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2月27日

 汚くない、穢れてないんだとずっと言ってくれた。

 仕事の為だったと言い訳をしたら、その通りだと言ってくれて。

 でもショナにはしないで欲しいと言えば、そうすると答えてくれた。


 ただそうして話して、眠って、起きて。


 けど起き上がりたくない。

 怠い、何もしたくない。


「紫苑さん、バイタルチェックをさせて下さい」

「おう」


 怠いのは精神的なモノだけじゃ無かった、ゴッソリ魔素が持っていかれてる。

 コレは、営みをした人間から魔素を吸い上げているだけ?


「夜伽をした人間から、吸い上げてるだけなのかも知れません」

「仮にそうなら、自分達の命を食い潰してる事になるが、本当にそれだけなんだろうか」


「例え家族でも、営み中の邪魔は御法度だそうなので、しましょう」

「そうするのって、どうなのよ」


「ココでの事は全て仕事、僕らの事はまた向こうでちゃんとしましょう、ココに全てを置いて。また向こうで、僕から告白させて下さい」

「ちゃんと泣きながら告白してくれる?」


「それ萎えませんか?男が泣きながら告白って」

「寝顔以上に激レアだから、アリ」


「やっぱりドSですよね」

「なのかなぁ、ニコニコしてる顔も好きなのに」


「手加減して下さいね、1日中なんですから」

「そっか、頑張ります」


 魔石を何個も消費して、それから。




 僕らは少し順番を間違えただけ、少し進む速度が乱れただけ。

 けどその問題は全てココに置いていく、新しい名前と姿で桜木さんは生まれ変わる。

 だからコレは過去の事、世界を救う事にしてみたら些末な問題、問題なのは今だけ。


「凄く、体力が要るんですね」

「ね、何を食べようか」


「ココはお肉ですかね」

「良い筋トレ方法ですかね?」


「ですね」


 後の問題は、どれだけココに居るべきか。

 返信には帰還を指示する文は一切無かった。


 まだ、ココに居て何かを探らなくてはいけない。


「小さいノック、誰だろう」


「僕が見てきますね」


 ドアを開けると、泣きながら立ち尽くす、青いベールを被った鈴木さんが1人。

 向かい側ではアンリさんがコチラを見ていた。


『先程、イナンヌ達に連れて来られたみたいです』

「そうですか、どうも。どうぞ」


 部屋に招き入れると、神様との婚姻が成立したのだ、と。


「けど、今日はココに居て良いって、けど、ココに居たら、家族としてみなされちゃう。けど」

「大丈夫、もう家族にさせられたから」


「ぅう、本当なんだ、ごめんね、嫌だよね」

「大丈夫、仕事だから」


「ごめんね」


「大丈夫、うん、エルヒムに会いに行ってくる」

「紫苑さん」


「虎穴に入らずんば、郷に入ったんだし、アンリちゃんも連れてくから大丈夫」


 ココで中途半端にすれば長くなる、この地獄から抜け出すには覚悟が必要。

 例えもっと酷い事が起きても、もう進むしかない。


「はい」


 そうして僕らはリリスさんにカインさん、そして鈴木さんと一緒に部屋で過ごす事にした。




 挙動を読まれてるのか、廊下に出るとイナンヌがニコニコと迎えに来た。

 どうにかして後で死んで貰おう。


《神様がお呼びです》


 そう言われ案内されたのは、礼拝堂。

 そこで白いベールを掛けられた。


『何を』

《何って、いつも通り、神様との結婚式ですよ》


『そんな』


 ベールを引き剥がそうとするアンリちゃんを、ちょっと前に会った訓練場の隊長が抑え付けた。


《部屋の前にも配備させてますから、抗わないで下さいね》


 無言のままに壇上へ進み、無言のままに式が終わるのを待とうとしたのだが。

 エルヒムの手に手を乗せさせられ、誓いの言葉か何かを復唱させられた。

 向こうに戻れば、こんな事に意味は無いのに。


《では、婚礼の儀を終了します》


 人々が、出て行き。

 ルトも去った。

 残されたのは泣き崩れるアンリちゃん、そしてイナンヌ達とエルヒム。


『神様どうして』

《では、行こうか》


 手を引かれ、椅子の後方に現れた地下への入口へ進む。


 長い螺旋階段を降りる。

 明らかに時代も何もかもが不釣り合い、そして降っている途中に上の入口が閉まった。


 一段と空気が変わる、結界の種類が増えたのかも知れない。


