1月29日
寝る直前にショナ君からの伝言で、忍び、土蜘蛛族の情報要請をし。
寝てから映画館で事情を確認し、起きると許可が得られていた。
にしても、どうしたって距離が縮まないんだな、ハナとショナ君は。
「おはよう、許可が出たぞ」
「マジか」
「おはようございます、もう見れる状態ですか?」
「ワクワクやんけ」
ワクワクしソワソワするショナ君は珍しいな、撮っておくか。
「ちょ」
「珍しいなと思ってな」
「後で共有しといて。ほいでほいで」
ショナ君から甘酸っぱい話と等価交換にしようと思ったが、彼の場合は早く自覚させても良い事は無いので、そのまま情報開示へ。
「ほれ」
「な、詳しくは省庁へ、って、何で柏木さんなの?」
「行きましょう」
どれだけ気になっていたんだ、ショナ君。
どんだけ気になってたんすか、ショナさん。
「どんだけ」
「君は気にならないんですか?従者の始祖かも知れないって、都市伝説が真実か確認出来るかも知れないんですよ?」
「いや、アマゾネスさん達が始祖だって派なんで別に。寧ろアレっすよ、単なる職業だっただけで、足軽に切り替わって、飛脚に流れた派なんで」
「じゃあ忍法はどうなるって言うんですか?」
「魔術と魔法が有るじゃないっすか、つか魔女っ子とか信じてたタイプなんすか?」
「魔女っ子こそ職業では」
「あぁ、桜木様だったら、どっち派なのかなぁ」
「多分、全部で両方では」
「じゃあ、そゆ事で」
「そうしておきましょう」
マジで全部居る派かもなぁ。
コッチは夢が見れないなと悩んでいるのに、魔女っ子って。
「現に居るワケだし」
「ソッチじゃないんすよ、こう、変身するアレ」
「あぁ、アレね、君ら何の話をしてんのよ」
「忍法についてです」
「つか元を辿ると従者の始祖について、っすね」
「いや仕事しろよ」
「しながら喋ってたんすよ」
「備品の交換や補充の確認でしたから」
「残念、ワシはタケちゃんなので、未だに聞けずだ」
「結構掛かってるって、マジ機密事項っぽい」
「あ、他の連絡事項も話し合っ」
「おう、待たせたな」
「あ、それ懐かしい気がする」
「桜木様マジで20代っすよね?」
「伯母よ伯母」
そんで女タケちゃんに連れられ、エミールとクーロン以外の全員で、炭焼き小屋へ。
「頼もう!」
タケちゃん女のフリする気が無い、シャオヘイに乗ったままって、勇ましいにも程が有る。
本来なら2月2日に来る筈だった場所。
今回はド派手に炭焼き小屋のを呼び出してみたが、シャオヘイのお陰かクエビコ神のお陰か、直ぐに長が来てくれて助かった。
《おいおいおい、もし間違いだったらどうする気なんだい、召喚者様》
「それも間違いだったらどうしたんだ」
《はぁ、コッチだよ召喚者様》
そうして藪を進み、里へ。
ココで得られる事は多い、今回は無事に来れて良かったが、以降にどれだけ影響するのか。
もう滅茶苦茶不安がってるじゃん、俺としては順調だねって励ましてるのにさ。
『だからこそ、だろう』
『そう、危機的状況を生きる為に、パニック発作、予期不安が正常に作動してるだけ。タケミツにとっては凄く、何度も傷付いたんだもの、先を恐れて当然よ』
『意外と普通に弱いんだなぁ』
それからは殆ど前々回位と同じ、おタケが竹林で戦って負かす。
けど今回はショナ君と相談してから、ちゃんと持ち上げるのも忘れないのは偉い。
それからそのまま能力の見極めだけを行って、蜜仍の為に省庁へ戻って。
微妙に違う展開に戸惑って。
本来の立場が召喚者なだけ、普通の男なんだよな、おタケ。
だから面白さも有るよね、うん、クトゥルみが増してて俺は好き。
それと、この悪夢も好き。
現実と悪夢が上手く混ざり合ってて、凄く好き。
省庁の小部屋で、武光君とご自分の神獣にまみれていた桜木花子が昼寝から目覚めると、真っ青になりながらトイレへ。
《様子を見て来ても良いですかね》
「はい、お願いします」
顔を洗う音、嘔吐音は無し。
そして個室に入り、また水を流し。
そのまま動く気配が無い。
