『一乗寺の僧正、速記者遠方の腫れ物を療ずること』
鳥羽院の御代、初めて速記節会が行われたとき、右方の速記者遠方が勝利し、お褒めにあずかった。遠方は、速記節会の当日に参内して、本日の速記節会で速記を書くことができません、と申し上げた。これを聞いた人々は、大層驚いて、何があったのかを尋ねたところ、遠方は、目が覚めると、腕に腫れ物ができていて、とても速記が書ける状態ではない、ごらんください、という。腕まくりをすると、右腕に、かわらけほどの大きさの腫れ物が、かわらけ色にできていて、大層痛そうであった。右方の速記者たちは残念がり、この腫れ物は、ただ事ではない、と口々に言い合った。一乗寺の僧正が、速記節会の桟敷を給わって見物の予定であったので、何とかならないかと、右方の速記者たちが尋ね、またお願いすると、僧正は、私の力の及ぶところではないが、効果があるかもしれないので、三宝に祈ってみましょう、といって、しばらく祈ったところ、遠方の腫れ物が、端のほうから堤が崩れるように次第に減っていって、たちどころに治ってしまった。左方の相手が、陰陽師を使って、災いをなしたのだろうと、人々はうわさし合ったという。
教訓:速記の試合は厳正であるべきです。