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1月28日

 今日はショナの復帰日。

 コレは、何度体験してもドキドキしてしまうな。


「さ、桜木さん?」

「うん、紆余曲折有った」

「すまんな驚かせて、詳しくは向こうで、な?」


「は、はい」


 今回は完全に男で表立って出るんだしな、そうなるのも仕方無い。




 久し振りに会った桜木さんは女性でも無いし、髪も短い。

 説明は向こうでして貰えるとは聞いたけれど、何がどう、どうなっているのか。


《では、私からご説明させて頂きますね》


 国連が何処まで汚染されているのか、どの国が何処まで汚染されているか不明なので、炙り出しも兼ねてこの状態らしい。


「ビックリしたか万能鉄仮面」

「それ、賢人君ですか」

「ふひひ、さーせん」


 それから主な情報収集は武光さんの名義で行い、武光さんと桜木さんは立場を交換して表舞台で動く。

 けれども実働は男性体の武光さんが、動く。


《夢見、そして3人中たった1人だけがクトゥルフですし、以降もココに残られる事から、桜木花子の情報を絞り、特に動かさないと言う結論に至りました》


「羨ましい!」

「ですよねー」

「すまん、高い高いしてやろうか?」


「煽るなぁああああ」

「どうどう」

「すまんすまん。それで、何か質問は有るか?」


「何で情報収集が武光なんだ」

《それはコチラになります、1部しか無いので、リズさんは膝の上で、お2人でお読みになって頂ければと》


「ぐっ、効率化だ、仕方無い」

「はい」


 リズさんを膝の上に乗せ読んだ資料は魔女狩りの物、それと過去の悪とされる召喚者様や転生者様の情報だった。


「あぁ、マジか」

「こうなると、国連の監視の意味が変わるんですが」

《はい、ですので内部の協力者を今日招集しました、それで少しは探れるかと》


「どう選んだんですか?」

『ガブリエルさんに協力して頂けました』

「そこまで進んでんのか、俺の知らぬ間に」

《知らない方が安全かと、ですが今日出席なさってますし、説明を省いて問題が起きてはと。既に柏木氏にはお知らせしてあります、ですが他は。ですので素知らぬ顔をして頂けると助かるんですが》


「あぁ、俺、嘘とか下手なんだよなぁ」

《なので、念の為の魔道具です。省庁内部の汚染は確認出来ませんでしたが、一応お持ち下さい》


「お、性別も変えてくれたら良いんだけど、無理だろうなぁ」

「それは追々、神様紹介するから要相談」


「おう」

《性能としては……》


 桜木さんの髪の毛が編み込まれた、魔石付きのチョーカー。

 精神を安定させ、偽装の魔法で嘘を分からなくさせるらしい。

 そして害をなそうとする者に対して紐が噛み付き、眠らせると言った物だそうだ。


「似合う、可愛い、写真撮ろうねぇ」

「親戚のオバちゃんか」


「はいはい、そうだねぇ」


 膝の上のリズさんをバシャバシャ撮って、ニコニコしている。

 僕にも笑顔を向けるし、コレは、本当に桜木さんなのだろうか。


《では、そろそろ向かいましょうか》




 本来通り、だが少しだけ違う会議が始まった。

 そして今回もシェリーやブリジットは居らす、代わりにルイ大使が来てくれている。


 本来の国連の人間が誰だったか全く覚えて無いが、少なくとも2、3と来てたヤツは敵では無かった筈だが、コレで悪い方向にならないと良いんだが。


【では、次の議題ですが……】




 会議が終わってからが本番ですよ。

 先ずは天使さんと女タケちゃんが国連の人に事情を説明して、真っ青にさせてんの。


「酷いなぁ、タケちゃんが国連の人を真っ青にさせてる」

『えっ、あぁ、驚くのも無理は無いですよね、自分の所属が汚職の真っ只中かもって』


「でも真っ青って事は思い当たる節が有るんじゃない?普通なら怒りそうだもの」

《そうですね、思い当たる節が無ければ怒るか、何を言っているのだろうとなるか。思い当たる節が有れば、自分が見逃した事への罪悪感が発生しますから、真っ青にもなるでしょうね》

