8.夏の一年後
「私、今回も良い働きをしたんじゃないかな」
数十日ぶりの城への帰還である。空は既に夕闇だ。
この世界に来て約一年後、私は、別枠ながら騎士団に所属し魔獣狩りを主として生活している。
あの、適度に緩いだらりん学生生活とは大違いだ。いや、多少はダラダラしてたかもしれない。
まぁ、常識の範囲内である。
「ナツ様。討伐から戻られたのですね。丁度良かった。これを貴方に」
「お疲れ様です。あ、なんか見覚えがあるような」
インテリ男、いや、グレードさんから手渡されたそれは、私の掌に収まるくらいの物だ。中央には真紅の石がまるで何かのスイッチの様に配置されているソレを、私は以前にも手にした事がある。
「貴方が、来た時まで時間も戻れます」
「あの時、材料が手に入らず1人しか転移できないと聞いた気がしますが」
クーデターも頻繁に起きていたガルレインでは、採掘出来ないから空には戻る術は、というか彼らはそんな手間を踏む事など考えていなかったようだと、アルフォンの密偵から教えられた。
「北の山岳地帯に一箇所あることがわかったのです」
実は、城にずっと滞在するのも気がひけてきた頃、ほぼ家に帰らないからと、この目の前にいるグレードさんから陛下に提案があったらしく、私はグレードさんの屋敷に住み着いている。
「まさか、ついこの前に長期間いない時がありましたよね?」
無言なのが、もう答えているようなものである。
軽く言っているけど、詰め込んだ知識では、まだ手付かずな場所も多く、また大型の魔獣が生息していると学んだ。
「王様の右腕な人が何やってんですか?」
許可するトップもオカシイ。
ああ、とにかく報告の為に城によっただけで、とりあえず泥や色々なモノを落としたい。
ポイッ
「返します」
去り際に、そのブツを彼に軽く投げた。
予期してなかったのか、ギリギリセーフで掴んだエリート魔術師様の慌て方が、ちょっと可愛いな。
「何故です?」
何故って言われても。
「あの時の貴方は、帰りたいという目をしていた。いいえ、今もです」
そんな悲壮な顔をされても困る。
「大量虐殺をした私は、この国では英雄だけど、ただの人殺しだから」
もう、私は以前の私じゃない。
「あ、里帰りみたいに、たまに帰れるなら親や友達に安否は伝えたいかなぁ。開発してくれます?」
「……は?」
凄い。彼が本当に驚いている姿を見るのは初めてかも。
「だから、里帰りを可能にしてもらえたらたまに帰るかも」
うん、羽を伸ばすってやつよ。
「……貴方は、あの異世界人を愛しているのではないのですか?」
「空の事?」
そうだね。
「好きだったよ。とても」