3.まさかね
「護衛として付きます。マイン・マルマーです」
「ロゼット・ミルと申します。お困りな事がございましたら、なんなりとお申し付け下さい」
小綺麗な部屋に案内されて、人が良さそうな若い騎士としっかりした感じの女性から挨拶を受けた。
「私は夏です。呼び捨てで構いません。早速だけど、敵対している国に召喚されたという異世界人について詳しく知りたいのですが。分かる方はいますか?」
一番詳しいのは、参謀のインテリ男だろうけど。明らかに私とは合わないタイプに見えたので、できるならば会話は避けたい。
「失礼ながら、ナツ様はあまり興味を持たれていないように見えたのですが」
あの謁見の際にも同じ部屋にいて話を聞いていたと言うマイン君は、不思議そうに聞いてきた。
「確かに、さっきは全く興味がなかったんですが、説明しようがないというか」
急に気になりだしたのだ。ちなみに、こういう感覚は以前もあった。
回数を重ねる毎に嫌でも学習していったので逆らわない、というか被害が拡大しないようにする為に見逃さないようにしている。
「我々は、出来る限りナツ様の意向に沿うようにと言われておりますので、情報を集めてきますのでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
おや、インテリはともかくトップはマトモなのか?
「ナツ様。マインが戻るまで、お茶でも如何でしょうか?」
ロゼットと言う名の私より若い子に提案され、喉がカラカラだったと気づいた。
「頂けますか?」
にっこりと微笑む彼女を見て、信用しても良さそうな人物かなと思った。
❇~❇~❇
「お待たせ致しました」
マイン君が戻ったのは二杯目の紅茶に口をつけた時だ。息を切らしてはいない。けれど、疲労感が漂っている。
「大丈夫ですか?」
「はい。いえ……実を言うとグレード様がちょっと苦手で。あ、ナツ様が謁見の時に話をされていたグレード・レグノ様です。頭のキレる方で素晴らしいのですが俺はなんか」
分かるよ。厭味ったらしい口調を思い出しただけでムカムカしてくるもん。
「それは頭が正常な証ですよ」
インテリメガネの彼は、意図して相手を苛立たせているのだろう。理由まではわからないけれどね。
「それで?」
「あ、異世界人ですよね。まず名がトミナガ ソラ 歳は20で」
「待って。そらって言った?」
「はい」
私の知っているあいつだろうか? 名前と年齢は同じ。でも、もっとちゃんと知りたい。
「顔だけですが、姿を映した物があります」
そう言うと彼は、おもむろに自分の腕に付けている銀色の太めのバングルに触れて壁に向けた。
「ガルレインにいる者が送って来た画像です」
壁に立体的な映像が映りだされたのも驚いたが、そこに映っている、顔見知りの人物に釘付けになった。
動く男に目を凝らす。うん、間違いないな。
幼稚園から高校の途中まで一緒だった、冨長 空だ。
「陛下に提案したい事が出来ました。話をさせてもらえます?」
えって感じのマイン君に話を続ける。
「ガルレインにいる異世界人と私が戦い、勝ったほうの国が2つの国の王になるというのはどうでしょうと聞いてみてもらえますか?」
ポカンとしているのはマイン君だけではなく、ロゼットちゃんもだ。
「戦に勝ちたいから私を喚んだんでしょう? 損害も少なく済むし悪くないと思うのですが」
自国の騎士達を減らすことなく解決できちゃうのよ。お得じゃないかな。
「まぁ、私が勝てばだけどね」
そこ、君達にとっては重要よね。
私は、どうでもいいけど。