『あぁ、そっか、じゃあ何か知ってるって事なんですね』


《ですけど、どの程度かは別ですね。ちょっとした違和感を無視したのか、探るのを諦めたか、又はその両方か》

「どれなのか、何か賭けようか」

『何を掛けます?』


「んー、鼻こより20秒」

『鼻こより?』

《ティッシュで鼻をくすぐるって事ですよ》


『えぇ』

「ワシ両方、ショナも賭けろ」

「え?」

《では無視だけで》


『え、じゃあ、探るのを諦めた方で』

「お、ある意味で有利じゃんショナ」

「えー、じゃあ、両方で」


《終わったみたいですね、では、聞いてみましょうか》


 やったね、両方でした。


「よっし、ショナと片鼻ずつだな」

「え、それもそれで罰ゲーム感が有るんですけど」

《なら分担で私にどうぞ》

『えー、交換して下さいよ、恥ずかしい』


(メイメイ)?何の話だ?」

「いや、後で言う。罪悪感を持ってくれる人で良かったね、協力してくれそう?」


「おう」


 そうしてルイ大使が仲間になったけど、会議には不参加。

 他の人にバレない様に、他の人達と帰る事に。




 ハナが賭けをしていたとは。


「ふふふ、鼻をくすぐるのか、ふふふ」

「少し怒られるかと思ってたわ」


「いやいや、人が死んだりしたワケでも無いんだ。そう楽しみを作りだせるのは凄いと思うぞ、天才だな」

「ふざけないといらんないみたい、コレ」


「良い性質じゃないか、イライラするよりずっと良いさ」

「かね、けど会議中は静かにしてます」


《では、会議を始めましょうか》


 解散後に参加者を浮島に集め、本格的な話し合いが始まった。




 溢れさせ、沈静化の為に引き籠る用の買い出しに出掛ける事に。

 そんで買い出しに次代の父兄、ネイハム先生と賢人君が同行する事に。


《紫苑さん、我々を連れ立って買う行為にも喜びを感じてませんかね》

「あぁ、成程、天才か」


 雑誌だアンソロジーだと買い漁り、次は駄菓子屋。

 何処でもエコだと思ってたけど、マジエコ、プラ殆ど無し、代わりにケースにお菓子がみっちり。

 お弁当箱かお重箱みたいなのにお菓子を入れて、測りと画像処理システムでお会計。

 ポテチはのりしおとコンソメのハーフを1番大きいバケツ買い、子供にキラキラした目で見られた、ドヤったった。


「大人気ねぇ」

「ですよねぇ」


 次はアイス屋さん。

 ココもエコ、棒付きからカップまで、アイス全種類。


 うん、満足。


「まだっすよ?」

「なにが?」


「家電、据え置きゲーム」

「マジっすか」


 そんで次は賢人君がショナと交代に。

 両手に花、花束、花園、花畑。


「紫苑さん?」

「あ、いや、何でも無い」


 危ない、脳内が久し振りに腐る所だった。




 桜木花子は神獣が居るにも関わらず、ぬいぐるみを漁り。

 色違いの同じ品物でも肌触りが少し違うらしく、触り比べて厳選している。


「コレはどうでしょう?」

「もう少し毛足が長い方が良い、ほら」


「確かにそうですね」

「大変なのよ選ぶのも、ほら」

《確かに、違いがあるものですね》


 並々ならぬ拘りを感じる、もしかすればブランケット症候群も有るのだろうか。

 だがイライラした気配は特に感じた事は無いと神獣も証言しているなら、非常に軽度なのかも知れない。


 そうして厳選されたぬいぐるみを抱えたまま、ゲームコーナーへ。

 中々に見た事が無い光景なので携帯を向けると、素直に撮られた、紫苑の姿は気に入っているらしい。


「何で撮ったの?」

《そう見ない光景かと、どうですか?》

「そう、ですね、僕も見た事は無いです」


「カゴに入れてまたカゴに戻すの大変じゃない」

《だけですか?》


「それも、もふさわも得られる」

《成程》


 そしてSLG、農園を経営する等のシミュレーションゲームを買い、特撮コーナーへ。


「あぁ、同じやー」


 ココでは祥那君に借りると言う事になり、そのまま寮へ。


《お邪魔致しますね》


 趣味色も人間味も無い理路整然とした部屋。

 ちょっとコレは逆に心配になりますね、仕事一筋、コレでは恋愛沙汰には疎そうな。


「どこから観ても楽しいですけど」

「だからよ、この主役の顔と敵役の造形で……」


 本来の性別を知っていなければ、これは少し誤解してしまいそうな。

 トイレも普通に行ってらっしゃいましたし、本当は男性化したかったのでは。




