1月29日
光の当たり方、か。
今日は通信衛星が稼働、ハナは相変わらず涎が酷い。
昨日の今日で流石に呑気にとは行かないか、しかもまた歯軋りを。
「ハナ、起きろ」
「ぅん…おっす」
「おう、顔洗ってこい」
「うぃー」
そしてハナは本来と同じく、リズに連絡を取り始めた。
本当に、まるでプログラミングされた様に同じ道筋を辿る。
「リズか?」
「うん、大丈夫そう」
「桜木さん、寝直しますか?」
「いや、このまま起きる」
そうして暖炉の前でボーッとする、コレも前と同じ。
昨夜も前回と同じく魔王を双子達の元へ送り出していた、本当にコレで何かが進み良くなるんだろうか。
「桜木さん?何か問題でも?」
「いや。予測が足りないのか、計画的じゃ無いからか、両方か、予定が詰まったりガラガラだったりが良くあるので、それを解消したいなと」
「昨日は突発的な用件が立て続けに起こりましたし、予測は難しいかと」
「うーん…昔からなので、なんとかならんかと」
「それは…寝起きに難しい事はどうかと、先ずはゴハンにしませんか?それともお風呂に行かれます?」
「食事でお願いします」
魔力の増減が激しかった事、精神的に疲弊していた事、体を弄った事が重なったせいか12時間以上眠ってしまっていた。
だからなのか、あまり食欲が無いんだが。
「ハナ、鹹豆漿をニガリで作ってみたんだ、どうだ?」
「凄い食べ易い、実質飲み物やん」
タケちゃん、料理まで出来てさ。
「どうした」
「いや、凄いなと思って」
「ハナもコレ位は簡単だろうに、謙遜するな」
「いやぁ、人に食べさせられるのはそんなに」
「なら何でも良いから作ってくれ、じゃないと中華粥はやらんぞ」
「えー、タケちゃん料理の本場の人やん」
「それはそれ、これはこれだ。家庭の味が良い、色々食って舌にも経験させたい」
「手抜きのしか作らんぞ」
「おう」
喫茶店のバタートースト、お醤油おにぎり、塩辛キャベツ。
作っている間に胃が活性化したのか、グルグルと鳴り出してしまった。
「よし、一緒に食うか」
『おはようございます、何か良い匂いがするんですけど?』
エミールが起きて来てしまった、しかもそのまま試食会に。
タケちゃんは塩辛も平気なのかパクパク食べている、そして何でかショナと賢人君まで。
「なんで食ってんのよ」
「へへ、美味そうだなって思って」
「好みの味を覚え様かと、ダメでしたか?」
「いや、覚える程でも無いかと、適当だし」
「俺は目分量がまだ出来無いんでな、その適当が羨ましいぞ」
「そうですよ、初心者には難しいんですから」
「他のも何か食いたいっすよねー」
「もっと種類を作るには材料が必要だろう、何か買って来るぞ?」
「いや、行くなら自分で行くよ」
『ハナ、魔素が足りて無い』
「スクナさん」
『体が自動修復を始めた、最初だから消費が激しい』
「リジェネレーターやんけ、マジかよ」
『マジ、沢山食べないとだよ』
「よし、買い物に行くかな。ショナ君もどうだ」
「出来たら桜木さんの前髪を切ってから行きたいんですが」
「凄い伸びちゃってますもんねー」
「ん、そうだな。コレでは目が悪くなりそうだ」
「ふぇい」
エミールは賢人と朝食を継続。
ハナ達が外へ出て髪を切っているのを眺めていると、妖精達がオモチャでも見付けたかの様に切られた髪の毛を追い掛け、遊び始めた。
ハナはタオルを顔に掛けたまま、見なければ価値にも気付けないか。
「ハナ、妖精達が遊んでいるぞ」
「なにで」
「タオルを退けて見てみろ」
「わお、そんな遊び道具に飢えてんのかい」
「桜木さん、一応髪にも魔力が有ると言われてますので」
「「なら爪にもか」」
「声が揃って、本当に兄妹みたいですね」
「そうだろうショナ君」
「で、爪にも魔力が有るのかね」
『うん、伏儀が特に詳しい』
《もっと詳しく言うならば、汗や体液にもだ。お前さんのは特に魔力が豊富だ、カラスで言う光り物に等しいね》
『うん、多分膜の性質も関わる』
《そうだね、端材にさえ魔素が含まれているんだよ》
