2月5日
映画館で流れを把握し、起床、メールチェック。
小屋へ行き、ミーシャから小鉢を受け取った。
「納得頂けるお味にしたいそうです」
「そうか、もう少しタレを煮詰めて、トロトロにと言っておいてくれ」
「はい」
「鳩と山芋は有るか?」
「はい、お手伝いしましょうか」
「いや、コレ位は大丈夫だ。上っててくれ」
「はい」
嫁も好きなスープ。
コレは同じ味を作れるだろう、レシピもしっかり有るしな。
港街を攻略した報告を、ネイハム先生へ。
《大団円とは呼べない、リアル、でしょうかね》
「まぁ、そうね」
「ハッピーエンドで終わると思ってたんですけどね、そうですよね、現実なら大勢が苦しむ事になるんでしょうし」
《後味が悪いと言うか、アンニュイ、リアル。ですね》
「ですね、朝ごはんにしましょ?」
そしてタケちゃんからのメールで、少しタレを煮詰めて。
ミーシャから受け取った、タケちゃん製の鳩と山芋のスープを頂く。
「美味い、コレはレシピバッチリなのよね」
『これすき』
「ベジタリアンにはならないのね」
『食べ物になったら、いのちは平等』
「君も食べ物平等派なのね」
『うん』
それから里へ。
桜木さんと里へ行き、術を教えて頂いた後、休憩する事に。
「ワシ毒耐性欲しかったなぁ」
《もう少し出会いが先だったらか、ココで生まれたらか》
「ぅう、アレは?奥歯に毒を仕込む的なの」
《アレはそもそも手品の応用で、何処からか毒を取り出して口に放り込み、それを嚙み砕く。だが、自殺用と言うより仮死状態用、その他にも嘔吐剤は敵にも使えるから良く仕込んだものだよ》
「ほう、ほうほう、もっと教えておくれよ」
《しょうがない、少しだけだよ》
自生する草花にも毒は有るので、食べてはいけないモノの味見をする事に。
カヤノヒメ様から様々な草花を籠で頂き、試す事に。
「ピリピリ、苦い、はダメね」
《まぁ味だけ凄いのも有るが、腹が下る》
「センブリか」
《そうそう、意外に無力化出来るんで重宝してたモノだよ》
「アレは、匂いを嗅いだらヤバいのってチョウセンアサガオ系だけ?」
《香りに毒性は無いが、カロライナジャスミンかねぇ、蜜を吸ったら子供は危ない》
『ゲルセミウム・エレガンス』
《あぁ、最強の猛毒だ。どちらも黄色い小花が特徴だが、ゲルセミウムはココらには自生していないから大丈夫だろう》
「トリカブトの成分の致死量が約5ミリ、ゲルセミウムは0.05ミリだそうです」
「わぉ、クソヤバいじゃない」
《薬が小さい程、隠すのも容易になる分、管理は厳重だ》
『じかせい以外は研究所かんり』
「じゃないと怖いわ、つか自家製って」
『この国には無いから大丈夫』
「あぁ、怖いわ」
《後はコレ、夾竹桃だな、燃えると特に危険だからと植え付けは消防にも届け出が必要なんだ》
「へー、エミールは知ってる?」
「はい、狩りの際に教えられたそうです」
「あー、そうかそうか、基礎を知るべきよね」
《基礎と言ったら時間が掛って仕方無いだろう、興味が有るモノから徐々に覚えたら良いさ》
「うぃ」
桜木さんは知識のアンバランスさを気にしているけれど、ネイハムさん達は勿論、僕も問題は無いと思う。
それこそ永住するのだから、今は桜木さんが欲する知識を優先的に入れていくべきだ、と。
自分が信じてたモノの矛盾や弱点を指摘され、私は何も言えなくなってしまった。
ソレを信じる事は良いとされてたし、皆が信じていたし。
《今アナタが抱える自己矛盾や軋轢を解消する為、認知の偏りと言う状態が起きます。一般化と言う心理作用については先日学びましたが、どの様な事でしょうか》
皆、絶対。
その言葉を使わない様にって。
だけど。
『二分割思考、全か無かだけは良くないって分かってはいますけど』
《思考のクセが付いてしまっているのは仕方無いですが、容易く洗脳されてしまいますので》
まるで私が全否定されてるみたいで。
『私が』
《感情で評価を左右させたり、過度な一般化で自分が全否定された様な感覚に陥る人が居るそうですが、それは錯覚で勘違いですから。もしそんな方に出会ったら、一部の間違いを指摘されているに過ぎないんだと、助言してあげて下さい》
私って、全然ダメだ。
『はい』
《それからレッテル貼り、少し失敗しただけで全てがダメだと思い込むのも、それこそ良くない事なので、そう思っていそうなら、同じく一部の間違いを指摘されているに過ぎないんだと、助言してあげて下さい》
『はい』
思考のクセ付けに関して、他人がしている場合を想定した言い方をし、実際には本人へと助言すると言った手口を使ってみたんですが。
もう思考の放棄を始め、言葉を鵜呑みにしようとしてしまい。
《今日はもう止めましょう》
『はい』
こう切り上げる事についても、ホッとした表情を浮かべ、何かを思う素振りも無い。
《どうして、もう切り上げる事になったのか、考えましたか?》
『え、いえ』
今、考え始め。
《それで、どう考えたんでしょうか》
正解はどれか、と言う思考に捕らわれ、自分がどの様なボディーランゲージをしたのかすら全く気付かない。
『すみません、分かりません』
《レッテル貼りについて感想が無かったので、レポート提出に変更します、良いですね》
『はい』
暖簾や糠の手触りの様に、まるで手応えが無い。
コレを潜入させるのは、少し難しいでしょうね。