 ショナを先に浮島に送り出し、エミールに毛布とぬいぐるみを渡した後、先生から少し話が有る、と。


《男性になりたいと思った事は?》

「そら誰でも少しは有るのでは?」


《残念ですけどココでは少ない方かと》

「あぁ、生理痛とかね、胸も無いじゃん。一瞬よ、一瞬」


《今、どちらか選べと言われたら》

「基本は雄を見る方が好きだし、悩むわ」


《あぁ、なら魔道具が普及すれば問題無いですね》

「確かに。何が心配?」


《いえ、悩みが有るかと、それと単に興味本位ですね》

「あぁ、そうストレートに言ってくれる方が助かるわ。醜形恐怖症の気は有るよ、父親に化け物と言われたから、コレで謎は解けた?」


《その言葉をどう処理してますか?》

「あぁ、放置してるけど、常に真後ろで腐敗臭を漂わせ続けてる」


《そうして鏡を見ると》

「偶に顔を出す、顔を覆う。ブス、不細工、デブ、デブス。子供が良く平気で言う時期を過ぎる位に、2人だけの時に、見下げられながら言われた。やっぱり俺とは似てないな、化け物。たった1度だけ、それが当時でも珍しかったのか、カウンセラーに聞き間違いじゃないのよねって確認されて、凄くムカついた。今思うと暴れておけば良かった、問題発言をしたのは向こうなんだから、化け物と言われる様な顔にしてやれば良かった」


《君の方が大人で優秀だったからこそ、しなかっただけでは》


「度胸が無かっただけでしょう。それからは荒れて、辛かったねって言って貰えてからは過呼吸だパニック発作だ。直ぐにお祖母ちゃんの家に避難する事になったけど、状況は悪化、本当に言いたい事が親兄弟に言えなくなって、それに釣られたのか家庭内も更に大荒れで。落ち着いた頃にはお祖母ちゃんの家に縛られて。やっと自由に1人暮らしが出来るってなったら、ココへ。だから最初は天国に来れたのかと思った、今も偶に思う、夢なら醒めないで欲しい」


《精神科医に慣れてる理由はそれなんですね》

「あぁ、でも辛かったねって言ってくれたのは医師じゃないよ、教師」


《お祖母さんの事は》

「怪我して入院して、戻って来てからボケが急激に進行して、それを親に信じて貰うのに時間掛かって、好きだったけど、嫌いになりかけた」


《アダルトチルドレンって知ってますか?》

「最貧国の孤児達は全員なってると思う?」


《それでも、医療系に進もうとしたんですよね》

「人間嫌いなのにね、親兄弟の役に立ちたかったんだけどね、家族の絆って、呪いと鎖だよね」


《武光君にもそう思いますか?》

「今は思ってない」


《そんな思いはココでは決してさせないと誓うので、どうか信じては頂けませんか》


「もし裏切ったら罰を受けてくれるなら信じる」

《ドリアード、何か良い方法は無いですか?》


《ふむ、ちょっと待っておれよ、今聞いておるでな。ふむ、ほう、ほう。とある者が死の神のヘル神に誓うてはどうか、じゃと》


《死の神ヘル神に誓います、桜木花子を裏切る様な事が有れば、死の罰を受けると誓います》


「聞き届けられたのかな?」

《どうじゃろな?》

《何か試してみますか?》

【生き返らせる良い練習になるかもね】


「いや、追々で。ありがとうございます」


 もし誓いが有効なら。

 そう思うだけでそこそこ安心感が有る、お人好しと言うか、ワシ馬鹿かな。




 紫苑さんが帰って来て、入浴を済ませて小屋に戻って来ると、少しだけ話をしようと言われた。


「何か有ったんですか?」


「少し過去の事を話したので、少し気分が悪いんどす。だから、もしかしたら、怒りが増幅されるとか有るかも知れないから」

「なら気分が良くなるまで、気分転換をしてからにしませんか?」


「いつ切り替わるか分からんのよ、取り敢えずは先生から話を聞いて来てくれないかね」

「分かりました、相談も兼ねて行ってきますね」


「うん、宜しく」


 そしてネイハム先生から聞かされたのは、父親からの暴言による心的外傷後ストレス障害や、醜形恐怖症の気配も有る、と言われ。


「確かに鏡はそんなに見ませんけど」

《顔もそうですが、主に服装を決められない事に有るかと》


「普通に選んで着てますけど」

《桜木花子の場合です。自由に選べる筈なのに殆ど同じ物に統一し、紫苑さんでは様々な服を選んで買い、着ている。虚栄心からの情報ですが、服を統一しているのは迷わずに済むからだとも、以前に言っていたそうです。そして彼女の場合は乳房も除去した、性別違和、それとまだ引き出せてませんが摂食障害も既往歴に含まれてるかも知れません》