《ネイハムですが、大丈夫ですか》
「あぁ、はい、ダメですね」
乱暴に顔を拭いたのか、鼻先を少し赤くさせながらトイレから顔を覗かせ、首元を指差した。
《先程までは無かった筈ですが》
「夢で、絞められた」
嘘は無い。
なら。
《クトゥルフですか》
「いや、昔ながらの悪夢。マーリンが助けてくれたけど、おじさんが同伴者を呼べって」
《おじさん、とは》
「何か、昔から知ってる感じの夢の人」
《どちらでお伺いするのが宜しいでしょうか》
「あぁ、そうね、浮島にしようかな」
蜜仍君、賢人君と武光君を置いて、神獣と共に魔王の移動魔法で浮島へ。
一服を終え、私達の元へ戻って来てから、何処までが実際に起きた事なのかが分からない様な、何度も繰り返される悪夢のご説明を頂いた。
《少し、提案なのですが、日の光も大事ですし、浮島を国内に移動してみては?》
「あぁ、うん、鬱には日光ね」
知識は十二分に有ると言うのに、私は焦り過ぎていた。
こう追い詰めたのは、私の疑念が影響してしまったかも知れない。
《焦り過ぎていました、こう対話をすれば知識も有ると分かったのにも関わらず、過去の悲惨な出来事に君を重ねてしまいました。謝罪します、すみませんでした》
「いや、実は似非メンヘラかもよ」
《寛解宣言はなされてはいないでしょうけれど、既に乗り越えた後。またこの様な状態になり、少し特徴的な不安定さが出ただけだと思いますよ》
「そう見せてるだけかも知れない」
《ならそれでも結構ですよ、そう繕う事すら難しくなるのは、もう既にご存知でしょうし》
「けど自分じゃ気付かないかもだから、注意を払ってあげて下さい、適当に」
《はい、適時適量、諫言させて頂きます》
「ほいで、感想は?」
「僕ですか?」
「おう、変な悪夢見て大変そうやねーとか」
「クトゥルフのせいなのかな、と」
「いや、昔とほぼ変わらん、マーリンとおじさんが居るかどうか」
《それで、同行者をとの事ですが》
「あぁ」
『少し良いか、土蜘蛛の長が話をしたいらしい』
「ほう、鏡通信ね、はいはい」
【ウチのを連れてってみてくれないか、アレは里の中でも上位の夢見なんでな】
「筒抜けー、まぁ良いけど、他に適当そうなの居る?」
《ふむ、候補はわんさか居るが。ほうほう、マーリンがその者で良い、じゃと》
《マーリンのお墨付きと言うよりは、例のおじさんのお墨付きでしょうか》
《ふむ、逃げられたんじゃが、まぁ、そうなのじゃろうな》
《アナタでも行けない場所に居るんですね》
《内緒じゃよー》
「あの、桜木さん、首を治した方が」
《そうですね、ゆっくり温泉にでも入ってみてはどうでしょう》
「誰か、ミーシャ行こう」
「はい」
そうして浮島で待っていたミーシャを連れ立って、温泉へ。
《いつもお1人で入浴なさってる筈でしたよね》
「あ、はい、気を使うので、と」
《ホラー的な恐怖も混ざっているんでしょうね、その悪夢には》
《らしいの、恐怖が混ざりあっておるでな、1人は心細かったらしい》
「先生、悪夢を見る方法は無いんでしょうか?」
《と言いますと》
「僕は見た記憶が殆ど無いので、どうしたら少しでも理解出来るかな、と」
《見た事が無いのも珍しい方ですけど》
「桜木さんがあんな風に怖がる程の悪夢は、見た事が無いなと」
《あぁ、アレは過去の記憶も再現されている可能性が有るので、それだけ別の怖さが有るんだと思いますよ》
「実際の出来事なんですか?」
《少し苦悩も表に出ていたので、マーリンは気付いてらっしゃるかと》
《どうじゃろな、問い掛けても返事は来ぬで》
《まぁ、ご本人に聞いてみる事にしましょう》
桜木さんの湯上り後、先生が話を始めると、少し驚いた様子の後に、悪夢よりも更に酷い内容を聞く事になった。
「あぁ、夢だって言われ続けてたのよ、兄と姉に」
《守ろうとしたのかも知れませんけど、悪手でしたね、否定する事になりますから。お祖母様はどう言ってらっしゃったんですか?》
「あぁ、いや、大変だったね、もう大丈夫って」
