してもいいけど」

「勉強ができることだけが賢さじゃないだろ。バカ」


 俺はこの女が嫌いで、向こうも俺が嫌い。だから、口論だってするし、マウントを取るために相手を馬鹿にすることも普通の事だ。

 俺はもう、この女の事を、なんとも思っていない。そのはずだった。


「バカはあなたでしょ。大体、エーテルって何なのよ。名前の『青空』と五大元素の『空』をかけたんでしょうけど、そんな中二病みたいな名前、恥ずかしくないの?」

「君こそ、勇魚取って海の枕詞だろ。それとドイツ語で海を意味するメアで勇魚取メアって、恥ずかしくないのか? それより、何で君がVTyuberなんてやってるんだよ! 俺と付き合ってる時は生徒会で忙しそうにしていて、俺に構ってくれなかったのに、俺と別れたとたん、ずいぶん暇になったんだな!」


 言ってしまってから気付く。今の発言は、相手を馬鹿にするためのものではなかった事に。

今のは、付き合っていた頃に伝えることができないでいた、寂しかったとか、辛かったとか、悲しかったとか、そういう感情をごちゃ混ぜにした、子どもっぽい癇癪だった。


 自分で自分が嫌いになる。だって、俺は今、目の前の女に、自分の気持ちを理解してもらおうとしたのだ。

付き合っていたあの頃のように。


「私がVTyuberになったのは、あなたのせいよ!」


 自己嫌悪に陥りかけていた俺の思考が、海美の大声と机をたたく音で一気に引き戻される。


「あなたがゲームばっかりやってたから、私もゲーム機を買ったのよ。いつか、あなたに教えてもらおうと思って。それなのに……!」

「海美、ここ店だから、落ち着けよ」


 俺は慌てて海美をなだめにかかる。ああ、これはあれだ。目の前の人が興奮しているほど、冷静になってしまうやつだ。

 しかし、海美は止まらなかった。


「受験終わって、暇になって、寂しくて、初めてゲームをやってみたら楽しくて、もっと沢山の人とゲームしたくて、偶然VTyuber募集してること知って、応募してみたら合格できたの! なんか文句あるの⁉」

「……いや、文句ない。だから、一回落ち着けよ」


 店中の視線を集めていた海美は、気まずそうに体を小さくし、椅子に腰を掛けた。どうやら、ようやく落ち着いたようだ。

 しかし、俺も必死に冷静を装っているだけで、内心とても混乱していた。


 付き合っていた時に海美に怒られたことは何度もある。しかし、その時とは比較にならないほど、今の海美は怖かった。いや、感情を爆発させていると言うべきか。

 そんな海美に気圧されて、俺は彼女の心の声を全て聞いてしまった俺が、冷静でいられる訳がなかった。



 冷静に考えれば、俺も彼女も、ただ寂しがっていただけだと気づくことができたはずなのに。

 冷静に考えれば、彼女が、なぜ俺プレゼントしたアクセサリーを別れた後も持っていたのか、分かるはずなのに。

 冷静に考えれば、俺は一度でも海美に対して嫌いだといった事は無いし、海美からも嫌いだと言われたことが無いという事に、気づくことができたはずなのに。


「君の方が、よっぽど場の雰囲気を壊してるじゃないか」

「うるさいわね。エースさんが居なんだから、別にいいでしょ」


 だから、冷静でない俺にできたことは、目の前の、もう別れた、嫌いだと信じたいクソ女に、突っかかることだけだった。


「君、はっきり言う性格だとか言っておきながら、悩みを抱え込む癖があるよな」

「はぁ? あなたに私の何が分かるって言うの? そもそも、あなたの察しが悪いせいで、私が全部言わなきゃいけなくなったんでしょ?」

「俺の事をエスパーか何かだと思ってるのか? 人間が何のために会話するのか、そんなことも分からないなんて、とんだバカだな」

「あなたこそ、罵倒の言葉がバカしかないバカじゃない」

「偉そうに。大体、今日はオフ会だろ? 俺は配信者として君の先輩なんだから、もっと敬意を持って俺に接するべきじゃないのか?」

「それを言うなら、私はもう銀の盾を持っているけど、あなたは持っているのかしら?」


 こうして俺は、海美との仲直りの機会を失った。いや、別にこの女と仲直りする理由は俺にはないので、どうでもいいのだが。


「登録者数が多い配信者が偉い訳じゃないだろ」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえないけど」