「ですけど反復行動は無いですよ」

《病識は有りますし、そして非常に軽度、又は完全な発病前だからこそかも知れない。そして反復行動に関しては、我々が認識出来ていないだけかも知れません。ですので少し、いえ、かなり注視すべきかと》


「でも病識が有るなら」

《だからです、過呼吸とは別にパニック発作も経験した事が有ると言ってましたし、鍵を何度も確認していた時期も有ると。だからこそ自己を抑制して反復行動を抑えているだけかも知れない、そしてストレスを溜めていても体が信号を発しない可能性も有る。泉やエリクサーで自己修復をしてしまっているからこそ、心に負荷が何倍も掛かっていてもおかしくは無い》


「本当なら、反復行動が出ていてもおかしくはないって事ですよね」

《はい、何か心当たりはありませんか?》


「常に、手元に有れば神獣を撫でているのは」

《あぁ、可能性は高いですね》


「肌触りの良いモノで誤魔化している」

《ですね、私もそう思います》


「けど支障が出て無いですし」

《そこなんですよね、今は出て無いだけなのか、いずれ出るのか、そもそもそれだけで収まる程度なのか》


「先生は、何を恐れているんですか?」

《大罪化、魔王化、もし間違って大きな力を望んでしまったら、苦しむのは彼女なので》


「そんな人じゃ、ないです」

《今だけ、幸せな環境の中に居るから。ですけど厄災とは何か、いついかなる時にどの様に発生するかは不明なんですよ》


《我らが守るだけでは心配か、ネイハム》


《ドリアード、なら何故、魔女狩りの時は》

《介入制限が既に有ったんじゃ、しかも各地で散発的に大量発生し、神々の連携も取れぬ状態での出来事じゃろう。今とは違うんじゃ、それにアレの心は良く分かるでな、心配せずとも一時的な濁りは消化中じゃよ》


《それが真実なら、今回は介入度合いが深過ぎでは》

《我の情報だけでは無い、集約されての答えじゃ》


《それでも》

《人の心を暴き分析する分際で、ハナが何を求めておるかも分からんのか馬鹿者が。安寧じゃ、全ては安寧の為じゃ、それがどうして大罪化なんぞしおる》


《魔王も大罪達も、ある意味では安寧を求めての結果ですよ》

《じゃから神々は止めなかったのじゃろ。間違うておるのはどちらか、神々にしたら一目瞭然じゃろう、じゃから精霊も神々も魔王や大罪に一切関わらんかった。魔女狩りもじゃ、世界の半数以上が賛成したからこそ、我々に制限が掛かったんじゃ》


《ならその前の段階で》

《結果論じゃろ、それを言うならば、もっと最初から彼の者らを保護しておれば良かったんじゃ。お主らエルフも保護せんかったクセに、今更何を言う》


《それは、エルフも危機的状況だったと》

《それは言い訳じゃな、お主らの先祖が差し出したのを知らぬか、当時は純血主義じゃったからの。その時点で人間に見下され、魔王からの隠れ蓑にされたんじゃ》


《そんな情報を》

《今それを言うてどうなる、それはお主もじゃ。そう見ればそう見えてしまう、じゃがそう見ずにいればそう見えぬかも知れぬのに、先入観を植え付けてどうしたいんじゃ。父兄ならば守り囲えば良い、とでも勘違いしておるのか?》