僕は初めて、本当に弱っている桜木さんを見た気がした。
顔を抑えて俯いて、泣くのを我慢している様な肩の息遣い。
《泣くなと育てられましたか》
「父親に、泣くのは被害者ぶる行為で、周りに迷惑だから止めろ、と」
「それも暴言だと思うんですけど」
《そうですね、お幾つの時ですか》
「あの暴言の後、母親が帰って来て、察して、説明してる時」
「それも暴言ですからね?子供が暴言を吐かれて泣くのは、寧ろ正しい状態ですからね?」
「もうワシ大人やで」
《その母親は、何故、外出していたんですか?》
「偶々、父親の頼まれ物を買いに出てた」
《他人が同じ事を話していたら、敢えて狙って言ったのでは、後半の言葉は逆ギレだ。とは思いませんか?》
「なら、後半のに関しては確かにそう言うわ」
《被虐待児に多いんですよ、親を庇う習性》
「それ双子は?」
《魔王が居るのですっかり魔王を庇ってますし、昔の親は最悪だったと彼らも認めてます》
「なんで庇ってしまうん?」
《ストックホルム症候群、正常性バイアス、言動の矛盾を勝手に修正しようとしてるだけです》
「あぁ、庇護を得ないとだものね」
《話が早くて助かります》
「いや、他人に置き換えないと整理出来ないんだもの、まだまだですよ」
《本来は、ココでなら親を修正するんですが、ソチラでは排除してただけでしょうし。対処としては及第点だと思いますよ》
「化け物の呪いが解けて無い、カールラもクーロンも、ミーシャも大丈夫だって言うけど。先生の顔面見てから鏡を見るとね、地獄ですよ」
「僕も、疎外感と言うか。地味顔だと自他共に認めてるので、魔王や先生を見ていると、場違い感が湧く時が有ります」
《遺伝子組み換えも発達していますから、平均値の底上げは有るかも知れませんけど。好みの差、と言うか君に関しては似ているからこそ、父親は鏡を見る様で嫌だったのでしょう》
「ね、誰に会っても似てるって言われて苦痛だった。それはお世辞だとお祖母ちゃんが言ってくれてたんだけど、それでお世辞も褒め言葉も嫌いになった」
《私もですよ、どうせ珍しいから興味を引かれてヤりたいだけだろう、と》
「持つ者と持たざる者の違いは分かるけど、敢えて下げる人って居るの?」
《一時的になら居るそうですよ、良くストーカーに遭うからと変えた事例が有りましたけど、そう収まらなかったそうで。今思うと君の性質に似ていたのかも知れませんけど、遺伝子まで変えるとなると全く違うと言う症例は無いですね、通常なら愛着が有りますから。その方も、結局は元に戻していましたし》
「でも、内面重視なのよね」
《表面上はそう近付いて来ますけど、結局はそう変わらないかと。寧ろ逆に、悪質化している可能性も懸念されてますね》
「ほう?」
《外見に惹かれたからと言って、そう明言して近付く人は少ないので。中身が良いと言って近付き、思っていたのと違うと言われて悩む、表舞台で活躍されてる方々に増えてるんだそうですよ。いっそ外見を理由にされた方が分かり易い、マシだ、と》
「あぁ、そんな事に、ワシ直ぐ言ってしまいそう」
《この場合は、大概は下品だと言い出す方が下品な場合が殆どですし、良いと思うんですけどね、顔面至上主義》
「至上主義とまでは言わんけど、でもだって顔じゃんね?看板だってなんだって、顔だって、言わない?」
《言いますね。けれど私としては、許容範囲が広まっただけなのでは、と。嚙み合わせの修正や歯列矯正等も広まっていますから、範囲が広まった、けれども結局は黄金比に惹かれると思うんですよね》
「大抵は、ね」
《まぁ、敢えて不均等を好む方もいらっしゃるでしょうけれど、大抵は自然の摂理に沿っている。そう見ると、祥那君も桜木さんもその範囲内だと思いますよ》
「ぅう、素直に受け取れない」
《今直ぐには無理だとは思いますが、徐々に慣らしましょう、ココの基準に》
「宜しくどうぞ。戻りましょうかね」
《はい》
そうして省庁に戻ると、蜜仍君が正式採用となり、僕が指導員になる事に。
