5.よ、久しぶり
「此方を。中央の石を押して下さい」
「ありがとうございます」
グレードさんは、感じは悪いが仕事は出来ると知っているので欲しい日に欲しい物を手渡してくれた。
「さて、行くかなぁ」
今日は、待ちに待った対決の日である。いや、待ってはいない。なんとなく、そう言ってみたかっただけ。
「緊張、されないんですね」
インテリがポツリと呟いた声を拾った。
「そう見えるなら、そうなんですかね?」
場合にもよるが、今回は緊張しても何もメリットはない。
「まぁ、なるようになるでしょうって感じですかね」
もう行っていいかなと圧をかければ、なにやらインテリが距離を詰めてきたので、ほんのちょびっと身構える。
「ご武運を」
そう口にしながら、私の頭上に手をかざした。
一瞬、淡く青い光が見えたけれど、なにぶん頭の上に目はないのでわからない。
「有り難うございます?」
とりあえずお礼は言うべきなのかと思いながらだったので語尾に違和感があったかもしれないが、仕方がないだろう。
「お願い致します」
言葉も衝撃だが、インテリの微笑みを見てしまった事の方が驚いた。なんだ、人間っぽいじゃん。
「まぁ、頑張ります」
捻りのない返答になってしまえば、今度はニヤリと口の端を上げ去っていった。
「ねぇ、マイン君。あの人、なんか身体に悪い物でも食べたんじゃないの?」
「ナツ様、なかなかの言動ですから止めて下さい」
ピシャリと叱られた。何故に?
✻~✻~✻
「うーん、この前より早く着いたな。こんな感じだったかな」
初めて此方に来た時の場所での対戦になった。今は、あの時の様に倒れている人も馬もいない。
何もなかったかのように乾いた土と離れた場所には草も生えている。
「平和そうに見えるのにな」
ドロッドロよね。
「来ましたよ」
この茶色の砂埃は、つい昨日のような感覚に襲われる。
ただ、あの時は違う。
「少し、離れていて」
「無事に戻って来て下さい」
「勿論」
マイン君がいつもより優しいというか心配度が凄い。
国の存続がかかっているんだから、当たり前か。
「向こうのトップは悪くないと聞いていたけど、下々がなってないのかな」
対戦の際、ギャラリーは数名という条件をだしたのだが、あちらさんのが人数が多いのは、明らかなルール違反である。
「見た目でだけでの判断はと言うものの、戦った時も悪そうなの結構いたんだよね」
トップが舵をとれていないというのは本当だろう。
「やっとお出ましか」
そんな事をぼんやり思っていると、一列に並んだ集団の中から明らかに毛色が違う男が進み出てきた。
細マッチョとは違う、骨格からして太い。力では明らかに向こうが上だな。速さはどうかしら。
「よっ、久しぶり」
声に出さず、口だけを動かし片手をひらりと振れば、少し呆れたような顔をされた。
まぁ、背も随分と伸び小綺麗になって見違えたわ。
これで壊滅的だったトーク力が身についていたら、女の子を選びたい放題だろうな。
「な」
「さっそく始めようか」
私の名を呼ぼうとした空の声を遮り、剣の柄に手をかけた。
「そうだ、その前に質問いい? 空は、今日までに何人の命を消してきた?」
知りたいな。