2月29日
エリクサーも尽き、最後の魔石を額へ宛てがうと、やっと目を覚ましてくれた。
「紫苑さん」
「何か、映画館を映画館で見てた」
「お帰りなさい、桜木さん」
「おう、ただいま、おはよう」
「よし、私達は少し下がりましょう」
『はい』
「紫苑さん、今は2月29日です、1日、ずっと眠ってたんですよ」
「何か、動きとかは?」
「全く、向こうからの干渉は特に有りません。それと魔石が尽きました、エリクサーも紫苑さんの回復の為に使い果たしました」
「あぁ、マジか、吸い上げられたのか」
「最後、覚えてますか?」
「あぁ、アマ」
「その名を呼んでから失神したんです」
「あぁ、アクトゥリアン」
【はいはいはーい!お力をお貸ししますね】
「おう、頼む」
【はい、では指を】
そう言ったかどうかで地震が起き、急いテラスへ向かうと、空には竜種の群れが。
そして目の前には誰も居ないのに、真っ黒い影が。
「アマルテイア」
紫苑さんがその名を口にすると影に呑まれ、その影すらも消えた。
「アクトゥリアン!」
【私じゃ無いです!】
「なら」
「ショナ君!」
「武光さん!桜木さんが、影に」
「アクトゥリアン」
【私じゃ無いですってば!】
「なら誰が、いや、俺が探す、お前達は竜の背に乗れ」
「なら僕も!」
「大丈夫だ、コイツらは人語を解する、上空で探しててくれ」
「はい」
礼拝堂の地下への入り口が開いていた。
点々と血痕が有り、急いで飛び降りると息も絶え絶えのエルヒムが。
《人間て、1度、ダメになると、本当に滅びないと、ダメ、みたいで。だから、滅ぼすんだ。向こうで、生きる、者の、為に、犠牲に、成らないと、いけない》
「機械、止まってる?何で君は死にかけてるの?」
《再起動、して。今、リミッターの、最終解除に、必要だから、他も全部、もう、止まるはず》
「他のって、他の方舟か」
《アマルテイアを、宇宙へ、返して》
【あ!ココだったんですね】
「協力して、ココ再起動させる」
【はい!先ずは指をお願いします】
「はやく」
指と指を繋げると光り輝き、反対側の手も光り輝くと、機械へと溶け込んだ。
【生体の登録、認証、再起動まで、3、2、1】
「動かせる?」
【はい、地球の静止衛星上へ待機命令を変更可能です】
「それに変更」
【了解。あ、エネルギー不足にで上昇不可、他の命令じゃないと無理です】
「宇宙にさえ行ければ」
【待機命令のみなら変更可能ですね】
「変更」
【了解、変更完了。ですけど、どうします?】
「まだ竜種は居る?」
【勿論ですよ、クーロンも居ますよ】
「クーロン、迎えに来て」
【ご主人様!ご無事で】
【座標を送りますね!では脱出を、ココじゃ私達のワープが使えないんですよぅ】
「分かった」
螺旋階段を飛び出て直ぐにハッチが閉まると、本当に大丈夫なのか不安になる程の静けさ。
『ご主人様!』
「あぁ、クーロン」
【さ、脱出しましょう、上空へ】
『はい』
クーロンが礼拝堂を突き破りながら飛び上がると、轟音が響き始めた。
【他のも動いちゃってますけど!?】
「カバンの中身をストレージに移動、様子見させて」
『はい』
【はい!】
「ショナ」
【ご無事ですか?!】
「クーロンと合流して上空に待機中、そっちは」
【僕もです、直後に武光さんが来て竜の背で上空に待機中です】
「そのまま帰ってくれ。タケちゃん何処」
【無事か!】
【前方の、あ、下からエネルギー反応です!】
クーロンが宙返りで避けてくれたが、肌色の物体が目端を横切った。
「全員もっと上空へ!あの怪物がココにも居る!」
【退避ー!全軍撤退ー!上空へ避難して下さーい!】
紫苑さんとアクトゥリアンの声を聞いた直後、真後ろで空気を切る音がした。
僕らの乗った竜の速度が落ち、後ろを確認すると、竜の半身と共にアンリさん達が。
『すまん、油断したらしい』
翼の有る上半身は無事だけれど、速度は更に落ち。
「真っ直ぐ前を見て、しっかり捕まってて下さい」
「うん」
我儘を言うと、桜木さんの為に命を使いたかった。
もっと我儘を言うと、桜木さんと一緒に生きていたかった。
「桜木さんに、紫苑さんに宜しく伝えて下さい」
「そ」
コレで軽くなるから。
『何をしてるんですか!』
「クーロン」
「なんつー事を」
「紫苑!」
『すまん』
「すみません、アンリさん達が」
「良いから、しっかりつか」
ガクンと衝撃が走ると。
真っ暗になって。
何も聞こえなくて。
クーロンが半身の竜を鼻先で押し、左手にはショナを持っていた筈だった。
さっきまではそこに有って、そこに居た。
『あぁ、凄く良い絶望ね』
「アマルテイア、ショナを返して」
『えー、どうしようかなぁ』
「代わりになるから」
『ダメ、意外とアナタの代わりって居ないの、だから生き残って様々な感情を供給してね。ふふふ、良い殺意』
「クーロン!戻って!」
『無理です!転生者も居るんですよ!』
あぁ、自分に関わらなければ生き残ってた筈なのに。
地球に残ってたら。
『ふふふ、残念ね。あ、それからもう1つ良い事を教えてあげる、私の名は、シュブニグラス』
あぁ、全部何もかも、間違えてしまったんだ。