浮島は、神様は自由に出入りしても良いけどもよ。
『お帰りー』
「ただいま、何をしてらっしゃる?」
『ほら、神様を紹介するって言ったじゃない?』
「あぁ、ほいで?」
『ヘカテ』
「ほう?」
「それなんだが、ココにも雷神は居るとは思うが、どうなんだろうか」
「あぁ、そうよね、どっちが良いんだろう」
『両方にお願いしたら?』
『あぁ、なら呼んでみるか』
前回とほぼ同じだが、ココもまた少し違う流れに。
だがこう見守ってばかりもいられないので、魔道具を揃えて貰いにニーダベリルへ。
そうして従者達を呼び出し、装備を整える。
【すまんねタケちゃん】
「役割分担だ、気にするな」
【ありがとう】
「おう、俺は少し昼寝をしに戻ろうと思うが、大丈夫か?」
【おうよー】
だが心配していた変身は、直ぐにショナ君のお陰で収まった。
正直、マサコには来て欲しく無いのだが、来なかった時の弊害が怖い。
何がどう影響するのか、その影響が良いのか悪いのか。
コレも、必要悪と言うべきなんだろうか。
エミール君へ醜形恐怖症の事を少しばかり説明したお陰か、桜木さんとの対面は普通に、穏便に済んだ。
「いやぁ、桜木様にキラキラしてて可愛かったっすね、エミール様」
「キラキラ?」
「アレっすよ、大好き光線出てたじゃないっすか」
何を言っているのか良く分からない、流そう。
「そうですか」
「え?恋愛に興味無い系っすか?」
「どうしてそうなるんですか?」
「だって、この流れなら恋バナになるで。それともノンセクとかアセクシャルなら言ってくれても別に、そうなんだとしか言わないっすよ?」
「そんなにホイホイ好きになるモノなんですか?」
「えー、いやー、マジかって言われると、俺もまだ、良いなーって付き合う程度で。別れる時も、何か違ったなって感じっすけど」
「検査は受けてるんですよね?」
「そりゃそうっすよ、っても、別れた後っすけど。大丈夫っすよ、居たのは結構前なんで、全部の検査で陰性2回出してますんで」
「そこは真面目なんですね」
「何すかその、ゴムもしてますよ」
「そうですか」
「えー、俺も言ったんだから、何か教えてくれても良いじゃないっすかー」
「検査しなくてはいけない様な事はしてませんが、到着した病院でも直ぐに検査はしました、陰性です」
「それ、どっちの意味っすか?」
どっち?
あぁ、最近してないのか、前からなのか、ですかね。
「童貞ですが、何か」
「いや、職務に忠実過ぎじゃないっすか?」
そう言うつもりは無いんですけど、そう思っていて貰っても構わないので、そのままにしておこう。
「どうも」
「どう我慢するんすか?それとも一定の年齢になったら結婚する予定なんすか?」
「我慢は何もしてませんし、予定も有りません」
「え、それなのに、気になるとかも無いんすか?」
「何を、誰をですか?」
「桜木様」
「君はどうなんですか」
「無いっす、全然、仕事で仕方無くってのもギリギリっすね」
「そうですか」
「あー、また聞き逃げしようとするー」
「強要してませんし、言いたくなかったなら言わなければ良かっただけでは」
「えー、じゃあ勝手に気になってるって事にしとこー」
「そう見てもいないんですが、逆にどうしたらそんな風に見れるんですか?」
「キス出来るかどうか、とかじゃないっすかね?」
「不敬過ぎでは?」
「いや仮に、好かれたらどうしようとか考えないんすか?」
「無いですね、無いと思ってるので無いですね」
「その論拠と根拠は何なんすか?」
「自他共に認めるメンクイなんですよ?」
「別にショナさんは、地味顔だけど、不細工じゃ無いっすよ?」
「賢人君、向こうの基準でのメンクイなんですよ?」
「じゃあ、俺の顔がどうか今度聞いてみますよ、ついでにショナさんのも」
「いえ結構です」
「まぁまぁ良いじゃないっすか。じゃ、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
どうしてこんな不毛な会話に付き合ってしまったんだろう。