《あったかくて》
『おいしいの』
「美味しいんかい」
「それでもだ、ちゃんと自分達でも食事を摂るんだぞ」
《『あーい』》
「はい、終わりました」
「ありがとう」
「ふむ、どうしても痩せていってしまう様だな」
「太かったし、丁度良いかと」
「だがその割に首には皺が無いな」
「そう?」
「それで余計に魔素が修復に回ったんでしょうか」
『うん、皮膚も体に合わせてる』
《まだ若くして皺々では物悲しいから、きっと蛇の加護だろうね》
「成程な」
「ありがとうございます」
ショナ君は、ハナの無乳に気付かない。
見ようとしなければ見えない、人間とは本当に便利で不便な生き物だな。
そしてそのままハナは入浴へ。
衝立の向こうで買い物の相談。
「桜木さん、海老関係以外に好きな料理とか有りますか?」
「ファッティーなら大概は好きかと」
「成程な、パスタはどうだ?」
「殆ど好き、特にたらこパスタとかカルボナーラとか、ボンゴレも好き」
「米類はどうだ?」
「ピラフかなぁ。お子様ランチに乗ってそうなのは大概、好きだが。お子様ランチ分かる?」
「おう、子供用の旗付きメニューだろう」
「そうそう、あの欲張りセット感が特に良い」
「成程な。多少健康に気を付けて、自分で作るならどうする」
「ハンバーグはピーマンの肉詰めとか、フライドポテトは厚切りか、ポテトサラダにするかなぁ」
「ほう」
「たらこパスタかボンゴレ、玉子はミニオムライスかキッシュで使うし。唐揚げがなぁ、白身フライで代用で、米類が迷うわ」
「海南チキンライスはどうだ」
「あー、和洋折衷も好き、ガパオライスでも良いねぇ」
「なら丸鶏だな、よし、行くか」
「はい」
この場はミーシャに任せ買い出しへ。
俺なりのお子様ランチと、ハナのお子様ランチの具材を買い漁る。
『ドリアードが気付いた様だな』
「口止めさせてくれよ」
『あぁ、勿論だ』
うん、やはりクエビコ神だな。
《もう!何でもすっぱりといくでない、爪も髪も…折角美しいと言うのに》
「邪魔やし」
『お前の常套句だが。平和になれば、伸ばすのだろう』
「努力はします」
《よし!先ずは飲めー!しこたま飲むのじゃー!》
がぶ飲みしまくり、温泉を出たり入ったり、休憩に小屋に戻ると良い匂い。
「おう、俺なりのお子様ランチ制作中だ」
カオマンガイと海南チキンライスのコンボに、麺類は汁無し坦々麺。
サラダの代わりに空芯菜炒め、芋は里芋の素揚げ、玉子料理はトマトと玉子炒めが小皿に、そして清蒸魚。
「この魚、くっそ旨いんじゃが」
「コレはショナ君だ」
「レシピを調べただけですよ」
「ほー難しい?」
「いや、簡単だぞ」
確かに簡単だった、ザッと言うとネギと生姜蒸し、なのだが。
こんなに旨くいくかね。
「だけでコレですかぁ」
「松鼠桂魚も有るぞ、コレはちょっと手間が掛かるな」
魚に切り目を入れて、油を掛け身を立たせた料理。
本来な甘酢あんらしいが、好みが分かれるだろうからと今回はポン酢醤油。
「美味いけど手間がヤバいなぁ」
「油通しは良くやるんでな、油鍋をこのままだ」
「まるごとストレージにね、なるほど」
「どうだ?」
「良いんだけども」
汁気が多い物はワンプレートには不向きだと。
「確かにな」
「それに中華は大皿の方が楽しいし、アレだ、もっとアジア圏を広げよう」
カオマンガイと海南チキンライスはそのままに、少し米を多くし揚げ焼き玉子を乗せて、小脇には空芯菜炒め。
麺類は上海炒麺、生春巻き、海老餃子や焼売の蒸し物3種。
「成程な」
「個人の好みなんでこうなったが、あぁ、トムヤムクン食いてぇかも」
「酸味はお嫌いでは?」
「美味い店のは大丈夫だった、でもちょっとで良いのよ、小鉢程度で。鹹豆漿も、ちょっとなら全然イケる」
「成程な」
「レモングラスは無しですよね」
ショナ君に調べて貰った結果、候補が沢山上がって来た。
そしてハナはチャーチュンが気になったらしいので、再度買い物へ。
「ふむ、大変だなお子様ランチは」
「まして大人のですからね」
