8 アレン、やばいことになりました。
数時間後、夜が明けた。
この時間にはおそらく寝ているものや集中力が欠けているものが多いだろう。
その時、1匹のミニアレンから報告があった。
『アレン、僕のところから見える木が少し揺れたよー』
「そうか、誰かいるのか?」
『わからないけど木の揺れが近づいてきてる』
なるほど。そういうことか。
これは他の受験者ならわからなかったことだろう。
「姿はもちろん見えないよな?」
『うん!』
ミニアレンたちにそう確認すると案の定Yesの返事が返ってきた。
明らかに誰かいるのに姿が見えない。俺の同化スキルと同じだな。
もし同化スキルを使っているのであれば空気の流れを少し変えると一発で見破れる。なぜなら同化スキルはその時の自然の空気の流れに沿ってその空気に色を付けているからだ。
「感覚共有で魔法を使うぞ」
『りょーかいっ』
俺は風魔法で少し人工的に空気を揺らした。
「ダメか……」
どうやら同化スキルではなかったらしい。空気の流れが少し変わったのに気づいたのか、少し歩みを止めてまたこっちに向かってきた。
相当強いな、こいつは。今の空気の流れは微々たるものだ。それを察知して慎重になるということは相当のてだれだ。
これが試験ではなかったら魔法をぶち込んで仕留めていたが、ギルドの冒険者が来ているので怪我を負わすわけにはいかない。
とりあえず別の方法を試してみるか。
例えば、気候だな。
カメレオンは温度や湿度などの気候条件によって色が変化する。もちろん機嫌などの理由もあるが、今回は襲撃者役なので機嫌はおそらくないだろう。
そう思って魔法を出そうとしたのだが……。
俺に気候魔法なんてないぞ……。
『アレンー、二つ以上の魔法を組み合わせて作ればー?』
「そんなことできるのか?」
『うん!』
「嘘だったらあのうんち食べとけよー」
『えー!やだー!』
とまあ冗談はこのくらいで、俺は組み合わせればいけそうな魔法を探した。
「風と火を組み合わせれば出来そうだな……」
俺はこうして気候魔法を作り出した。
といっても全て俺の脳内で出来上がったものだが。
「みんな集まってくれ」
『ここ離れていいのー?』
「ああ、その代わりテントの周りをぐるりと囲んでくれ」
『わかったー』
冒険者の方向に向けてミニアレンたちを集めたらすぐに自分が気づかれていると気づかれてしまうのでこうして気づいていないふりをした。
「いくぞ……気候魔法発動!」
そう言って俺は気候魔法をミニアレンたちに感覚共有をして発動した。
これは気温と湿度を少し変化させる魔法だ。カメレオンの原理であればこれによって色が若干歪むはずだ。
そして色が歪んだところに魔法で拘束すれば良いということだ。
「そろそろだな……」
気候魔法は波動のように中心を基準にどんどん広がっていく。
その時、一部のところに色の歪みがあった。
「よし!今だ!」
俺は植物魔法で地面からつるを出してその冒険者を拘束した。
「動くな」
そう言いながら拘束されている冒険者に近づいていき、手から火を出した。
「降参だよ。さてはここら辺にいることに気づいていたね?」
そう言いながら現れたのは金髪ロングの美女だった。
細身で力はなさそうだが圧倒的強者のオーラを出している。
「ああ。それを悟られないようにこっちも工夫したんだがな」
「それも見事だったよ。……それより、拘束を解除してもらえないかい?」
「ああ、悪い」
そう言って俺は魔法を解除した。
俺は色んな魔法を習得しすぎて何を持っているのか把握できていない。
解除された女性は俺に話しかける。
「自己紹介が遅れたわね。私はシモンよ。……だけど、あなた強いわね。これは結構な問題ね」
「ん?どういうことだ?」
「私が今この状況に陥っているってこと。私を捕まえることは一応試験内容に入っているけど本当は護衛の厳しさを伝えるためだったの。最近は護衛の依頼が多く入っているからそれに対応できる冒険者がこっちは欲しいのよ」
なるほど……。
「つまり無理してシモンを捕まえなくてもよかったわけか?」
「そういうことね」
まぁでもこれで新しい魔法を手に入れれたわけだしメリットはあったな。
「私はギルドの中でもスパイ行動におけるトップをいつも張っていたのにこんなところで捕まえられるなんてね」
そんなすごい人だったのか。どうりであまり見つけられないと思ったわけだ。
「このことはギルドに報告するよ。そうなれば君は大変なことになるだろうね」
そう言ってシモンは少し笑った。
なんか面倒くさそうだな。特待制度だけ合格できればそれで良いのだが……。
「それじゃあ私はこれで」
そう言ってシモンは森の中へと去って行った。
さすがギルドのトップ。暗闇なのに行動一つ一つが的確だ。
その後数時間にわたってミニアレンたちと共にテントの護衛をしたのだった。だが、誰かが近づいてくる様子はなかった。
「試験終了!全員テントを片付けて俺のところへ集まってくれ!」
その時、グレンさんの声が森の中に響いた。
その声を聞いてミニアレンたちを合体と同化させてグレンさんの元に向かった。
集まった時に他の受験者の顔が死者よりも酷いものになっていた。
兵士をやっていたよりも楽だったので助かった。
「では試験の結果を発表する。スワンは……辞退とみなすので発表はしない」
あいつそのまま帰ったのか。メンタル強いな。
そしてグレンさんは手に持っている紙を少し自分の顔へ近づけた。
「合格者を発表する。今回の合格者は10人中3人だ」
そんなに少ないのか。周りを少し見渡すと驚きを隠せないものが多くいた。
「では……1人目、アリス!」
「やったぁ!」
アリスという赤髪の少女が飛び跳ねて喜んだ。彼女は火魔法を得意としていて魔力量もかなり多かった記憶がある。
「2人目、ナギ!」
「よし!」
ナギという小柄な男子が呼ばれた。彼はかなり知的という雰囲気だ。
「そして最後……アレン!」
そう言ってグレンさんは紙を見て固まっている。
どうしたのだろうか。まさか俺が不正をしたとかいうデマが……?
「これは……本当だよな」
そう言ってグレンさんは頭を抱えてため息をついた。
「お前は何回やらかしたら気が済むんだ……」
「どうかしたのか?」
「まぁいいか。アレンを特待制度を受けるものとする!また、特級魔術師、上級剣士の資格を授与する!」
「「「はぁ!?」」」
グレンさんの言葉を聞いて受験者全員が驚きを隠せない状況だった。
特級と上級か……。かなり上みたいだがそんなにすごいものなのか?心当たりはある。シモンを気候魔法で見つけたことだろう。
そんなことを考えているとグレンさんが俺に質問をしてきた。
「アレン、お前よく平静としていられるな……。特級と上級だぞ?このギルドの中でも特級は0人、上級は1人しか持っていないレアな資格だ」
……がちか。
そんなすごい資格だとは知らなかった。
まだ最初だから薬草採取から始めようと思っていたのだが、パーティの勧誘とかなったら面倒だな。
「ちなみに、特級はこの制度ができて以来初めてだ。まさかこんな変なやつが特級とはな……」
そう言ってグレンさんは頭を抱えた。他の受験者は開いた口が閉じなかった。
……やばいことになった。ただ俺は普通に冒険者になればよかったのに。
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