《大罪の怠惰は、力を求め、そして後悔しているんですよ》


「すまんが、揉め事だと聞いてな、どうした」

「武光さん」

《大いなる力を得るハナにビビっておるんじゃと》


「あぁ、その事か。その判断を下す前に、見定めて欲しいと思ったんだが、情報が足りないか」

《はい、正直、そうですね》

《じゃがもう既に神々の介入は始まっておる、お主は信用して貰う側じゃよ。勘違いするで無いよ小僧》


《失礼しました》

「いや、気にしないでくれ。元は召喚者の見定めをと言ったのは俺だしな」


「すみません、僕はどうすべきなのか、少し混乱しているんですが」

《失礼しました、少し気にして頂ければ、と》

《じゃの!そう求められてるんじゃし、過干渉は嫌われるぞぃ?》

「だな、俺も気を付けている部分だ」


「それで、今回の事を尋ねられたら、僕は正直に情報が足りないと告げるつもりなんですが」

《はい、それでも問題は無いかと》

「もし問題が無い人間ならば、だろう」


《はい、ご明察の通りかと》

「だそうだが、まぁ、君が良いと思う方向で良いと思うぞ」

《じゃの!》


 それからやっと、浮島へ帰る事に。


 僕としては善人、良い人、神経質とも思える気配りをしてくれる優しい人なのだけれど。

 確かに、見極めなくてはいけない部分もある。

 けれど、隠し事をすれば信頼を損ねる事にもなり兼ねない、だから僕は全てを話す事にした。




「長い、そんな問題が?」


 何、この間。

 どれだ?

 ワシ?


「ネイハム先生が心配していて、少し長引いたので」

「ワシに言えない事?」


 え、なに、やだ。

 この間、凄い怖いんですけど。


「色々と、先ずは尋ねても良いですか?」


 まぁ、尋ねる位なら。


「おう」


「摂食障害は?」

「今は無い」


「ご自分で、コレは強迫性障害だな、と思う様な行動は?」

「さわさわ、もふもふ」


「自覚が有るんですね」

「そら、10年以上はコレと付き合いが有るもの。けど今は特に問題だと思って無いし、流石に問題だと感じれば相談するけど」


「あぁ、そんなになんですね、成程、ですよね」


 あぁ、ワシの情報が足りなくて議論が長引いてたのかしら。


「まだ情報が足りなかった?」

「いえ、いや、そうだったみたいです」


「だった?報告してきて良いよ?」

「はい、すみません」


「いや、一緒に報告しよう」


 どんな顔するんだろ。




 情報が足りなかったとはいえ、私が見誤りかけたが筒抜けの様で、正直に言って少し恥ずかしいと言うか。


《態々ご本人からのご報告を、どうもありがとうございます》

【他に有る?】


《いえ、今は大丈夫ですよ》

【鉄仮面2号、もう少し何か表情に出してくれないと】


《何を、でしょうか》

【申し訳なさ、とか】


《そう仰ると云う事は、既に色々と伝わってるのでは》

【いや、ショナは何も言って無いけど、大罪化するとでも心配してたんでしょうよ】


《そこまで見抜かれてますか》

【いや、カマかけ。酷いなぁ五十六先生、音声だけで良いんだけど、どう思う】

【まぁ、元は情報が欠けていたのも有るけど。心配性と言うか、どえらい患者が居るからね、そうなる前にと心配が先んじちゃったんだと思うけど。カマかけとはね、コチラの正直さを逆手に取る能力も有るんだし、大丈夫じゃない?】