ショナ君がテイクアウトの予約をしてくれていたので、受け取る為だけに店を梯子。
合間に生春巻きや上海炒麺等の食材を買い揃え、浮島へ。
トムヤムクンは俺も好きだが、パクチーやレモングラス無しだと俺には少し物足り無い。
そして梯子したお陰で、ハナの口に合う店は見付かった、更には玉子料理がチャーチュンに置き換わり、お子様ランチが完成。
「完璧やわ」
「だな」
「武光さんには少し物足り無いですよね、別添えですが、どうぞ」
「カメムシ草、好きかぁ」
「おう」
すっかり食欲は戻った様で、散々味見したにも関わらずハナは完食した。
「ご馳走様でした。すまんねタケちゃん、大量のトムヤムクンを押し付けて」
「いや、少し試したい事が有るんでな」
店には悪いがスープを鍋に一纏めにし、ナンプラーとココナッツミルクを少し。
うん、美味い。
「なんつー事を」
「美味いぞ、ほれ」
「あー、でしょうよー」
その鍋の中身も半分にし、次にエミールを起こし試食会。
味が合うのかコチラも完食した、そして話題はハナのお子様ランチへ。
『食べてみたいです』
「いや、プロに任せようよ」
「いや、家庭料理が味わいたいんだ、メイメイのな」
『はい、ジェージェのご飯が食べたいです』
「ジェージェでも良いが、エミールなら姑娘か美女だろうか」
「ならクーニャンで、メイニュはハードル高いわ」
『クーニャンのご飯が食べたいです』
「エミールって意外と強情なのね」
そして今度はハナが料理をする事に、ただ種類が多いので今回は分担方式。
揚げ係は俺、調理にはショナ君、下拵えはや味付けはハナ、賢人は釜や鍋、ミーシャは洗い物。
そうして出来上がったのは、白身フライに海老フライ、キノコグラタンとミートソースパスタ。
ベーコンとホウレン草のキッシュにエビピラフ、ミニホットドッグ、そして一口サイズに葉物に包まれたポテトサラダ。
「ポテトサラダの憎らしさよ、こう言うきめ細やかさが俺には足りないんだ」
「小技に大袈裟、あんだけ作れればもう充分でしょうよ」
『いただきまーす』
「先ずはポテトサラダっすよねー」
そうして桜木さんのお子様ランチが出来上がると、全員での試食会となった。
「何か、炭水化物セットよねコレ」
「良いと思うがな、ガリガリになられては可哀想で堪らなくなる」
「お国柄?」
「それも有るが、俺の好みでも有る。大体だな、昨今の折れそうな手足は」
「次はキッシュっすよー」
「小枝だとタケちゃんならワンパンやもんな」
「俺は子女には手を上げ、試合以外は上げん」
「じゃないと軽蔑するわ」
『美味しいですね』
「皆で作ったからねぇ」
「でだ、あの細い」
「ウエストは細いに限るだろう」
「それはメイメイの好みだろうに」
『次はグラタンをお願いします』
「熱々では無いっすけど熱いっすよ、はいあーん」
「ワシの好みは勿論だけどもだ」
「腰回りに肉は有るべきだ」
「浮き輪とか言われるねんぞ」
「身を守れて良いだろう」
「本当に、古いとか言われない?」
「まぁ、古いとは言われるが。実際にこう、抱き心地がだな」
「次はパスタっすかねぇ」
『うん、お願いします』
「ほらぁ、好みじゃんかー」
桜木さんは本当に無限に食べれるんじゃ無いかと思う程、良く食べる。
そして武光さんも、僕ら従者と分け合ってるとは言え、スルスルと食べていく。
エミール君も。
最後に、甘味は各店舗のマンゴープリンとタピオカココナッツミルク。
『プニプニしてて美味しいですね』
「ほら、ぷにぷには美味しいんだ」
「また話を戻す」
「ぷにぷには女の子の特権っすよねー」
「僕に、ふりますか」
「可哀想ですよ、どう見てもウブなのに」
「そう言うなミーシャ、人には事情がだな」
《そうじゃのぅ、お主が言うかーじゃ》
「これドリアード」
「良いんです桜木様、別に恥ずかしい事では無いので。寧ろ」
《我もじゃよ?》
「はぁ、開き直りですか」
《真実じゃしぃ》
「桜木さん、足りなければエッグタルトも有りますよ」
