1月30日
ハナがドリームランドへ、コレが上手く行けば、移動もストレージも得られる筈。
不安と同時に安心感も有る、何故なら既にある程度は魔道具が揃っているし、蜜仍も居る。
後は無事に起きてくれるのを待つだけ。
「あ、おはようございます武光さん、蜜仍君が」
「あぁ、ドリームランドに行ったのかも知れんな、ハナの様子はどうだ?」
「ミーシャさんからは何も、コレから見に行こうかと」
「そうか」
『おはよー、サクラちゃんに会いたいって、あれ?何か有った?』
良い方向へ転がってくれてる様には思えるが、だ。
桜木様に特に異変は無かった、そして神獣にも。
《寝てるだけかと思った》
『夢見てるだけかと思った』
「いつも通りと言う事か?」
『《うん》』
《けど、深い眠りの奥底だから、あまり刺激しない方が良いね》
「点滴を、いや、先ずは死天使、麻痺を頼む」
【はい】
いつからだったのか、私も神獣も、どうして気付けなかったんだろう。
本も読まないで、資料を読む程度で、出来るだけずっと見てたのに。
「そう気を落とすな、神々レベルの異変と言う事なのだろう」
《寧ろ異変じゃない、コレが多分この子の正常だから、大丈夫。モルペウスも居るし、僕も付き添うよ》
「はい、宜しくお願いします」
私に夢見の適性は無い、だから初めて誰かを羨ましいと思った。
マーリンや他の子が羨ましいと思った。
今の私は無力。
「ミーシャさん、また夜は来ますから、お休みになって下さい」
「寝ている時は私の担当、徹夜は出来ます、もう少しだけ居させて下さい」
「分かった、だが寝落ちしても咎めないから、眠くなったら寝るんだぞ」
「はい」
桜木様の体を、貞操をお守りする為にも私は居る。
こんな状態なら心配は無いと普通なら思うだろうけれど、ココには人間も神様も精霊も居る、だから私は寝ないで見守る。
適性が無いから、出来る事はそれだけだから。
桜木さんの意識レベルの確認後、ネイハム先生や五十六先生、そしてリズさんと国連のルイ大使も招いての合同会議となった。
「課題が山積しているワケだけども、先ずはどれからかな」
「ルーマニア入りは落ち着くまで先延ばしで良いだろう」
《そうですね、向こうで無防備になられては困りますから》
「クトゥルフの情報だが、本当に殆ど無いんだな、アクトゥリアン」
【本当に私は無関係ですからね?】
「僕は少し期待していたんだけど、そうか、無関係なのかぁ」
【宇宙カテゴリーのみ同類縁者です、でもそうなると他にも宇宙関連の方はいらっしゃいますし】
「それに関しては最終手段だと思っている、過剰防衛は相手側にプレッシャーを掛ける事になるだろう」
「そうだねぇ、もし本当に対地球なら、相手方に負荷を掛けたら追い詰める事になるからねぇ」
「力の獲得も延期、後は獅子身中の虫か」
『報告をさせて頂いても宜しいでしょうか?』
「おう、頼む」
武光さんの検索履歴及び獲得した能力に対し、例の自治区が反応を始めたそうで、情報収集を行っているらしい。
そして怠惰さんの検索履歴から、転生者隠匿について再度調べているらしい、とも。
「あの、失礼ですが、その情報は何処から」