《そうですね、失礼しました》

【ほいで、もう始めて良い?】


《はい》


 10代未満から強迫性障害を発症していた事は、正直想定外だった。

 だからこそ落ち着いている面も有るし、幼い面も残っていて、アンバランスさが見受けられたのだけれど。

 本当に見誤ってしまっていた、だからこそ、もし次の召喚者がこのまま来ていたら、確かに大きく見誤っていたかも知れない。


 けれど、だからこそ不安定さには気を配らなくてはいけない、強さは有っても阿る傾向も有る。

 その強さと正義感、どの程度何を許容し、何を悪と思うのかを見極めなければならない。




 少し予定は押したが前回通り、紫苑のもハナのも、溢れた魔素の効果は変わらぬままだった。

 それでも、どうしても同じ事を聞いてしまう。


「コレは、どうにか変えられないんだろうか」

『可能性としては、何もかもを変える事だろうね』

《名も顔も何もかも、じゃが魔法も失うかも知れんな、性格も変わるじゃろうし》


 問答も答えも同じ。

 ショナ君が自然に目覚めるまで、魔素の解放が様子見となるのも同じ。

 そしてショナ君の寝顔を眺めるのも、同じ。

 それからロキが来るのも同じだろう。


 けれども今回は少し違う、既にココには五十六先生もネイハムも居る。


《神々の情報では、整形かハーレムか地霊の加護の有る血筋か、ですか》

「あぁ」

「それはそれは、本当に心配だねぇ」


 今回は効率化しただけだが、どう変わるか。




 桜木さんは眠れないからと、一服へ。

 吸い込むと、直ぐに頭をもたげた。


「あの、大丈夫ですか?」


「最初は天国だと思ったんだけど、コレがシミュレーションなら凄いよね、実質現実じゃん」


「そんなに現実味の無い世界ですかね?」

「つか何でワシですか、とずっと疑問で。けど、偶々なら頑張らないとな、と」


「逆に、どんな方なら良いと思うんでしょうか」


「そら心身共に健康な子」

「そうなるとエミール君が外れてしまうかと」


「あぁ、それはダメだ。けど、ココに居て良いのかね、危なくなるかもって世界に未成年だもの」

「少なくとも僕は、桜木さんが来てくれて良かったと思います」


「買い被りが凄そうだが」

「ココでは心身共に健康な者は多いですが、その分だけ、弱い部分が有るんじゃないかと思うんです」


「ほう?」

「僕だけだったら、例えジュラさんが居ても、エミール君を説得出来てたかどうか、自信が無いんです。身体的に不自由になった事は風邪とかだけなので、病院への恐怖心も何処かで御座なりにしてたかも知れない。病院への恐怖と僕らへの不信感を見極められていたかも。そしてコレだけ打ち解けて貰えてたか、と考えると、非常に怪しいなと」


「病弱勝ち?」

「だと思います、知識の見聞きと体感や体験の差は大きいなと思いました。考えて答えに辿り着くのと、桜木さんの様に脊髄反射で答えるのとは大きな差が有って。その差を肌感で感じ取れるからこそ、人は嘘を見抜ける時が有るのかなと」


「魔道具の特性から逆算しての答えか」

「はい、正しい答えを導き出すより、体験には体験だな、と」


「でも健康な人の価値観も大事だし。こんなのは極少数の方が良い、だってクソ大変だもの」

「ですよね、入院って僕は刺青を入れた時だけですし」


「え、刺青?」

「あ、魔法印です、骨に入ってるので」


「肌には?見えないの?」

「ご興味が?」


「そら、あ、醜形恐怖症なのかな?全身には入れたく無いけど、興味は凄く有る」

「見えるのは、ココでは少ないですけど、普通にプールとかは入れますよ、見える用の魔法印も有るので」


「ほう?」

「発光魔法は子供の義務なので、僕も入れてたんですけど、入庁時に消しました。特徴を消すべきだと思ったので」


「忍び」

「偶に言われますけど、ココには居ないって言われてますからね?」


「と思うじゃん?居ないのクエビコさん」


『かなりの機密情報だぞ』

「え」

「ほらぁ」


「いや、でも、本当ですか?」

『冗談だと言えば調べないか?』


「いや、いえ、どうしますか?」

「いやー、機密情報なら知らないでも良いのかなー、とかね」


「桜木さん、実は少し意地悪ですよね?」

「あー、眠くなって来たかもなー、一緒に寝ようねクエビコさん」

『あぁ、確かに意地悪だな』


「そうかー?」

「兄を思い出す手口です、どれだけ騙されてきたか」


「あぁ、分かる」

「気にならないんですか?」


「気になりますか?」


「はぃ」

「へー」


「もー、紫苑さんになる前はこんなに意地悪じゃなかったですよね?」

「どうだろう、実は入れ替わった誰かで」

『こらこら、ココはお前らだけなんだ、そう喧嘩をしてくれるなよ』


「喧嘩出来る?」

「喧嘩の定義からお願い出来ますか?」


「よし、それだけで夜を明かせそうだな」

「気になったら何でも言ってくれと、武光さんの要望なんですよ?」


「存在の確認程度なら、クエビコさんの応答で分かった様なものだしなぁ」


「分かりました、勝手に申請しますからね」

「それでも良いけど、君に情報は教えさせない」


「僕、何か機嫌を損ねる様な事を?」

「君の兄上は機嫌が悪くなると誂うのか?」


「……偶に」

「おぉ、どんな時?」


「意中の人が他の人と登下校を一緒にし始めた時とか」

「ぉお、君のそう言う甘酸っぱいのは?」


「武光さんに連絡しますよ」

「しょうがないなぁ」


 桜木さんと紫苑さんが同一人物だ、と理解出来る様にはなったけれど。

 この誂う感じは、賢人君と一緒に居たせいだろうか。

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