「さっきの流れで食うのはなぁ」
『食べれる事を誇って自慢して良い、容量が大きい者が必ず沢山食べれるワケじゃない。それで不足し不調をきたす者も居る、だから温泉や泉の療養所がある。魔力消費は人それぞれ、吸収もそれぞれだ』
《じゃの、魔法の申し子じゃ。誇れ、能力を伸ばすのじゃ》
《そうだねぇ》
「お、完食っすね」
『ご馳走様でした、美味しかったです』
「エミールは何でも食べて偉いねぇ」
『本当に美味しかったですよ?』
「ありがとうねぇ」
ハナは誰に何を言われてもこう。
軽くあしらうか、茶化すか、お世辞と受け取るか。
誰かに好意を伝えられた日には、どうなるんだか。
あぁ、飛んで逃げるか。
そう考えているとエミールは日光浴に、そして俺らは料理再開となり、魔法の話へ。
「治療魔法の練習台か、でもなぁ」
『大昔は死刑囚を練習台にした時期もあったが、今はな。憤怒が許さんだろう』
《ひぇ…あやつは嫌じゃぁ》
「かと言ってなぁ、タケちゃんは直ぐに腕をふっ飛ばすし」
「良い練習にはなるだろう、すまんが見慣れてくれ」
「でも、戦闘するとは限らんのでしょうよ」
「だろうが、災害に怪我は付き物だろう」
「痛そうなのよ、どうしても」
「俺は楽しいから大丈夫だ、心配するな」
「マゾが過ぎる」
「おう、そう思えそう思え」
《なんなら、魔王相手にすれば良かろう?》
「ダメ、向こうだってパパだし可哀想。双子に怒ら、ドリアードはたまに過激な事を言うよな。魔王を無闇に傷付けちゃダメぞ」
《ちぇっ》
「桜木様は貴女と違ってお優しいんです、くそビッチ淫乱ドリアード」
「うわ、ミーシャも中々ね」
《ふん、なら生意気エルフの耳や目でも治してやれば良いじゃろぅ》
「内部は怖い、失敗したらヤバいやんけ」
『僕は皮膚が主、ハナの練習には少ししか加われないけど』
《私か、だが過度な介入にはならんだろうかね》
「別に私はこのままで良いです、酔う理由が運命の中にも有ると思っているので」
「そう?ごめんね?」
「もっと困ったらお願いします、なので暫くは他の練習でお願いします」
「おうよ」
「ならだ、皮膚表面の練習はどうだ?」
『なら大丈夫だと思う』
《そうだねぇ》
「ショナ、古傷無い?」
「え、あ、肩と腰に有りますけど」
「そうか、なら治させて貰っても良か?」
「僕は良いですけど」
「無難な練習させてくれ」
『小さいのを1つだけだ、他は回復してから』
《うんうん、無理は禁物だよ》
スクナ神と伏犠神指導の下、ショナ君の肩の小さな傷を治す事となった。
本来とは順序は違うが、逆にコレで良いのかも知れん。
「あの、少しチリチリするんですけど…」
『大丈夫、もう終わる』
「おぉ」
「お、瘡蓋?」
『うん、代謝して押し出された古い皮膚だ。温泉で掛け湯してくると良い』
「俺も行くかな」
「では少しだけ、失礼します」
「おうさ」
小屋から出ると、丁度キノコを置きに来ていたキノコ神と目が有った。
難儀な奴だ。
「助かる、丁度切れた所でな」
《別に、あんさん達の為だけや無いんやからね!》
言い切るなり走りながら消えていったが。
こう、なんだろうか。
「向こうの世界に、ツンデレと言う概念が有ると聞きましたが」
「あぁ、有るらしいが。普通なら女が言うらしい」
「あぁ、だから違和感が有るんですね」
「だな。ハナ!キノコが来たぞ」
「お、ありがたいー」
「調理なら後で手伝う、ゆっくりしてろ」
「おうよー」
それからやっと俺らも入浴。
こう考えると、ハナに合う湯の性質も変わっているのだし、ショナ君には気付ける部分が沢山有るんだがな。
タケちゃんが温泉から帰って来たので料理続行。
キノコパスタにキノコグラタン、ピザにお鍋にお醤油煮。
籠いっぱいのキノコの山は、あっという間に消えてしまった。
「誰かは分からないけど、お礼をしないとね、籠にドリアとパスタを置いておこうかな」
《じゃのう、誰かも喜ぶかも知れん》
「じゃあ他にも、お裾分けしに行こうか」
「ただいま帰りました」
「魔王、どしたん」