『一応内務調査部は有るのですが、それが機能するのは調査員以外からの告発。なので既に資料はある程度、揃っていました』
「あぁ、けどどうして皆は見て見ぬふりや、手をこまねいたんだろうねぇ」
『今回は召喚者様方に信頼を得て貰う為にも、独自に調査させて頂く、と言う名目で内調と接触させて頂きました。内調と接触する事自体に名目が無ければ、内調と自分の立場を危うくしてしまうのと、名目に出来る程の大きな動きが無かったので。はい』
「転生者が生まれる程度では、動きにはならんと言う事か」
『はい。若しくは、転生者様から実態調査を求められれば、ですね』
「ほう」
「悪かったな、自分の体の事で手一杯だった」
「いや、それは僕らもだよ。君の事を知った時点で柏木君や省庁が内務調査の申請をして、正常かどうかを確認すべきだった。もっと言うと他の誰でも良い、桜木君が来た時点で申請すべきだったんだ」
《慣れ、慢心、傲り高ぶらなければ、誰かが申請の提案をすれば、情報は得られた》
「だろうけど、ムカつくな、勝手に信頼してた自分にも、国連にも」
「それ、向こうの作戦だったなら仕方無いと思うんだよね。それこそ100年以上は潜伏し続けてたんだ、少しずつ根を伸ばし、少しずつ弱い毒を流し込み続けてたんだ、慣れたんじゃない、慣らされたんだと思うよ」
『はい、実際にも害となる動きとは思われてはいなかったので。コチラも1部しか印刷されて無い物ですが、どうぞ』
「良いんだか悪いんだか、コピー内容すらデータ収集されちゃうからね、向こうに悟られ無い為とは言えどだ」
『ですが今回は量が量なので、分担するには丁度良いかと』
「あぁ、膨大だ、悔しかったろうねぇ」
内務調査部が独自に告発したとなれば、情報源を明かす規約が盛り込まれていた、そうすれば情報源も危うくなるし、家族にまで危険が及ぶ。
けれど外部からの申請さえ有れば、それらは守られる、その申請者が得た情報と混ぜてしまえば情報源を隠す事が可能な仕組みになっていた。
国連での仕事も考えた事も有ったけれど、内務調査部に配属されていたら、きっと僕も賢人君の様に悩んだだろう。
そして、大きく何かが動くまではと、苦悩したと思う。
「大変だったでしょうね」
「あぁ!それだよ君、武光君、ココに僕を捻じ込んでおくれよ」
《あぁ、カウンセラーとして入り込む気ですか》
「勿論、あぁ、国連に入れるかも知れないと思うとワクワクするねぇ。あ、どれだけ情報を得られるかは別だけれど、協力者の絞り込みや、より良い選別は可能だと思うよ」
「分かった、だが」
「そう、コレを持って行く事になる。天使さんと共に、ワンさんとね」
「疑似花子でか」
「そうそう、桜木君でも良いのだけれど、目覚めてからの里での修練も有るだろうし。エミール君だと神獣も覚醒していないし、武器への慣れが必要だろうからね」
《今日にでも殴り込みに行く様な口振りですけど》
「勿論、善は急げと言うだろう?」
そうして15時になってもハナが起きず、少し早いが国連へと向かう事に。
サイラと純潔の指輪をしたショナ君、五十六先生にガブリエルと共に、俺が女性体として国連へと向かう事になってしまったのだが。
クトゥルフを得られるだけで、こうも違うのか?