「ほいで」

《ごめんね、けどマサコならきっと、打ちのめされてただろうから、助かるよ》


「どこまでが計画ですか」

《最初から、怪物を送り込んだ事も、全て。何回もシミュレーションしたんだ、そうしてやっと成功の道筋が見えた》


「何の成功ですか」

《方舟の。ココが本来の神都の姿、方舟の上に我々は居るんだよ》


 オレンジ色の非常灯が付き、内部が照らされた。

 明らかに近代的、寧ろソレを通り越した設備。


「アクトゥリアン」

《残念だけど、魔法の結界の他にも電磁波を妨害する類のモノも稼働してる》


「クーロン、カールラ、ショナ」

《大丈夫、直ぐに開放するから、その時に報告してくれて構わないよ》


「そう。それで」

《もう飛び立てる余力が無いんだ。ココで、活かす為に使ってしまったから》


「そう。で」

《ココなら私は彼女達のコントロールから逃れられるんだ、だからココまでする必要が有った》


「彼女達、とは」

《イナンヌやリェヴィカ、スァリャィ、彼女達は精霊。僕の本体を紹介するよ》


 みっしりと均等に設置された水槽の1つ1つに脳が入って、コードに繋がれている。

 そのコードは、神様そっくりな人間の水槽へと繋がっている。


「コレを殺せば良いですかね」

《コレはコピー品、クローン。そしてこの脳達は、私が召し上げさせられた転生者の脳、まだ他にも教えたい事があるんだ、良いかな》


「どうぞ」

《向こうの水槽は、魔素を自然発生させられる人間の水槽。神都の半分を補ってる、君と同じ性質持ちだよ》


「あぁ」

《年々数が減ってね、もう保つのも難しくてね。繁殖の為にも花を改良して、量産した》


「そう」

《僕のはコレだけを救って欲しい。あぁ使節団員は何も知らないし良い子だから、責めないで欲しい。全て私が脅したと言う事になってるから》


「僕のは、とは」

《ココには大地に眠る神が居る。イナンヌ達の感知出来ない神、アマルテイアの名を、外で口に出して欲しい》


「でなければ」

《君達まで危うくなるだろうね》


「そう」

《じゃあ、戻ろうか》




 紫苑さんが戻って来ると、そのままテラスへ。


「アマルテイア」


 そう言葉を発すると、そのまま気を失ってしまった。


『シオン様!』


 アンリさんも居たから何とかなったけれど、こう、女性体の不便さを初めて感じたかも知れない。


「紫苑」

「バイタルチェックをしますので、ベッドまでお願い出来ますか」

『カイン』


 カインさんが頷くと、紫苑さんをベッドへ運んでくれた。


 そして計測すると、魔素が酷く消費され続けているのが分かった。

 急いで魔石を額へ押し付けるが、少し数値が上がったかと思うと、また数値が下がっていく。

 

「浴槽へ」


 浴槽へエリクサーを流し込み、紫苑さんの額へ魔石を宛てがい、浴槽へ。

 何個も何個も宛てがっては、浴槽へ魔石を落とす。

 けれどもエリクサーが蒸発し、また紫苑さんの体が露出していく。


「私、何か手伝いたい」

「じゃあ、コレを、額へお願いします」

『私は何を』


「コレを、溢れない様に継ぎ足して下さい」


 そうして次には点滴をして、経口摂取用の管を通して。




 紫苑は元気で戻って来たのに、管に繋がれて、呼吸も浅くて少なくて。

 痛みにも、呼び掛けにも反応は無し。

 おばあちゃんが亡くなる前みたいに冷たくて、静かで。


 足しても足しても魔素が紫苑に吸収されて、それなのに紫苑の魔素は溜まらない。

 ショウコちゃんは何も言わないけど、コレは、今にも死にそうになってる。


「ショウコちゃん、呼び掛けて、呼び戻して」


「桜木さん、起きて下さい、もう時間ですよ」






 いやー、どうしたって殆ど変わらないの凄いな、エルヒムちゃん。


 けど、ハナちゃんコレ死なないかな。


「神よ」

『お、おタケどうしたの、俺の事?』


「あぁ、頼む、ハナを」

『神様だからって誰も彼もが万能じゃないんだよ、俺に出来る事って、()()()()()の』


 あ、何か、不味い事を言った気がする。

 それも凄く、不味い事。


「そう、か。だよな、すまない」

『まぁ、見守ろうよ、きっともう少しで今回のゴールの筈なんだから』


 あぁ、ヤバいな、どうしてこんな事を言っちゃったんだろ。

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