Ep,1 日常と絶望
Ep,1 日常と絶望
俺、神林康介は、普通の大学生だ。いや、普通だった。無機質なアパートの一室、薄暗い部屋で、朝から晩までパソコンの画面に向かっている。外の世界と繋がるのは、せいぜいSNSと、たまに見るテレビくらいだ。食事だってコンビニで済ませることが多かった。生きるために働いて、ただそれだけの繰り返し。
目を開けた瞬間、部屋の天井が見える。朝だ。いつものように布団の中で二度寝を決め込もうと思ったが、何となく気分がすぐれない。今日は寝坊したくない気分だった。だから、重い体を引きずって、布団から出る。
「はぁ、今日もまたか…」
目をこすりながら、ぼんやりと窓を見つめる。いつも通り、薄暗い部屋の中に差し込むわずかな光だけが、俺を迎えてくれる。窓を開けると、外から冷たい風が流れ込む。
「寒っ…なんだこの季節外れの寒さ」
ため息をつきながら、カーテンを引く。部屋の中には、何もない。冷蔵庫は空っぽで、テーブルには何も置かれていない。まるで、誰かに全部奪われたかのように。
「朝ごはん、どうしようかな…」
思考を巡らせながらも、結局、何も思いつかずに服を着替え始める。鏡の前に立って顔を拭くと、目の下にクマがあるのがわかる。寝不足だ。寝る時間も、起きる時間も、自由に決められない生活。自分が少しずつ、壊れていくのがわかる。
「…いや、今日はバイトだ。バイト行かないとな」
心の中で自分に言い聞かせる。足早に靴を履いて、玄関を出ると、外はまだ薄暗く、冷たい風が肌を刺す。周りには人も少なく、いつもの風景だ。自分がその中に埋もれていくような感覚。
「お、もう少しで駅だな。早く行かなきゃ」
頭の中で時計を確認し、早足で駅に向かう。途中、歩道を歩く人々を眺めるが、誰もが急いでいるように見える。あまりにも空虚な感じがするが、何もできるわけじゃない。
駅に到着して、改札を通り抜けると、すぐにバイト先に向かうための電車を待つ。周囲に目を向けると、携帯を見ながら立っている人や、ボーッと外を眺めている人が多い。
「このまま、なんてことない日々が続いていくんだろうな」
俺はその時、ふと思う。何となく、もう一歩踏み出しても、変わらないんじゃないかという不安が心をよぎった。いつも通りの一日が続くだけ。それが恐ろしいことだと感じる自分がいた。
「また、コンビニでのバイトか…」
ため息をつきながら、電車に乗り込む。車内は混雑していて、誰もがそれぞれの思いを抱えていることだろう。俺もその中の一人だということが、なんだか虚しく感じる。
「何もかも、どうでもよくなってきた」
その思いが、急に胸に湧き上がる。だが、それを口に出すことはない。ただ黙って、次の駅に向かって電車は走り続ける。
「はぁ…もう、こんな毎日、続けたくない」
電車が揺れるたびに、心の中で呟く。何も変わらない日々。何も手に入らない空虚さ。俺は今、そんな中に埋もれている。
バイト先に到着すると、いつもの店員が迎えてくれる。
「おはようございます、康介さん」
「お、おはよう…」
普段通り、事務的な挨拶を交わし、バイトが始まる。だが、心の中では何も感じていなかった。どこか無機質な自分が、目の前に広がっているような気がした。
「康介さん、少し元気ないですね?」
バイト仲間の女の子が心配そうに言ってくる。無理に笑顔を作って答えるが、その笑顔さえも自分でもよくわからなかった。
「大丈夫だよ、ちょっと疲れてるだけさ」
そう言って、自分に言い聞かせるように返す。それでも、心の中では何かが崩れていく感覚が広がっていた。
その日の仕事が終わり、俺はいつものようにアパートに帰る。自分がどれほど疲れきっているのか、どれほど心が空っぽなのか、誰にも言わないままだった。
部屋に帰り、ドアを開けると、いつものように冷たい空気が部屋を包み込んだ。中に入ると、いつもの無機質な部屋が目の前に広がる。テレビも、パソコンも、何もかもが俺に無関心で、ただ存在しているだけだ。
「もう…何もかも、どうでもよくなった」