いや、それ自体の挙動と言うよりは、それに付随する其々の変化。
一事が万事と言う事なのだろう。
クトゥルフを得る事から派生し、コレだけの変化が有るとなれば、もしかしたらショナ君とハナも。
いや、コレにはまだ気が早いな、まだまだ先は長いんだ。
「よし、行くか」
新しい道筋は緊張するな。
武光さんと言うか若汐さんは、かなり緊張していたのか施設内を回っただけで眩暈を起こし、休憩する事に。
「バイタルチェックしますね」
「すまん、母親の遺伝だろうな、良く眩暈を起こしてたんだ」
《少し宜しいですか、ラファエルが治療をと》
「あぁ、頼む、吐きそうだ」
天使除けが解除され、天使の方々が自由に出入りが可能になったけれど、ガブリエルさん以外は僕らにしか見えてはいないらしい。
未だに終末論者が居るんだそうで、公には常に1人だけが見える状態を維持しているんだそうだ。
けれど、コレも向こうの作戦なのかも知れないと思うと、どれだけ神々を侮っているのだろうと考えてしまう。
そして制御さえ出来れば、自分達の都合の良い様に動かせると、侮っている事にも憤りを。
ならきっと内務調査部は責められるだろうと思っているのかも知れない、なら僕は寄り添う側になるべきだろう。
「何か出しましょうか」
「いや、良くなった。すまない、大丈夫だ」
《大丈夫ですよ、ゆっくり回ってもらいましょう》
「あぁ、そうか、そうだな」
病弱だとの情報に符合している行動のお陰で、怪しまれる事も無く、ゆっくりと内部を見学する事が可能になった。
ハナさんが眠ったままなので、僕は魔道具を揃えた後、練習をする事に。
【狙撃にはスポッターっていらっしゃるんですよね、補佐させて頂きますね!】
『はい、宜しくお願いします』
先ずはクレー射撃から、徐々に、少しずつ。
早くハナさんを守れる様に、けど確実に。
前回はおじさんと遊園地に行って、動物園に逃げたけど、そこでバラバラになって。
悪夢を見て、マーリンに助けて貰って。
そして今回は多分マーリンぽい誰かに手を引かれ、森を歩いて、おじさんの居る場所へ行った。
《多分、ですか》
「霧で上半身が見えないのもそうだけど、認識出来無かったって感じ」
それからはもうバッサバッサ暴れ回って、蝋燭に魔力を吸い上げる練習をして、精霊と鍵を得て。
また練習にと少し探検をして、その途中でマーリンが迎えに来て、前にも行った塔で少し話し合って、帰って来た。
《鍵ですか》
「お、出た」
《蝋燭もどうぞ》
《この光は》
「ソラちゃんと魔力込めた蝋燭。それと、程々に力をって言ったから大丈夫よ」
《はい、程々にと仰られていました》
《もうそれ程迄には心配はしていないのですが》
「念の為よ、念の為」
《それで、もう探索が終わる気配は?》
「まだ、もう少しって」
「お待たせしました桜木様ー!」
「おう、風呂行ってくるで、後は任せた」
「はい!」
鎖骨下の点滴をテーピングして貰い、お風呂へ。
相当消費したらしく、もう垢がボロボロ出る。
あぁ、垢すり行きてぇ。
《ほれほれ、長湯はイカンと言われていたろうに》
「はいはい、垢すりって言ったら、何処やろ」
【はいはいはーい!トルコのハマムはどうです?ケバブもありますよ?】
「あぁ、天才か」
【はい!】
うん、タケちゃんに相談だな。
ハナが目覚めたとは聞いたが、まだコチラでは半分も工程が済んでいない。
ココはまだ11時半過ぎ、しかも周りは敵だらけ。
《それで、トルコへと行こうかどうかと》
少し声の調子を変えている、コレは俺らだけへの音声用に調節された声色。
そして俺は頷くと、天使が向こうへと伝えたのか、向かうそうですとだけ返事を返して来た。
「長くなりそうだが、どうする」
「僕は大丈夫です、続けましょう」
そうして俺らはココの見極めを続ける事に。
タケちゃんには申し訳無いが、魔素の回復をしに、賢人君とトルコへ。
回復には楽しい事が1番だと言われているので、ハマムとケバブの為、致し方なく。
「宜しくお願いしますね」
大使館員のマキさんには元が女性だとは伝わっていて、先ずは男女共同のハマムへ。
そうして同性同様の案内をして貰って、ケバブを食べ歩く。
うん、コレだけでも満足。
本当は魔石で回復したいのだけれど、魔石回復用の泉やエリクサー、結界を作るからと。
保留にされたので、仕方無く。
「気掛かりっすか?」
「そらね」
「でも体が資本ですよ?」
こうして定期的に言い聞かせて貰い、神様用のお土産以外にも買われ。
日本時間の24時前に、帰る事に。
「ありがとうございました」
「まだまだご案内出来る場所は有りますから、また来て下さいね」
「うい、じゃあ、また」
「はい」
うん、男なら惚れてたな。