 さっきまでみっともなく怒鳴り散らしていたのに、今はニヤニヤ笑みを浮かべている目の前の女の事が好きだったなんて、やはり一時の気の迷いだとしか思えない。


 こんな女とは、別れて正解だったのだ。俺はそう思う事にした。


 ともあれ、今、俺の胸の中にある感情はただ一つ。



 『この女にだけは、負けられない』



「少なくとも、今やっているFPSゲームのランクは俺の方が高い。だから俺の方が上だ」

「そんなの、あなたの方が遊んでいる時間が長いんだから当たり前でしょ?」


「二人とも、待たせてすまなかった。ところで、ずいぶん盛り上がっていたようだが、何の話をしていたんだい?」


 一日でいろいろありすぎて、なんだかよく分からないテンションになってしまっていた俺は、戻ってきたエースさんの顔を真っ直ぐ捉える。

 俺の向かいの席で、海美も同じようにエースさんを見上げているような気配を感じた。


「エースさん。俺、絶対に(この女には)勝ちたいです!」

「エースさん。私、絶対に(この男には)勝ちたいです!」


「あ、ああ。絶対に優勝しような」


 結局。今日一日で、表面上は俺たちの仲は深まった。少なくとも、エースさんにはそう見えただろう。

 確かに、俺とこの女の気持ちは通じ合った。


 『絶対に負けられない』


 俺も、多分、目の前の女もそう思っている事だろう。

 急にやる気になった俺たちに困惑しているエースさんに気づかれないように、俺はこっそりと目の前の女を睨みつけておいた。




 その後、表向きにはオフ会はつつがなく終了した。


(メア)は、視聴者の前では今まで通り、あなた(エーテル君)に好意的な態度で接するわ。でも、勘違いしないでね。私はあなたの事、許してないから」


 エースさんを見送った後、海美が俺を睨みつけてきた。

 エースさんがいなくなったとたんにこれか。やっぱりこんな奴を好きだったなんて、一時の気の迷いだったとしか思えない。


「俺だって自分のファンは裏切れない。配信の時だけは今まで通り仲良くさせてもらう。それと、俺は別に、君に許して欲しいなんて思ってない」

「そうね。でも、これだけは言いたかった。……ごめんなさい……」


 目の前で頭を下げる海美に、俺は負けたと思った。俺が今までできなかった謝罪を先にしてきたこともそうだし、俺と違って、海美は、もう過去には囚われていない。そんな気がしたから。


「……いや。俺こそ、ごめん……」

「別に、謝って欲しい訳じゃないの。私がすっきりしたかったから謝っただけ。もう、会うこともないだろうし」

「そうだね」

「それじゃあ」

「うん」

「「さようなら」」

 


 あの時とは違う、明確な別れの言葉を残して俺たちは互いに背を向けて歩き出した。

 好きだったはずの海美の事を嫌いになって、別れた。その事実は変わらないのに、なんだか少し、心が軽くなった気がした。


 少なくとも、ゲーム中に、彼女の「そんなにゲームの方が大事なら、私じゃなくてゲームと付き合えばいいじゃない‼」という言葉を思い出すことは、もうないだろう。

 なんだか、高校時代にやり残した宿題をようやく終わらすことができたような、そんな感覚だった。





〈チャンネル登録者数二十万人超えてました!〉

〈おお! メアちゃん、おめでとう!〉


 少し晴れ晴れとした気持ちで帰りの電車に乗っていると、俺のスマホにそんなメッセージが届いた。

 あの女め、三人のグループにその報告をしてくるなんて、性格の悪い。これでは俺も祝福せざるおえないではないか。


〈おめでとう、メアさん〉


 俺は歯を食いしばりながら、そのメッセージをスマホに打ち込み、送り付ける。




 あの女、絶対に許さない。

 俺はあの女を見返すため、大学が始まるまでの春休みをゲーム配信に捧げると心の決めた。





-----------------





 この後二人は、お互いに負けたくない一心で必死になってゲームの練習をした。

 二人のモチベーションは凄まじく、めきめきと上達し、プロゲーマー顔負けの実力を手に入れるに至った。


 そして、二人は、暇さえあれば二人でランクマッチに潜った。

 自分と相手のランク差をつけるためには、自分だけキルを稼ぎ、相手にはキルをさせないのが一番だ。つまり、相手のキルをすべて奪ってしまえばいい。お互いにそう判断した結果だった。

 こうして二人は、大会までの二週間を、相手の立ち回りの粗探しをしつつ、互いのキルを奪い合って過ごした。


 その結果、二人の息はピッタリになった。


 そして、大会当日。このゲームのプロチームも参加している中で、エーテル、メア、エースの三人のチームは、快進撃を続けた。

 そして、二位以下に大差をつけて、うっかり優勝してしまい、この三人の名前はネットの世界に轟くことになった。


 特に、どんな状況でも息の合った連携を見せたエーテルとメアの二人は、ベストコンビとして、大量のファンを獲得した。


 この大会が終わったら、二度と関わらないつもりだった二人だったが、ファンの期待を裏切ることはできず、大会が終わった後も、たびたびコラボをすることになってしまった。


 



 ちなみに、二人はうっかり同じ大学に進学しており、そんな二人の関係は、お互いが素直になるまで途切れることは無かったという。

 


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



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