ベッドに倒れこみ、天井を見つめながら呟く。そのまま無理に目を閉じるが、どうしても眠れなかった。次々と浮かんでは消える考えが、頭の中で渦を巻いていく。
「俺って、何なんだろうな」
自分に問いかけるが、答えは返ってこない。人として、何かを成し遂げたのか? 何のために生きているのか? 何も思い出せない。
「もう、こんな空っぽな生活なんて、続けたくない…」
強く、強く思う。その感情が、心の中で膨れ上がり、抑えきれなくなってきた。自分が無意味な存在であることに、耐えられなくなった。
無理にでも寝ようと目を閉じるが、思考が止まらない。心が叫んでいる。何かが壊れそうだ。その時、俺は一つの決断を下す。
「もういい、全部終わらせる」
心の中で呟き、ついに立ち上がる。台所に歩み寄り、薬を取り出す。いつもならこんな行動を取ることすらなかったが、今はもうその決意が固まっていた。もう、何もかもが嫌だ。薬を手に取った瞬間、それがすべての答えだと感じた。
「これで、全て終わるんだ」
心の中で、そう呟きながら薬を開け、一粒一粒口に入れる。だが、その瞬間、体の中に違和感が走った。まるで、何かが始まる予感がした。自分の体が重く、そして、どこか遠くから引き寄せられていくような感覚が広がっていく。
その時、目の前に突如として強い光が差し込んだ。眩しすぎて目を閉じようとしたが、まるでその光が俺を包み込むように感じた。目を開けると、部屋の中に見知らぬ人物が立っていた。
「お前、神林康介だな?」
その人物は、どこか不思議な存在だった。人の形をしているように見えたが、全体がほのかに輝いている。まるで、現実のものではないような感じだ。彼の目は穏やかで、どこか優しさが漂っていた。
「お前は、誰だ…?」
俺は震えながらその人物に問いかける。声がうまく出ない。自分が今、何を見ているのか理解できなかった。
「私は神だ。お前の選択を見守っていた。」
その言葉に、俺は一瞬、耳を疑った。神だ?そんなものが本当にいるのか?だが、今ここにいる人物の存在は確かに異次元的なものだった。普通の人間ではない。
「お前が命を絶とうとしていることは知っている。だが、お前にはまだ可能性がある。転生のチャンスを与える。これが、お前に与えられた最後の選択だ。」
その言葉に、俺は一瞬、心が揺れ動くのを感じた。転生?そんなこと、あり得るわけがない。だが、その人物の言葉には、何か強い説得力があった。
「…転生?どういうことだ?」
「お前が今、選ぼうとしている道は終わりだ。しかし、転生すれば、もう一度人生をやり直すチャンスが与えられる。ただし、お前が転生を選ばなければ、このまま終わることになる。」
その瞬間、俺の頭の中で混乱が生じた。死を選ぼうとしていた自分が、今、別の道を選ぶことができるのか?でも、どうして転生なんてことが可能なのだろうか?
「…俺に転生の選択肢を与えるって?」
「そうだ。だが、お前が転生を選べば、もう一度やり直すことができる。ただし、もう一度今のような絶望的な状況を繰り返すこともある。だが、お前の選択によって、その後の運命は変わる。」
その言葉が俺の心に響いた。転生すれば、新たなチャンスが与えられる。もう一度やり直すことができるなら、もしかしたら今より良い未来が待っているのかもしれない。だが、それにはリスクもあることを理解していた。
「転生…」
その言葉を口にした瞬間、目の前の人物が穏やかに微笑んだ。そして、光が再び強くなり、俺はその光に包まれていった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。この物語は神林康介の絶望と成長、そして彼が選ぶ未来を描くことを目指しています。最初はどこにでもいる普通の人物であったカインが、どのようにして変わり、どんな選択をしていくのか。これからの展開で、彼の成長や心の変化を描いていけたらと思っています。次回もどうぞお楽しみに。物語はまだ始まったばかりです。