「追い返されました」
「あら、向こうで聞いても良いかね、出来立てを渡したいので」
ヴァルヘイムへ向かい、ハナがエイルへ貢物を進呈。
そして改めて聞いても、本当にしっかりした子供達だ。
不幸は除いて、ウチの子もこうなって欲しいものだな。
「俺は居て欲しいがな、寝ずの見張りは長期戦に役立つ」
『そうですね、まだ僕は見えてもいませんし』
「魔王に同情するつもりはありませんが、僕も似たような状況ですし。どうお役に立てるか、ずっと探してます」
「ショナは料理と見張りと前髪と連絡係とか、色々あるじゃない」
「桜木様が全快して本気出せば、それ殆どが出来ちゃうじゃ無いっすか。お洗濯は自分でしちゃうし、お料理も普通に出来るし」
「そら洗濯は恥ずかしいし」
「それもですよ、料理も出来て移動もストレージも、私は一緒に居て良いんでしょうか……大勢に嫌われてるのも重々承知してますし、このままでは負担になるんじゃ無いかと」
「じゃあ人になろうよ、人になったら、のイメージ全然聞いて無いよ?」
ココから皆の独白、そしてハナは。
「ドリアード、聞き出して無い?」
《……痛い事しない、怒鳴らない、怒らない人、眠らせてくれる人、ゴハンくれる人、嫌な夢を見たら抱きしめてくれる人。魔王がパパで良かった、寒くない暑くない綺麗なおうち、好きって言ったら何回も同じゴハン出してくれる、オヤツもくれる、絵本のパンケーキ作ってくれた。いい匂いのフカフカのお布団なのに、ねれなかったら怒らなかった、撫でてくれた》
「ギブ、ギブアップ、ドリアード。ショナ、すまんが、通訳したげて」
「はい」
ショナ君の説明の最中も、ハナは自分の事を言うか迷っているらしかった。
《まぁ、不満は無い、今既に充分に満たされておるんじゃと》
「不満は無く、今既に満たされてるそうです」
「そうなんですね、良かったぁ」
「ハナ、話すのに迷っているのか?」
「ワシの話、良い話がほぼ無いのよ」
「魔王、反面教師は分かるか?」
「はい。悪い面を知って、良い方向へ生かす」
「だな、そう言う話を悪い話とは言わないだろう」
「知らなくても良い事は有ると思う」
「はなちゃん、私ですよ?」
「だけじゃ無くてだ、エミールも居るし」
『親戚の叔父さんはDVで逮捕されました。僕には優しかったから最初は信じられなかったんですけど、震える奥さんの手が、嘘じゃないって思わされて、凄く大人が怖かったです』
「暴力は無いのよ、性的なのも何にも」
「暴言や喧嘩を見せるのもDVだったろう、向こうですら」
「ココもそうですよ、桜木さん」
『僕は大丈夫ですけど、ハナさんが嫌なら無理しないで下さいね』
「ワシが生まれるまで平和だったと聞いた、家族全員から別々の言葉で聞かされた。前は良かった、母さんは仕事を犠牲にしたんだ。そう言ってる本人達はフォローのつもり、そも兄姉は家も出てたから不仲が信じられなかったらしい。父親は仕事と浮気、母親は過保護で父親に依存。暴言だって、化け物とかデブとか、ある意味事実を言われただけ」
「国柄も有るだろうが、乳児はムチムチな方が安心する、それは多少育った子供でもだ。向こうで良く流れてただろう、飢餓状態の子供の映像を」
「お腹がポッコリで、手足には骨の形が出てて。でも例が極端よ、タケちゃん」
「ハナのクソ親父を擁護する気は無いが、弱くちっぽけで自信も無い、その癖プライドが高く努力する気も無い人間なら、制御し易い人間じゃ無いと側にすら居られないんだろう。保護対象者が細く弱い方が、守っている感覚や自負を得易いだろうからな」
「ワシの父親見て来た?」
「そう言った類の人間は少なく無い、気が弱い、自信の無い男がか弱そうな女に靡くのを見てきた。所詮は最初からそんな人間だったんだろう、ハナが生まれ仮面が剥がれ、その八つ当たりとしての暴言か、差し当たっては自己紹介だったのかも知れんしな」
『それと、状況を肯定するなら、神話的には正しいのよねぇ』
《じゃの、ゼウス然り、オイディプスにファーフォニウス。逸材は大抵クソ親から生まれ、親から疎まれるものじゃよ》
《泥中の蓮、涅すれども緇まず、麻に連るる蓬。だねぇ》
『厳しい状況でこそ、ハナは良く育った可能性も有る』
「えー、知識を総動員させてフォローしてくれるのは嬉しいんだが、良い環境に生まれ育ちたかった」
『そうよねぇ、だからいっぱい良い子良い子して上げるわね』
《武光、私も混ぜなさい》
「エイル、女媧神も加わりたいそうだが」
『あら、是非是非、いらっしゃいませ』
《うん、邪魔するわね》
「そんなフォローしてくれなくても別に」
「桜木さん、カウンセラーと改めて話しませんか?」
「別に良いけども、話し逸れ過ぎじゃね?」
そして話しは元に戻り、エミールの診察に。
ホタルの光の様に、淡い光りだけが室内で点滅している。
こうして積み上げられた魔法の美しさや凄さが、ハナに蓄積されていくんだな。
『ん、問題無し。3日は強い灯り、明るい太陽の下でのお昼寝禁止、空間移動も泉だけ、明日までかな。今日はこのベール着用ね、人界に行くなら人間用の目を保護するものを使って、詳細は従者に伝えるから。目は治ってるけど慣れるまで無理しないで、少しでも異常を感じたら言うんだよ?』
『はい!』
「エミール、これ何本」
『3本』
「これは」
『こら、早く動かさせるのも1日禁止』
「はい、ごめんなさい。夜空は良い?」
『勿論、リハビリに最適。先ずは遮光部屋を案内させて』
『はい!ありがとうございます』
館内部さえ暗くなり、エミールが眩しく感じない光度になっている。
人間の病院でも、こうなのだろうか。
「おめでとうエミール」
『ありがとうございますハナさん、本当に、似た身長なんですね』
「もっと小さいイメージだった?」
『逆です、もっと大きい感じがしてました』
「確かに、もう少しふくよかだった」
『違うわよ、オーラ的な話よ。実際のオーラじゃなくてイメージね、懐の深さとか』
「んな、超狭量ぞ。シェリーにすらイラっとしたし」
『それそれ、2人の初陣が見れなくて残念だったわー、フギンとムニンの実況だけだったんだもの』
『少し聞こえた折れる音は、ちょっと怖かったです』
「すまんな。大人には本気を出さなければいけない時が有るんだ、許せ」
『またまたぁ、本気ですら無かったじゃない』
「いや、遊びでは無かったぞ」
『はいはい。で、ココが遮光部屋。躓かない様にベッドは撤去してあるの』
「人をダメにするクッションが」
『長い名前のクッションですね?』
『従者と相談して、転生者が開発したクッションを取り寄せたの!寝心地最高よ!枕も数種類あるから好きなのを使って』
「はー、ココに引きこもりたいぃ」
『エミールが良いなら良いんじゃ無い?』
『ご一緒します?』
「一生出たくなくなるので止めときます」
『それは残念、トイレはコッチの引き戸の先ね。じゃあ、他の皆にもお披露目に行きましょ』
外へと向かい、賢人や魔王にお披露目。
エイルは褒められ、上機嫌に鼻歌を歌いながら何処かへ。
そしてエミールの髪をショナ君が切り、エミールの顔が披露され、クーロン流星が
流れる。
(あんなに色々されたら、普通は惚れちゃうっすよねぇ)
「まぁ、若いからそうかも知れんが、年がマズいだろう」
「そこは大丈夫っすよ、一般でも16になれば特例が発動出来るんで」
「あぁ、そうなのか」
「あ、情報送っておくっすよ」
「頼む」
コレは、前には知れなかった事。
エミールには悪いが俺の願いはショナ君とハナが相思相愛になる事だ。
「寝ちゃいましたね」
「よし。じゃあ、エミールは俺が運んでおこう」
「俺も行きまーす」
「ありがとう、後でクーロンを向かわせるよ」
「おう」
ココからが問題だ。
もう自分の体で練習する事は無いだろうが、念には念をだ。
『爆睡なの』
「そうっすねぇ、可愛いっすねぇ」
様子を見に行くか迷っていると、ハナが部屋に来た。
そうしてビーズクッションを堪能し、今日はもうアヴァロンへ帰ると。
嘘は無し。
安心したせいか、眠気が酷い。




